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密会

僕達は、廊下を二人で並んで何食わぬ顔をして通って屋上へ向かった。萩原さんは、どうやら屋上のドアの合い鍵を作ってしまっていたらしい。識別用のタグなどが全く貼られていない真新しいカギを見て分かった。

屋上に着いて、ドアを閉めると、僕たちは最初に萩原さんが居た位置、すなわち屋上のドアからの死角に腰をおろした。毎日、放課後に清掃しているので屋上は綺麗だ。そうでなくても、ここのところ降り続いた雨によってほとんどの汚れは洗い流されて居るだろう。二日間雨が降って居ないので、さいわい地面は乾いていた。

「となりに座っていい?」萩原さんが僕の顔を見て聞いてきた。

「ああ。かまわないよ。」僕は答えた。正面なんかに座られたら、足が気になって仕方ないからね。

となりに座って、二人とも弁当箱を開けると、僕は口を開いた。

「実は、事件について新情報が分かったんだ。」

「何?聞かせて。」

「分かった。白石先生の事件についてなんだけど、どうやらやはり首都圏で殺害されてしまったらしいんだ。他の事件も首都圏だったでしょ?やっぱり、犯人の活動県域は首都圏なんじゃないかな。」僕が話を終えると、萩原さんも口を開いた。

「私も、いくつか分かった事があるわよ。」

「聞かせてくれるかな?」

「いいわよ。まず、犯人の住所についてだけど、警察でも、掲示板でも、特定出来てないみたい。やっぱり、一定の住所は持ってないみたいね。」

「と言うと、やっぱり漫画喫茶やネットカフェを転々としているってことになるのかな?」僕は質問してみたが、萩原さんから明確な答えが返って来るとは思っていなかった。

「いいえ、そうなると少しおかしいのよ。なぜなら、ネットに載っているような有名なカフェや喫茶ならとっくに警察が張り付いてるはずだもの。なのに、犯人は一週間以上も捕まっていないのよ。」

「確かに・・・。どういう事だろう?」

「さあ、私にも分からないわね・・・。」

 それから僕たちはしばらく無言で弁当を食べ進めた。その間も僕は考え続けた。

地元民という説はどうか?地元の人間なら警察が知らないようなネットカフェなどを知っているかもしれない。

 しかし、地元には地元管轄の警察が居る。彼らだって地理には詳しいはずだ。

  なら、浮浪者や路上生活者というのは?しかし、彼らに高価なアーミーナイフを購入出来る資金が有るだろうか?そんなお金が有るなら、衣食住に使うだろう。

そこで、ある考えが浮かんだ。浮浪者や路上生活者になりすませば、あるいは・・・。「どうしたの?高橋君。手が止まってるわよ?」萩原さんが心配そうに僕を見ている。「ああ、ごめん。考え込むと何も出来なくなるんだ。気にしなくていいよ」

すると、萩原さんはくすっと笑った。

「高橋君って面白いんだね。もっと堅い感じの人かと思ってた。」

「いや、そんなことより、ある考えが浮かんだんだ。」

「何なの?」萩原さんが食い入る様に見つめてくる。

「いや、犯人は公園でじっとしていても全く疑われない人物、つまりホームレスなどの路上生活者じゃないかな、と思って。」

「でも、それだとどうやってナイフを買うの?ナイフを買うにはまともな身分証が無いと買えないのよ?」

「僕もそう思ったんだ。だけど・・・。」

 そう言ったところで予鈴が鳴ってしまった。でも、ここで教室に戻ると、廊下で多くの人物に遭遇することになってしまう。

「いま教室に戻るとまずいわね。結局、ほとんどお弁当食べられなかったから、今食べましょ。」萩原さんがはにかみながら言った。

「そうだね。」

 しばらく、曇り空の下でただ咀嚼する音だけが聞こえた。食べ終えると、屋上のドアに施錠し、無言で廊下を並んで歩いて戻った。二人同時に教室に入ると、後で噂になったりしてまずいので萩原さんはトイレに向かい、僕はそのまま教室に戻った。

