マナミの結婚式①
最近のマナミは、少しおかしい。10日に1回、カエデテラスにある『火の大神殿』に顔を出すだけでいいのに、ここ3ケ月ほどは、ほとんど毎日カエデテラスに入り浸っている。と言うか、カランにいる日の方が少ないくらいだ。
カエデテラスにいる際の寝床は、もちろん鷺宮商会カエデテラス支店だ。おかげで支店長のコトリからは、毎日、愚痴の嵐の手紙が届いている。手紙の内容を要約すると、
「マナミ姉さんのオノノケ話を、毎晩聞いてると、こちらに気が参ってしまいます。早く結婚させてください。そうしないと、私の『愛の巣』が、マナミ姉さんに浸食されてしまいます。」
この文面でも分かるように、コトリはすでに結婚している。コトリは、カエデテラスの支店長として赴任した時、当時支店開設時、現地で雇っていた鉱石鑑定士見習いの青年と恋に落ちた。そして、2ケ月の交際期間を経て、見事にゴールインしたのだ。今は、その青年と、支店の敷地内にある支店長宅で、一緒に暮らしているはずだ。まさか、マナミは『コトリの愛の巣』に毎晩お邪魔しているのだろうか。
話はそれたが、コトリに続き、マナミもどうやらカエデテラスで男をゲットしたらしい。コトリからの手紙を読みながら、そんな事を考えていると、件の人物が帰ってきたと、トーマスから連絡があった。私は、トーマスに、応接間」にマナミを連れてきてもらうと、たまたま暇を持て余していたサトミさんを捕まえて、応接間へと歩いていく。道すがらに、コトリからの手紙を見せ、大体の状況を話していった。サトミが少し黒い笑顔のなったのを、見過ごすヒカリではなかったが、これから行おうとしている事を理解していると受け取り、この場は見ないふりをした。
「マナミ、久しぶりだね。元気してた~?」
マナミの前に腰掛けた私は、開口一番こう挨拶した。
「お久しぶり?です。ヒカリちゃん、サトミさん。今日はどうして私はここに通されたんですか?」
マナミは、半月ぶりに鷺宮家に帰ってきたのだが、何故か今日に限って応接間で待つように、執事のトーマスに言われた。疑問に思いながらも応接間で待っていると、登場したのがヒカリとサトミだった。出されたコーヒーをちびちびと飲んでいたマナミ。
「そういえば、マナミちゃん、最近カエデテラスの方に入り浸っているみたいだけど、何かあったの?まさか、彼氏でもできたのかな。」
サトミが、絶妙のタイミングで爆弾を投げかけた。マナミは、口の中に入れていたコーヒーを、思い切りぶちまけた。
「な!何故、サトミさんがそのことを知っているんですか!?あっ!」
マナミは、自分から自白してしまった事に気付き、顔を真っ赤に染める。
「あらあら、自分から白状しちゃうなんて、マナミちゃんたら、案外こういう事には慣れていないみたいね。」
「サトミさん、あまりマナミを苛めないでください。マナミは地球では、今宮家で働いていたけれど、私やリョウコのように、交渉事にはあまり参加していないのですから。」
「そうだったの?ごめんね。いつもヒカリちゃんと一緒だったと聞いていたから、いろいろな場面に場馴れしていると思っていたのよ。」
「まあいいです。それはそうと、マナミ。相手の彼氏は、どこの誰なの?」
ヒカリとサトミの尋問が始まった。マナミは、容疑者として追い詰められたのを悟ると、素直に白状する。
「…実は、相手の彼氏は、カエデテラスの領主、ヘリシア=トランシア様のご長男、シエスタ様なんです。」
「シエスタ様のお年は?」
サトミが相手の年齢を聞いた。
「私の3つ上ですから、22歳ですね。」
「領主と言うと、コロラド王国の公爵家ですね。それで、相手のご家族は、私たちの事を何処まで知っているのですか?後、どのように知り合ったのですか?」
ヒカリは、相手の家族が、鷺宮家について何処まで知っているのか気になった。マナミは、素直に答える。
「最初に出会ったのは、7月の神事の時です。その時は、お互い顔見世程度で何もなかったんですが、10日に1回ある神事に必ずお見えになり、気になる存在になっていったんです。そして少しずつ話すようになっていき、2ケ月ほど前に、シエスタ様から告白されました。
ヒカリさんが、『自由恋愛推奨』なので、2つ返事でOKしてしまいました。
シエスタ様や、お父上のヘリシア様は、私が『火の神子』であることは、火の大神殿の神事を行っているので既にご存知です。そして、『鷺宮家』に対してもご存じみたいでした。」
「て事は、私の事も知っているのですね。」
「はい、鷺宮家の『誰』が、『どの龍神の神子』であるのかも、すべてご存知です。ヒカリさんの恋愛観については、私が話すまでは知らなかったみたいですが、権力を振りかざすだけのおバカな貴族が嫌いな事は、知っていました。」
「OKしたってことは、マナミは、シエスタ様と結婚したいのね。」
「はい、結婚したいです。」
「マナミは、公爵家に嫁ぐという意味は理解しているのよね。」
