ヒカリの魔法講座②
「マナミ、盗賊さんがサトミさんの実習で全滅する前に、マナミも早く参加しよう。」
「ヒカリちゃん、いくら私でも、この人数は、すぐに終わらないよ!まだまだ魔法の出力も安定していないんだから。」
「何を仰りますか。すでに属性の違う水球を、3つも出せれているのに。さすがはサトミさんです。この中では、私に次いで魔法の才能があるんじゃないんですか。」
実際、魔力量からみても、ヒカリの次がサトミであり、その次にタケシが続いている。普段からカランとダーカル近郊の別荘にある水槽を、常時繋げていても有り余る魔力を保有しているのだ。
「マナミ、あなたに教える魔法はこれよ。
天空を焦がす紅蓮の炎、大地を這う煉獄の炎
死せる御霊は漆黒の焔となり、生なる御霊は狐火となる
穿つ炎鎖となり我が天敵を撃ち据えろ
煉獄放射裂弾」
前に掲げたヒカリの右手からは、真っ赤な炎と、青白い炎と、真っ黒な炎が、蜷局を巻いて現れる。その炎は、まるで意志があるかのように、目の前にいる盗賊3人に向かっていった。炎が盗賊を包み込み、消し炭も残らないほどに焼き付きした。あとに残ったのは、大地に残る焦げ跡だけ。
「マナミ、サトミさんに盗賊さんを取られないうちに、練習しましょう。」
50人近くの大所帯で、ヒカリたちを取り囲んでいた盗賊は、既に半分近くがサトミの練習台となって、命を狩り取られていた。サトミとマナミの練習台となった盗賊団は、程なくして全滅する。
「リョウコとタケシは、少し難易度が上がるからそのつもりでいてね。まずはリョウコが覚える魔法はこれよ。
風は大地か駆け、天空に一陣の嵐を産む
風雷は天地を駆け抜け、大地に慈悲無き天罰を下す
されどその傍らには、大地を再生し新たな命を芽吹く
台風作成陣」
遥か前方に現れたのは、蜷局を巻いて地面に降り立つ一筋の竜巻。竜巻は、周りの雲や近くの湖から大量の水を吸い込んで巨大化し、小さな台風を作り出した。小さいをいってっも、遥か数十キロ先に台風の目があるにも拘らず、ヒカリたちのいる場所まで強風が吹き荒れていた。台風は、ヒカリが示す方向に向けて、ゆっくりを進んでいく。進路上には何か大きな町が見えている。ヒカリは、自身の魔力のみで、大自然の驚異『台風』を作ってしまったのだ。
「あれは、魔力で作り出した台風よ。流し込んだ魔力が無くならない限り、何処まででも進んでいくの。今回はあまり魔力を流し込んでいないから、進路上の町を飲み込んで暫く進めば消えると思うけど。まあ、小さいと言っても、『伊勢湾台風』並みの破壊力は持っているわよ。」
そうこうしているうちに、ヒカリが作り出した台風は、進路上の町を飲み込んでいく。めったに雨すら降らないこの浮遊大陸で、嵐なぞ遭遇したことのない住民は、いきなり襲ってきた台風に慌てふためいている事だろう。リョウコ自身、台風を造れるとは思ってもなかったが、目の前でヒカリが実際に作って見せたことで、頑張って魔法の練習をしてみる。この魔法が使えるようになれば、水不足に悩んでいる人たちの手助けにはなるだろう。
「次ははタケシね。タケシには、これ。闇魔法と空間魔法をミックスした魔法を教えるから。まずはタケシの事だから、この魔法はすでにマスターしているわね。」
ヒカリが、自身の足元の影に剣を突き刺すと、その剣先がヒカリの胸の先に現れた。
「闇魔法ではおなじみのこの魔法、タケシはすでにやっていると思うけど、どう?」
ヒカリは、確信に近い問いを、タケシに投げかけた。
「闇属性持ちなら、その魔法はマスターすべき魔法だからな。真っ先に覚えたぞ。」
タケシは、実演しながらヒカリの問いに答えた。
「タケシが覚える魔法は、闇魔法『影通し』の発展型である『影跳躍』。その気になれば、術者本人すらも渡ることが出来る。」
