ノリコと精霊魔法
「風の大精霊よ、我の意志に従い彼の者を拘束せよ。」
ノリコが風の大精霊にお願いすると、目の前にいた盗賊15人が、不可視の檻に捕われた。
「だんだんと精霊魔法の行使がうまくなってきたな、ノリコ。」
タケルが嬉しそうにノリコの成長を褒める。
「町を出るたびに、盗賊が襲ってくるなんて、なんて運が悪いんだろうね。」
ヒトミがうんざりするように呟いた。それに、サトヒサが追随する。
「魔物ならまだ、素材を売れば懐が温まるのに、こいつらは、あまり懐が温まることがないしね。それに、こいつらだと、ノリコの訓練が出来ないからね。」
「それはそうと、お前たちは、これで全員か?仲間がいるなら今すぐ答えろ。」
風の檻の中にいる盗賊に、タケルが剣を突きつけて、アジトなどを吐かせる作業に入った。
「そんな脅しで俺たちが吐くとでも思っているなら、幼稚な…!!」
リーダーらしき盗賊が、癪に障る事を言ってきたので、ノリコは、適当に選んだ盗賊の首を刎ね、胴体を火の精霊の頼んで灰にした。灰になった胴体の上に、首だけになった盗賊の一人が、音もなく落ちる。
「もう一度聞くけど、これで全員?」
今起こった出来事を、一瞥しただけでタケルは、最後通告を突きつける。
「…ここから1時間ほど東に行った洞窟に、俺たちのアジトがあった、そこにまだ仲間が20人ほどいる。」
「けっこう大きな盗賊団なんだね。情報有難う。それでは、死んでください。」
タケルが、死亡宣告を出して、突きつけていた剣をしまった。盗賊たちは、風の刃で切り刻まれて命を狩られた。すべて精霊魔法で行われた処刑は、血の匂いすらに越さない完璧なものだ。
「血の匂いすら残さずにやるとは、成長したな。少し休憩をしておいてください。俺とノリコで、盗賊団を殲滅してきます。」
タケルは、商隊の隊長格の商人に確認をとると、ノリコとともに盗賊団の殲滅に向かった。
ヒカリとタケシが、暫くの間忙しく纏った時間が取れないため、今タケルたちは、カランからあまり離れないように、ギルドの依頼を受けている。今回受けた依頼は、カランからケルンへと向かう商隊の護衛だ。カランからケルンへと向かう街道は、たくさんの商隊が往来しているため、いろいろな物資出あふれている。そのため、それを狙う盗賊が蔓延っているため、護衛の依頼は多い。また、森の中を通過する街道のため、魔物との遭遇確率も飛躍的に高まるのだ。
タケルたちが、わざわざこのルートを選んでいるのは、ノリコの精霊魔法の訓練のためだ。それなのに、出会う敵は盗賊ばかりで、あまり良い訓練相手だとは言えない状態なのだ。
「これでも、毎回違う属性で拘束しているんだよ。まあ、森の中だから、火属性については使ってないけど。それに、これでも使用する精霊も、下位の精霊でよくなってきているし。前なら何でもかんでも、大精霊を呼んでいたからね。」
ノリコが、苦笑しながら答えている。
「何にしてもだ。今日を乗り切れば、ケルンまではあと半日の距離だ。最後の野営だから、気を引き締めていこう。」
タケルが、夕暮れの空を見ながら皆の気を引き締める。暫く進むと、野営地に到着した。ノリコは、風の大精霊に頼んで、結界を野営地全体に張る。
日付が変わる頃、野営地に魔物の大群が襲ってくる。ノリコの精霊魔法による広域探知魔法で、魔物の襲撃を事前に察知していたメンバーは、慌てずに対処に当たっていた。全方位から襲ってくる魔物は、ノリコの張った結界に阻まれて、商隊に近づくことが出来ずにいる。
結界にを破ろうと四苦八苦している魔物の中には、素材が高く売れる魔物もいるため、ただ切り刻んで殲滅するわけにもいかない。ノリコは、どうしようかを考えを巡らせている。そして、ふとヒカリが話していたことを思い出した。
「魔物の命だけを刈り取るのなら、光属性か闇属性の魔法を使うといいよ。光と闇は、生き物の命だけを刈り取ることが出来、素材になる体や骨などは傷つくことなく、無傷で捕獲する事が出来るの。」
ヒカリは、たしかそんな事を言っていた。ノリコは、光の大精霊を呼び出すと、魔物の命だけを刈り取るように念じる。直後、光の大精霊の躰が一際輝くと、結界の外にいた魔物がすべて地に伏せていた。魔物の命はすでになく、そこにあるのは、ただの骸だけだった。ノリコは、ヒカリから教えてもらった闇魔法『闇の倉庫』に、魔物の死体をすべて入れた。今回の依頼で初めてであった魔物は、精霊魔法の前に呆気なく滅んだ。
ケルンからの帰り道は、護衛依頼を受けずに、精霊魔法による高速移動を実践する事にする。
「風の大精霊よ、我等に風を纏い風となってカランに運べ。」
ノリコが唱えた詠唱により、4人の体が風に包まれる。4人はふわりと空高く浮くと、風に身を任せるように大空を舞っていく。そして、数時間で、ケルンからカランまでを移動した。
話の矛盾点を修正しつつ、加筆しています。