 その日の午後の授業は、集中して取り組めた。HRが終わると、僕は美術室に向かった。

 「それで?」しばらく黙々と彫像の型金を組んでいると、三橋がいきなり声をかけてきた。三橋が僕に聞きたい事と言えば萩原さんとのことだろう。

「それで・・・。今日は一緒に弁当食いながら事件について話したけど?」作業の手を止めて僕は言った。

「弁当食いながらだって!?それってほとんどデートじゃねえかよ!」

「馬鹿!声でかい!」僕は三橋をはたきながら言う。ただでさえ静かな美術室だ。ほとんどの部員がこっちを見ている。

「すいません・・・。続けてくださーい・・・。」僕は彼らに向かって言う。すると、

みんな各自の作業に戻ってくれた。

 僕が三橋をにらむと、三橋は素直に悪かった、と謝った。

「それで?」しばらくしたら三橋がまた聞いて来た。

「ああ、彼女、俺が思った以上に頭が良いよ。」僕は答えた。

「だろ?お前と同じレベルで話が出来るのは彼女だけだと思ったんだ。」

「いや、もう一人居る。」僕は答えた。

「誰だよ?そうそう居ないぜ?お前みたいに頭が良い奴。」

「いや、正確には居た、かな・・・。いいや、忘れてくれ。」

「?わかった。気にしないよ。」

 そう、もう一人居るのだ。そして、そいつは俺の心のいつも片隅に居る。そいつの仕草や、何気ない癖が、俺に移ってしまっている。それに気付くたびに俺はあいつを思い出す。様々な出来事、思い出・・・。

 だが、そのたびに一つの終着にたどり着く。あいつは、もう居ないのだと・・・。

 その日の作業は、三橋に話しかけられてから全く進まなかった。あいつを久しぶりに思い出したからだろう。

 家に帰ると、制服をフックに掛けた後、部屋着に着替えるとそのままベットに横になってしまった。しばらく、あいつの事を思い出したくなったからだ。

 数十分間だろうか?眠気も訪れず、ただひたすらにぼーっとしているのもいやになったので、長い間僕の勉強机の引き出しに施錠してしまってあった物を鍵を開けて見てみた。

  あいつとの思い出の品々が、しまった時と全く同じように、そこには収まっていた。

高校生の思い出の品、と言うと、だいたいがグラビア本とかアダルトな物を連想すると思うが、引き出しに収まっているのはそんな物よりもはるかに犯罪の臭いと鉄の臭いに包まれた危険な物の数々だ。

 一通り眺めたあと、僕は元通りに施錠して、明日提出する課題を黙々とこなした。

 課題をやり終え、食事を済ませると、風呂にも入らずに僕は再びベットに横になった。

 ここからは僕の回想だ。飛ばしてしまっても明日の話には問題ない。僕とあいつの、なれ合い話なんて聞きたくない、と言う人は飛ばして欲しい。 

 あいつとの出会いは、今から二年前の冬、つまり僕が中学二年生だった頃の話だ。当時の僕は、軟式テニスと勉強に打ち込んでいた。誰よりも熱心に練習していた自信はある。事実、僕は大会で入賞したことが有り、そのときの賞状は今も壁に貼ってある。

冬の中頃のある夜、とっくに校門が閉まっている頃に僕は、学校の門を乗り越えて学校に不法侵入した。理由は単純で、次の日の朝練で使うのに、テニスラケットを学校に置き忘れたからだ。その日は思った以上に委員会が長引き、結局、僕が行く前に部活は終わってしまった。そのままうっかり帰ってしまったのだ。委員会で疲れていたのも理由の一つだろう。

  時刻は夜の十時になろうとしていた。当然、学校の職員は全員帰ってしまっている。

物騒なご時世なので、当然どこも施錠されていた。

  が、学校の職員も僕と同じ人間だ。どこかに必ず施錠を忘れた窓が有るはずだ。案の定、普段は使わない一階の理科準備室の下の窓の鍵が開いていた。

 そこから校内に入り、僕は非常灯しかついていない暗い廊下を歩き、真っ暗な階段を上って二年生の教室がある渡り廊下を渡った向こう側へ向かった。

その当時の僕は非現実的な物は全く信じてなかった。理数系と聞けば分かるはずだ。

ダイヤモンドを見ても、ただの炭素の塊と認識するようなタイプだ。

 なので、廊下が暗かろうが、明かりが無かろうが全く恐怖心は無かった。

 自分のクラスの教室に着くと、ガラスが割れたままの教室の引き戸を開けた。他のクラスの奴がふざけてドアにぶつかり、そのままドアが倒れてガラスが割れたのだ。

その当時の担任が施錠しても無駄だと判断したのか、鍵はかかっていなかった。割れた窓から手を突っ込んで反対側の鍵を開ければいいだけだから確かに施錠しても意味はない。

自分の机に行き、ラケットを持って、ついでにノートをいくつかラケットのケースに入れた。家に帰ったら復習に使おうと思ったのだ。

 来た道を戻り、渡り廊下を歩いていたら、屋上に人影が見えた。こんな時間に、屋上に立つ理由は少ないはずだ。

 気がついたら、僕は屋上に向かって走り出していた。

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