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遭遇

駅を出た後、とりあえず昼食を取ることになった。そんなに使える金額は無いので、とりあえずファミレスに入った。テーブルの向かい側に座って、メニューを開いた。

「私は、サラダとグラタンにするわ。高橋君は?」

「僕は、とりあえずハンバーグセットで良いかな。」

「じゃあ、頼みましょう。」

 店員に注文を伝えた後、萩原さんが真剣な様子で話しかけてきた。

「例の中年女性が亡くなった場所は、現場保存されているから入れないわね。どうしたらいいと思う?」

 僕は頭を切り換えて考えた。警察が保存している現場に立ち入るのはもちろん、近づくだけでも職質の対象になりかねない。遠くから眺めてもいいが、それで何か分かるのか?「そうだ、展望台、例えば東京タワーの様な場所なら百円かそこらで動く望遠鏡があるだろ?それで観察すれば良いんじゃないかな?距離もそんなに離れて無いから、よく見えると思う。」

「それいいわね。そうしましょう。なら、皇居周辺と殺害現場を比べて、どういう点が違うか比べましょう。犯人が皇居周辺を犯行場所に選んでない理由が分かるかもしれないわ。」

 萩原さんがそう言い終えたところで食事が届いた。さすがに食べている時に話す訳にはいかないので、黙って食べることにする。

 すると突然、そう言えばあいつと飲食を共にしたことが無い事を思い出した。金銭が絡む事をお互いに嫌ったためだ。軍装品や防犯グッズを売っている店に付き合った事は有ったが、そのときはあいつが欲しい物を買っただけだ。

 そう言えば、あまりあいつの体に触れた事が無い気がする。お互いに、肉体的にでは無くメンタル的に付き合っていたのだ。毎日、彼女とは会って話していた。それも、現実にでは無く、オンラインゲームの中だった。しかし、話をしていることには事には変わりなかった。メンタル的にはそれで十分だったからだ。毎晩のように話したい事を文字でやりとりしていた。だが、そんな付き合いも長くは続かなかった。そう、進路が違ってしまったのである。それも、彼女の親にゲームや趣味の事がばれてしまい、一年間カウンセリングを受ける事になってしまったそうだ。別れを告げる手紙の中にはそのことだけが書かれていた。また会えると信じています、と言う言葉と共に。

 食べ終えた後に、バスで東京タワーに向かった。人はものすごく多かったが、かろうじて望遠鏡は確保できそうだった。

「私が見るわ。高橋君はどの方角か教えてくれる?」

「分かった。」

 ケータイの地図検索機能を使って調べる。

「えっと、あの高いビルのすぐ隣だ。」

「これって・・・。森みたいね。」

「ああ。森林公園って地図には書いてある。森の中にランニングコースが有るみたいだ。」 先生が殺された場所も地図に呼び出したが、ここからでは遠すぎた。ここよりも埼玉県の方がずっと近い。連続して犯行を重ねるにはあまりにも離れすぎている。公共交通機関を使っても一時間以上かかる距離だ。居場所をばれない様にするためか?

「それじゃあ、皇居周辺に行ってみましょう。」

 皇居周辺では、犯行は不可能だった。見通しが良く、街灯も多い。それに定期的に警備員が巡回している。ここでの犯行はまず不可能だった。

 そのまま、皇居を後にしたら、家に帰る事になった。電車の中では、萩原さんはまた本を読んでいた。僕は、ずっとあることが気になっていたが、解決の糸口が見えないまま、今朝出発した駅に到着してしまった。

「今日は楽しかったわ。じゃあね。」

 そう言うと、萩原さんは人混みに紛れて居なくなった。

 家に帰ってからも、犯行現場への違和感が消えなかった。それだけで無く、犯行現場に近い場所を回った、と言う事は、犯人に遭遇する可能性もあった訳だ。用心はしておくべきだ。

 僕は、僕しか知らないダイアルのカギを外して、引き出しを開けた。そこに有るのは伸縮式の警棒とベルトに固定するホルダーだ。あいつと別れる前夜に受け取った物だ。そのとき、初めて抱き合った。ただ悲しくて、お互い衝動的だった。そのまま彼女とは駅で別れた。

 僕の住所は変わってしまい、彼女も引っ越したため、連絡もとれなかった。携帯やパソコンも親から取り上げられてしまったのだろう。しかし、オンラインゲームにはどこからかのパソコンからアクセスした形跡があった。しかし、プレイしている時間帯が異なるらしく、連絡は取れなかった。

 警棒を手に取り、伸ばしてみる。かなり重いが、これは相手にぶつけたときには威力に変わる。剣を振るうように扱い、そうすることで防御もできる。

 ちゃんと使える様なので、ホルダーに入れて学生鞄に入れておいた。常に持ち歩かないと意味はない。

 布団にくるまって警棒もその使い方もあいつから教わった事を思い出していた。あいつの事を思い出すと、自然と眠くなる。そのまま眠った。

 次の日、萩原さんはなぜか欠席していた。しかし、机には、彼女の書き置きがあった。「今日、放課後に高橋先生が殺された場所で待ってます。 萩原」

 たぶん、張り込みだろう。休んでまで調べたかったのか。東京までにはかなり時間が掛かるので、部活を休んで向かった。帰りの運賃を郵便局から卸して、最寄りの駅から先生が殺害された場所に歩いて向かう。

 意外に遠く、到着した時刻にはすっかり暗くなってしまっていた。暗いランニングコースを歩いていたら、現場保存のテープが見えた。人影も。

 170cmくらい。黒いフード付きのコート。間違いない。こっちに近づいてくるが、逃げても仕方ない。そう、覚悟を決めたのだ。距離が縮まると、猛烈な勢いでこっちに走って来た。両手に何か持っている。きらりとそれが光ったとき、僕の意識は飛んでいった。

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