「はい、理解しています。私が『火の神子』であり、シエスタ様が『カエデテラスを収める公爵家』である事で、これから先起こるであろう問題も、理解しているつもりです。」
「サトミさんもいいわね。」
「…、マナミちゃんが好きになった相手ですもの。私は大歓迎よ。」
ヒカリの問いかけに、サトミは簡潔に答えた。それを聴いて、ヒカリは、マナミに言った。
「まずは、私とサトミさんで、シエスタ様に会いに行きましょう。そうね、相手の都合もあるから、来週中にでも時間を作るようにしましょう。そのように相手のご家族に話しておいてください。移動時間は考慮に入れなくてもいいですよ。カエデテラスにある支店の転移ゲートを使っていいから、相手の都合のいい日時にいらっしゃい。
それから、結婚式は、カエデテラスの火の大神殿で行う事になるから、そのつもりでいてくれる。」
「わかった。シエスタ様に言って、来週中に会う段取りをつけておく。日程が決まったら連絡します。
それはそうと、何故カエデテラスの火の大神殿なんですか?私の結婚式は?」
「それはね。あなたが『火の神子』だからよ。すでに結婚してしまっているサトミさんやケンジとは違って、マナミとリョウコはまだ結婚していない。だから結婚式を挙げるなら、属性を司る大神殿で挙げるのが、私たち神子としての務めなのよ。
私とタケシの時は、いろいろな理由があるけれど、一番大きな理由は、私が『光の神子』だから。私は、この世のすべての神々の王、光龍の名代であり、代行者であり、契約者。当然それは、『龍神の神子』同士でも、序列のように存在している。だから私とタケシの結婚式が、『闇の大神殿』ではなく、『光の大神殿』で行われたのは当然の結果。
…話はそれたけど、マナミの結婚相手と会うのを、私とサトミさんは、とても楽しみにしているから。」
それから3日後の日曜日、マナミは、結婚相手のシエスタ様とご両親を連れて、カランの鷺宮邸を訪れた。先に応接間に通されたマナミと相手の家族。マナミは、薄く白い布を何枚も重ね、幅の広い赤の帯を巻き付けたドレス姿。
「マナミ、本当に、『光の神子』様と『水の神子』様が、私どもにお会いになりたいを言われたのか?」
「はい、先週私が、1度ここに戻った時に、私の結婚相手を見てみたいと、ヒカリ…光の神子様が話されて、今日のこの席が設けられました。」
シエスタたちは、とても緊張していた。神々の序列で、最高位に属する光龍様。その代行者である『光の神子』様からの招きである。公爵の地位にいる者ならば、その意味を知らない者はいなかった。暫くマナミとの会話で、緊張を解していた一行だが、応接間の扉が開かれて、最高潮に緊張する事になる。応接間に現れたのは、初めから面会の予定があったヒカリとサトミのほか、タカヒロとダイゴロウ、そしてタケシがいたのだ。ヒカリとサトミは、お揃いの青いドレス。
「お待たせして申し訳ありません。本日は、突然の呼び出しに応じていただいて、誠にありがとうございます。」
ヒカリは、軽くお辞儀をして挨拶をした。マナミたちは、一度立ち上がり挨拶を交わす。
「いえ、こちらこそ。光の神子様と、お会いするのを楽しみにしておりました。まずは、私どもから自己紹介をさせていただきます。まずはマナミさんと婚約をしました長男のシエスタ=トランシアです。」
シエスタは、1歩前に出て、右手を胸に添えると、軽く会釈をすると一言添えた。
「鷺宮マナミさんと婚約をしました、シエスタ=トランシアと申します。本日は、私のためにこのような席を設けていただきありがとうございます。」
シエスタは、元の位置に戻る。隣には、何故かガチガチに緊張しているマナミがいた。
「続いては、シエスタの妹である、ヘレン=トランシアです。ヘレン、神子様にご挨拶しなさい。」
母親の陰に隠れて固まっている少女が、父親に背中を押されて1歩前に出ると、ドレスの両端を軽く摘み、令嬢の挨拶をする。
「ごっ!ご紹介に預かりました、ヘレンと申します。と、歳は10歳です!よ、兄を、よろしくお願いしまちゅ!」
ガチガチに緊張しているのか、いろいろとおかしな挨拶をするヘレン。そして元の位置に戻る事も忘れて、母親に背中を引かれる。いろいろと失敗して事を気付き、ヘレンは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「私の隣にいるのが、妻のアイナ=トランシア、そして、私が、カエデテラスの領主を務めておりますヘリシア=トランシアです。本日は、お招きいただきありがとうございます。」
最後に夫婦で1歩前に出ると、軽く会釈をして元の位置に戻った。次に、ヒカリが鷺宮家の自己紹介をした。
「まずは、本日の主役のような存在の、鷺宮マナミ。」
シエスタの隣にいたマナミは、いきなりヒカリから呼ばれて驚くが、ドレスの恥をつまんでお辞儀をする。
「次に、私とマナミの祖父である鷺宮タカヒロ。その隣が、父である鷺宮ダイゴロウです。」
