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二人が集会場に到着した時には、同僚や後輩、先輩などがもうあらかた
揃っていた。どうやら自分達が最後だったらしい。申し訳なく思い、
こそこそと、一番後ろに二人して並ぶ。それから2分程で、
上官が煙草を吸いながら入ってきた。少しぼさついた頭を梳きながら
全員がいることを目視で確認する。この上官、身なりはアレだが、
やり手であると同時に、部下一人一人をちゃんと見て家族の様に接して
くれると評判の下界人に見習って欲しいほどの逸材だ。
「うーし、集会始めるぞー」
間延びした声にその場の全員が応答する。その声に上官は、
満足気に頷いた。元気があってよろしい、と。もう死んでいるので
元気もくそもないが。
「今日も、一日頑張ってくれ・・・とその前に、皆喜べ。新しいのが
ここに配属された。新人一人と転属二人だ」
途端にざわめきだす死神達。それはそうだろう。この百年と数年間、
新たな人材が来た例がなかったからだ。理由として挙げるならば、
大抵、新人は死者の激戦区域に流されてしまう為、である。
更に、転属もこれまた稀だ。余程のことがない限り転属は原則として
認められていないからだ。相当のベテラン等でないと転属できない。
「三人とも入ってくれ」
上官が扉に向かって声かける。待ってましたとばかりに、開かれ、
黒い正装の三人が入室してきた。三人が一列に並んだ所で、
上官が自己紹介するよう進めた。
「皆さん、初めまして。新人のセレーネと申しますわ。
夜のお相手を探しているなら私を誘って下さいませ❤」
茶色の髪をかき上げて腰をくねらせるセレーネはエメラルドの瞳を
片方だけ瞬かせた。年の功は20代前半か半ば・・といった所か。
隣の紺色の髪を持つ少年がその仕草に嫌そうな視線を向ける。
「ロコ・・・。ボクは・・・ロコ・ラガッツォ。前は・・・シノと
一緒のところにいた。他は特になし」
灰褐色の目を溜息と共に閉じながら端的に言う。
年は・・・シヅキと同い年か一つ二つ年下に見えた。
「シノ・アーデルハイト。ロコと同じ場所からの転属」
そして最も小柄な人物が喋った。黒く細い長髪に映える左側頭部の三つ編み
メッシュ。半分閉じがちの紅い瞳は気怠そうだ。ここまで見て、
シヅキとドレイクはあっと気づいた。先程ぶつかった挙句、転ばせてしまった
あの子であった。見覚えがないはずだ。今日配属されたのだから。
まだまだ幼さがくっきり残る顔からして10代前半だと推測できる。
「ん、ありがとさん。さて、今回も二人一組で行ってくれ。新人はー・・
そうだな、シヅキ!ドレイク!シノとロコを見てやってくれ。
セレーネはおれと一緒に来るように、以上解散!!」
上官がセレーネと出て行った瞬間、周りが騒ぎだした。
この光景は…あれだ。転校生が入ってきた学校に通ずる。
「ひゃー…ちっこい子が入ってきたなぁ…」
「これからもよろしくなー」
「ってか随分若くね?」
「死因はなんだ?」
「享年は―?」
皆矢継ぎ早に質問してくる。これもよくある光景だ。
「はいはい、お前らそのくらいそのくらい。二人共困ってんだろ?」
ドレイクが手をパンパン叩きながら苦笑する。
自分はもう何百年のベテランだがこいつらはまだひよっこも同然。
興奮を抑えきれないのも分かるがまずは挨拶からである。
「えーと、オレはドレイク・レミーだ。こっちの堅そうなのが、
シヅキ・パーシヴァル。よろしくな!」
「堅そうは余計だ!!」
シヅキの非難を無視して二人に微笑みかける。
「・・・さっき、ぶつかった人達だ」
シノが淡々とした声色で紡ぐ。
「良かったな。シヅキ。お前のこと覚えてるぞ」
「半分はお前のせいだろーが!!」
「・・・・・・・シノ、どういう事?ぶつかったって、何?」
きゅっとクマのぬいぐるみでも抱くようにシノを抱きながら、
冷気を宿した声で問う。
「言葉通りの意味。それ以上でもそれ以下でもない」
「・・・・ふぅん・・・ボクのシノに触ったんだ・・・」
冷気から絶対零度にまで声温が下がった。