ヒカリは自身の影に突き刺した剣を、タケシの首筋に出現させた。ヒカリとタケシの距離は、10メートルほど離れており、影を通して物体を送る事は出来ない距離だ。
「タケシが今実演している闇魔法に、空間魔法を組み合わせる事によって、出来る魔法の1つよ。これを発展させれば、こんなこともできる。」
今度はタケシの全方位に、ヒカリが持っている剣先が現れた。ヒカリは、1振りしか剣を影に突き刺したいないのにだ。
タケシも元に歩いてきたヒカリは、剣を終うとタケシに詠唱を教えた。
「詠唱はこうよ。
光と闇は表裏、闇の眷属たる影よ
光遮る闇に穿ち、光差す影に闇を通す
天空にも大地に広がる普遍なる道標
空間を跨ぐ一筋の光となれ
影跳躍」
タケシが必死になって、影跳躍」をマスターし始めた。
ついでヒカリは、ノリコの下に歩いていく。
「ノリコにも一応考えているけれど、まだ精霊との意思疎通がうまくいっていないから、大規模魔法を覚えるのは危険なの。それでも覚えてみる?」
「今回はやめておくわ。その代わりに、ヒカリさん。精霊魔法の訓練に付き合ってくれない?」
「いいわよ。」
ヒカリはノリコの訓練に付き合う事に了承し、皆と少し離れた場所で訓練を始めた。
「大分と精霊との意思疎通が、うまくなってきたじゃない。でも、とっさのときの対処が、まだなっていないわね。」
「そんなと言いますがヒカリさん、私の攻撃、すべて躱した挙句、攻撃を仕掛けてくるんだもん。私は6体の大精霊を駆使して、ヒカリさんを倒そうとしているのに…。」
ノリコは、悔しそうにヒカリを睨んだ。
「大精霊はノリコに味方しているんだから、単純にスペックの差だけだよ。」
夕方になって、魔法の訓練は終了した。
「さあ、ノリコ。最後の仕事よ。ここに持ってきたモノをすべてを、元在った部屋に戻すのよ。元合った位置の戻っていれば、瞬間転移については及第点をあげてもいいわよ。」
ヒカリたちは、ここに来た時と同様に、イスに腰かけた。ノリコはしっかりとイメージをする。
「瞬間転移」
昼食を食べた部屋に、ヒカリたちが瞬間転移してくる。ノリコは薄っすらと目を開け、現状を確認した。まずは瞬間転移してきた人数からだ。自分を含めて7人全員揃っている。ヒカリさんたちは、自分を含めしっかりとイスに腰掛け、テーブルを囲んでいた。テーブルの上には、昼食時に見た食器がそのままに残っている。瞬間転移は、大成功したみたいだ。
「ノリコ、合格よ。」
ヒカリの一言に、ノリコは破顔した。壁際に控えていた侍女たちが、すぐさまテーブルの上を整えて夕食の準備を始めた。
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ヒカリたちが楽しく夕食を摂っている頃、ヒカリの作り出した台風が直撃した町。壊滅した町では、住民が総出で後片付けをしていた。町の水路からは水が溢れ、建物内に流れ込んできている。普段ほとんど雨すら降らない街は、乾燥させただけの日干し煉瓦で建物が造れれたいたため、建物が軒並み倒壊した。
町を統治している行政府は、すぐさま調査委員会を設置し、今回突然襲ってきた嵐について、詳しく調査をした。しかし判明した事実は、町から離れた湖の上で、突然雲が蜷局を巻きながら発達し、町を襲ったという事実だけ。嵐は、町から100キロくらい離れた場所で、突然消滅したらしい。何故、湖の上で突然嵐が起こったのか、町を通過した後、突然消滅したのはなぜか。
何一つ解らないまま、この嵐の事は、町の復興のために忘れ去られていった。しかし、この先1ヶ月の間、大陸の各地で似たような被害が頻発する事になる。しかし、横の繋がりがほとんどない大陸内の町は、一連の自然現象?についての対処を見いだせる事はなかった。