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貧乏学生の、と言うよりも、僕の冬の主食は「ほうじ茶」である。それも、葉ではなく、茎の部分をお茶にした「茎ほうじ茶」だ。


正直、冬は料理をしたくない。寒いから。

室温が0度を下回ろうと暖房を付けない主義(お金が無いから)なので、キッチンに立って優雅にクッキングなんてしている余裕はない。足元から順番に死んでしまいます、冗談抜きに。


冬の間、僕は基本的に4ヵ所をぐるぐると回る。布団の中、パソコンの前、学生控室、図書館だ。この場所は、パソコンの前を除いて基本的には温かい。そして僕の部屋の、パソコンが置いてある机の下には、冬の間発泡スチロールの箱が設置される。サイズは60×40センチメートルくらいで、ちょうど足が入る大きさだ。これにお湯を入れて簡易足湯にすると、凍えずに済むのだ。使うお湯の量も高が知れているので光熱費もかからない。


さて、お茶の話だ。

僕がほうじ茶を飲むのは主に、パソコンをしている時である。

1.5リットルの保温ボトル一杯にほうじ茶を入れて、それを手元に置いておく。

お腹が減ったらまず一杯、喉が乾いたらもう一杯、体が冷えたら温まるまでがぶがぶ飲もう。

空腹が最大限に達したら、「かーさんケット」なる商品名のビスケットを一枚、二枚食べる。シンプルな味で、割かしぱさぱさしているけど、これがまたお茶と合うのだ。

ビスケットを咀嚼して乾燥してしまった口の中を洗い流すために、お茶を一口。水を得てふやけたビスケットの残滓とお茶自体の甘さが相まって、何とも美味しい。絶対的には美味しくなくとも、相対的には美味しく感じられる。


何故、ほうじ茶を、それも茎のやつを好んで飲んでいるのかと言えば、ただ単純に旨いからだ。

最初はカフェインレスで水分補給に適しているからという理由で、普通の(葉の)ほうじ茶を飲んでいた。あるとき、なんのはずみかちょっと贅沢してみようと思って(多分バイト代がたくさん入ったとかそんな理由だった)、普段より少し高いほうじ茶を購入、それが「茎ほうじ茶」との出会いだ。今思えば、ちょっと贅沢しようと思ってお茶を買う辺り、大分侘しい感じだが、一袋800円以上するお茶を買うのは当時相当勇気が必要だった。


茎ほうじ茶は甘い。

砂糖のように味覚的に甘いのではなく、香りが甘い。飲んだ瞬間身体に満ちる充実感を描写するなら、「甘い」と言う言葉以外当てはまらないだろう。そうそうこれこれ、これが欲しかったんだよ、とつい言いたくなってしまうのだ。

茎ほうじ茶をポットから茶碗に注いだ時、キャラメルのような甘い香りがふわっと広がる。その時ばかりは、金欠ですさんだ心も、冷え切ってしまった部屋もなんだか少し暖かく感じられるのだ。しかしその甘さも、茶碗を口まで運ぶ間に消えて無くなってしまう。

恐らく、鼻が匂いに慣れてしまうのだろう。

お茶に口を付ける時点では、既にお茶のにおいしかせず、あんなに甘美だった香りはもしかしたら嘘だったんじゃないかとさえ思ってしまう。砂糖だと思ったら、人工甘味料だった時みたいななんだか、まがい物っぽい、物足りない気持ち。

お茶を一口二口すすって、んふぅ、と鼻から息を吐き出す時、また甘い香りが蘇る。こんなところに居てくれたのね、と嬉しくなってしまうのよ。思わずおねえ言葉になってしまうくらいなの。


そんなふうにして、「お腹ではなく、心を見たそうキャンペーン」を実施しながら、だましだまし生きていくのが貧乏学生の冬だ。


お腹が減ってきたので以上。


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