捜査と日常
ミスりました。汗。これが2話めで前の「邂逅」は三話めになります。伏線回収とか書き直しは非常にメンドイ(おい)のでこのままにしておきます。皆さんには迷惑をおかけします。本当に申し訳ありません。
その日の授業はほとんど頭に入らなかった。ただ板書を写しただけだろう。僕はノートの下に敷いてあるルーズリーフに家に帰ってから調べることを書き出していた。
まずは犯人の詳細だ。これは簡単だろう。しかし、一番重要なことだ。事件があった場所と日時を詳しく調べる必要もある。そしてそれを地図にピンで刺してどのくらい離れているか調べる。このくらいベターな調べ方しか僕には出来そうにない。
昼食は学食で黙々とすませて、今日の授業は終わった。HRには高山先生が来た。
部活は一応美術部に入っているが、勝手に休んでも何も言われないような部活だ。早く家に帰ってインターネットや新聞、テレビなどで事件の情報を集めたかった。
家に着くと、ワイドショーで連続通り魔の特集をしていた。僕は急いで空のビデオでワイドショーを録画した。そっちは後で見ればいいだろう。
着替えをすませて、パソコンのスイッチを入れた。インターネットに接続して、東京都周辺の地図をダウンロードして印刷した。拡大して印刷したので、A4用紙で六枚もの大きさになってしまった。裏をセロテープで留めて、壁に貼った。
ワイドショーが防犯グッズの特集に移ったのを見て、僕は録画を中止した。早速巻き戻して、最初から見てみる。
ワイドショーは全六人の被害者の詳細と、襲われた場所と日時、そして犯人の風貌をまとめていた。場所はばらばらで、中には埼玉県や千葉で襲われた被害者もいる。その中にはもちろん白石先生も含まれていた。僕はその六カ所をピンで刺していった。そして、被害者の顔を写メで撮り、パソコンでプリントアウトした。ルーズリーフに被害者の詳細を書いていく。
最初の被害者は東京都千代田区在住の高松 理恵、22歳。同じ千代田区のキャバクラの店員で、仕事帰りに襲われた。両親は既に無くなっており、有一の家族である兄が葬儀をしたそうだ。
次の被害者は埼玉県さいたま市在住の中村 加世子、62歳。既に年金生活を始めており、健康のために毎日さいたま市大宮区の公園でジョギングをしていた。その途上に襲われた模様。
後の被害者も似たような感じだった。深夜に公園や人通りの少ない通りを歩いていて襲われる。白石先生もそうだ。
次に犯人の特徴をワイドショーの情報を元にまとめていく。中肉中背で身長170センチくらい。黒っぽいフード付きの服を着ていて、フードをかぶっていたため顔は分からない。ナイフを携帯していて、犯行はいつも同じナイフによるもの。殺したり、重傷を負わせた被害者から必ず財布を奪っていき、警察の捜索でも見つかっていないことから財布は持ち帰っている可能性が高い。住所が特定はおろかどのあたりに住んでいるのかもつかめないため、ホームレスもしくは今増加中のネットカフェや漫画喫茶難民である可能性が高い。
僕は壁に貼った地図を見た。事件はそれぞれ埼玉で二回、千葉で一回、東京で二回起きているが、僕が住んでいるのは新潟だ。白石先生もここ、新潟に住んでいる。
つまり、一番最近に起こった白石先生殺害事件は、警察をかく乱するため、もしくは
今後事件を起こす場所を移したのか・・。
分からない事はまだまだ多いが、テレビや新聞だけではここまでが限界のようだ。僕はこの事件を話題にして盛り上がっている掲示板やブログをしらみつぶしに見ていった。手がかりになりそうなことはメモしておく。
途中、夕食を挟んで作業を続けた。しかし、こういうサイトに書き込んでいる奴は興味本位で事件を調べたあげく、中には犯人を支持するとんでもない奴もいる。全く信じられない。無差別に人を殺している奴がなぜ正義になるのか?どういう構造の頭をしていればそんな風になるのか分かりたくもなかった。
しかし、こう書いている人もいた。犯人は平和ボケして深夜にうろついている人たちに警告をしているのだ、と。
確かに今回の事件で深夜に出歩く人の数は減りはするが無くなりはしない。出歩きたくて出歩いている訳ではない人もいる。その人にはその人なりの事情があるのだ。
では、犯人にも事情があるのか?人殺しをしなければならない事情が?