タカヒロとダイゴロウは、揃って前に出ると、右手を胸に添えて軽くお辞儀をして、元に位置に戻る。
「私の右にいるのが、『闇の神子』であり私の夫である鷺宮タケシ、左にいるのが、『水の神子』である鷺宮サトミ。そして、私が、『光の神子』である鷺宮ヒカリです。本日は私からの招きに応じていただき、有難うございます。」
ヒカリたちは、その場で軽くお辞儀をすると、席に座るように勧めた。
「今日はただ、マナミのお相手であるシエスタ様を拝見したくて、わざわざこの席を設けたのです。ついでにマナミが嫁ぐ公爵家にも、少し興味が湧きまして。」
ヒカリの爆弾発言から、マナミとシエスタを中心に、いろいろな話を進めていく。他愛もない雑談から、結婚式の日取りに至るまで、30分ほど会話を交わした後、サトミがマナミとシエスタに話を振った。
「マナミちゃん、2人で少し外を散歩してきなさい。」
主役2人を追い出したサトミは、ご両親に問いかけます。
「そういえば、今晩泊まる所はお決まりですか?」
「いえ、何分『転移ゲート』でしたか。カエデテラスからここまで一瞬で来て、すぐさまこちらの応接間に通されましたので、まだこれからの予定は、何も決めておりません。折角カランに来たのですから、少しばかりの観光と、こちらの領主であるカトリア様と、会談を組みたいを思っている次第です。しかし、私どもは、カランの城門を通っておりません。なので、今カランに私がいる事は、誰も知られていないものと思います。」
「…それは確かに。ヒカリちゃん。」
「何ですか、サトミさん。」
話を聞き流しながら、お茶を飲んでいたヒカリに、サトミが話を振った。
「カトレア様に、ここに来るように言ってくれない?ヒカリちゃんなら出来るでしょう。」
「領主を呼びつけるんですか!まあ、私の名前を使えば、出来ない事もないですが。どんな理由で呼びつけるんですか?」
『出来ない事はない』と言ったヒカリに、ヘリシアは驚きを隠せなかった。
「そうね、呼び出す理由がいるわね。」
ヘルシアを無視して、ヒカリとサトミの話し合いは続いていく。そこに、タケシが話しかけた。
「ごめんな。ああなると結論が出るまで、周りの事が見えなくなるんだ。これを見てると、2人は『母娘』なんだなとしみじみ思うんだ。」
鷺宮家の男衆は、タケシの話に頷いている。
「失礼を承知でお尋ねしますが、鷺宮家は、『血の繋がらない義理の家族』ですよね?」
「はい、その通りです。私たち『鷺宮家』は、義理の家族です。詳しくは語りませんが、約2年半前、テラフォーリアに流れ着いた時に、たまたま一緒に行動していた者たちが、助け合って暮らしていく目的で家族になりました。ヒカリとサトミさんは、趣味の料理で仲良くなり今に至ります。何か、趣味だけでなく、思考も似たり寄ったりの所があるらしく、今のように何か悪戯みたいな事をやろうとする際は、2人してよく相談をしています。2人を見ていると、『義理の母娘』でも思考は似てしまうんだなと、しみじみと思いますよ。」
すると、それを聴いていたのか、ヒカリとサトミから、タケシに対して攻撃が飛んでくる。
「私とサトミさんが『似ている』って言ってたみたいだけど、タケシとお父様だって、いろいろと似ている所があるじゃない。」
「そうよ、ヒカリちゃんの言っている通りだわ。あなたたちだって、『似た者親子』じゃない。自分たちの事を、棚の上に挙げないでちょうだい。」
「そんな事よりも、カトレア様を呼び出す算段はついたのか?」
「タケシ~、矛先が悪い方向に向くと、すぐに逃げようとするところが、お父様に1番似ている所よ。
…まあいいわ。我が家の庭園が、春を迎えてきれいな花が咲き誇っているから、これを出汁に明日は、お花見を兼ねたお茶会を開こうと思うの。それにご招待する形でカトレア様と、ご家族を鷺宮家に呼びさす事に決めたわ。ヘリシア様も、そのお茶会にご招待するから、そこで会談を組むといいと思うけど、どうでしょうか?何かご予定でもあるようでしたら、急だけど、今日に持っていく事も出来ますが。」
「いや、明日は、これと言った予定入れていないから、光の神子様がいいならば、そちらのご予定に合わせます。」
「これから親戚になるのに、その呼び方は少し畏まっていて何か嫌です。私の事は『光の神子』ではなく、『ヒカリ』とお呼びください。それに合わせて、私たちの事は、名前で呼んでいただけると嬉しいです。後、客間を用意しますので、今日は我が家に泊って行ってください。」
「何から何まで、お迷惑をおかけします。」
「いいですよそんな事。お互い様です。結婚式の折りは、私たちがヘリシア様のお屋敷に留まらなくてはいけないですので。」
「確かに。光…、ヒカリ様方が結婚式にご出席なされれば、そういう事になりますな。」
暫く含み笑いをするヒカリとヘリシア。それを横目にタケシは、深い溜息をした。
「ではトーマス。先ほど話した通りに事を進めてください。」
「畏まりました。」