それは今の僕には分からなかった。
気がついたら深夜になっていた。明日の授業は宿題が出ていない。僕はパソコンの電源を消して、メモをノートに挟んでおいた。
明かりを消して、長かった一日に幕を引いた。
次の日、いつも通り学校に行き、いつも通りに過ごした後、また部活をさぼって家に帰る事にする。さすがに三日も休むと美術部での友人である永瀬から電話がかかって来そうなので、明日は出てみる事にして、今日は家に帰った。
結局、授業に集中していたせいで、メモを見る事が無かった。なので、今メモを見る事にする。
が、いくら探しても、メモが見つからなかった。だが、パソコンに昨日回ったサイトのログが残っているはずなので、あまり気にはならなかった。
あらためてメモを作成すると、いくつか手がかりがつかめて来た。
まず、犯人が使っているナイフはイタリア製の軍用ナイフで定価が5万円相当もする物であるとのこと。なぜ分かったのかは書いて無かった。これは折りたたみ式のナイフで、レアメタルを使っていて相当な切れ味でしかも軍に採用されている事から頑丈である。折りたたみ式なので、持ち運びも楽に出来るとのこと。
さらに、ナイフの事から膨らませた事がいくつか。軍用ナイフを使用している事からかなりのミリタリーマニアであり、しかも被害者に抵抗した跡が無いことから、後ろから襲った可能性が高いとのこと。今回の事件が初犯では無く、過去に何らかの事件を起こしている可能性が高いこと。
いづれもネットの向こうにいる人間による勝手な推測に過ぎないが、意外に当たっているかもしれない。だって、犯人自らこのようなサイトに書き込んでいる可能性だってあるのだ。その場合は、自意識過剰な犯人の思考を逆手に取らせてもらおう。
少し疲れて来たので、パソコンの電源を消し、テレビにつないであるゲーム機のスイッチを入れた。
僕はゲームが好きだ。というのも、元々は映画が好きだったのだが、ゲームにも映画のような要素があると知り、それ以来ゲームにハマりまくっている。
アクションは苦手なので、やるのはRPGかシミュレーションだ。今ハマっているのはわざわざ予約して購入したオンラインモード付きのRPGだ。シングルモードではストーリーがメインだが、オンラインでは同じレベル同士の仲間を集めて敵を倒し、レベルを上げて技を増やしたり能力値を上げていくのがメインとなる。僕はオンラインをプレイすることにする。このゲームは新作なので、まだオンラインをプレイしているのは少ない方だが、それでも一万人以上とかなり多い。僕は一番使いやすいと評判の
<女性>の<ランサー>を育てている。性別やジョブと呼ばれる最初に選ぶ要素によって将来どのような技を習得するのかや、能力値の伸び方が異なる。
僕はとりあえずいつも通り街で仲間を集めてパーティを作り、クエストに出かける事にする。
何回かクエストに出かけて、レベルがすこしづつ上がっていくのを繰り返しているうちに、夕食の時間になった。
「メシ落ちです。お疲れ様でした、と。」そう仲間に断りを入れてから、夕食を作って片付けをし、宿題を片付けたあと、自分の部屋の壁に貼ってある地図と被害者の写真、そして犯人についてまとめたメモを眺める。
もう六人も亡くなっている。それもいろいろ悲しい事情がある人たちばかりだ。そういう人に限ってこういう犯行の餌食になってしまう。僕はこの普遍的な法則に注目せずにはいられない。なぜ、いい人はすぐに亡くなり、どうでもいい人は長生きするのか・・・。
考えても無駄だ、とあきらめて眠る事にする。