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邂逅

 いつも通りの時間に起き、いつも通り学校に行き、それぞれの教科ごとの教師の授業を真面目に受けた。そういえば、白石先生は数学の授業を教えてくれていた。丁寧な口調で具体的な解き方を黒板にわかりやすく書いてくれた。おかげで、僕や他の生徒のノートは非常に見やすくなった。

 白石先生が亡くなり、数学の教師は非常勤の田辺という三十代の男の先生になった。非常勤教師は優秀な人が多いので、授業も分かりやすいが、やはり白石先生とは勝手が違ってくる。なんで、なぜ・・。

「ちょっと、トイレに・・・。」

 そう断って僕は教室から出て上の階にある男子トイレに駆け込んだ。いまさら、泣けてくるなんて・・・。

 しばらく泣いたあと、顔を洗ってハンカチで拭いた。教室に戻り、なにくわぬ顔で授業を受けた。

 すべての授業が終わり、高山先生の訓辞が続くHRも終わった。今日は三日ぶりに美術部へ行くことにする。

 美術室に入ると、部員の生徒がそれぞれの作品を作ったり、描いたりしている。僕は後ろの方で静物のデッサンをしている一年の男子生徒の隣に座る。

「おう、高橋じゃないか。久しぶりだな、なんかあったのか?」

「よう、三橋。悪いな、勝手に休んで。ここんところ、ちょっと忙しくて。」

彼は一年C組の三橋啓一。ちょっと太めの体格をした、気のいい奴である。三橋とは、たまたま隣の席になっただけだが、話してみると意外と趣味が共通していて、僕たちはあっという間に友達になった。

「静物のデッサン、明日までに提出だぜ?早くやっちまおう。」三橋が言う。

「おう、そうだな。やっちまうか。」

 僕は、後ろの棚に保管してある美術部のスケッチブックを取って来た。ちゃんと高橋亮と名前が書いてある。

 しばらくはお互いに無言で、机に置いてある静物のデッサンに励んだ。しかし、僕は三橋と事件について考えていた。三橋は、かなりのネットオタクで、常に複数の動画やニュースサイトを回り、掲示板に書き込んでいる。さらには外見と性格から、意外に他の数多くの生徒とパイプを持っている。噂好きな性格のため、女子からも人気だ。

 僕はある限界に到達していた。独りで調査を続けようとしても、思考が単一なため、柔軟性に欠けるのだ。しかも僕は典型的なステレオ・タイプなため、ほとんどの出来事を独断と偏見に頼って見たり考えたりしてしまう。

 そろそろ一緒に調査する仲間が必要なのだ。三橋なら断ることは無いと思うが・・・。「高橋?どうした?手が止まってるぜ?」

「ああ、すまん・・。」思い切って言うことにする。

「三橋、ちょっといいか?」

「どうした?改まって・・。」

「実は俺、例の連続通り魔強盗について調べてるんだが・・・。ちょっと、行き詰まっててな・・。すまんが、三橋、手を貸してくれないか?」三橋は黙って前を向いた。

「それなら、俺よりもうってつけな人を知ってるぜ。」

「誰だ?そりゃ。」

「おまえのクラスの萩原さんだ。彼女、他の女子と話すときにちょくちょく通り魔強盗の話題を振るんだ。事件についてかなり詳しいらしい・・・。」

 意外だった。彼女は典型的な優等生タイプの女子で、クラスの代表委員だ。どんな女子とも共通の話題を持ち、いつもおしゃべりの中心にいる。頭も良く、最初にクラスで受けたテストの順位は、文系の科目合計点数でクラストップだったらしい。ちなみに僕は理数系科目合計点数がクラストップだ。学年順位は200人中15番だが。

「思い切って、彼女と調べてみろよ。俺の知り合いの女子に彼女の友達がいるから、話は通しておく。高橋が萩原さんと話したがってるってな。」なんとも三橋らしい気遣いだ。「いいのか?俺からは何も返せないぜ?」

「いいってことよ。友達なんだから。だけど、事件のことで何か分かった事があったら、逐一俺に報告してくれ。新事実がわかってそれを掲示板に書き込んだら、一躍俺は掲示板のスター、ってわけよ。」

「なんだ、しっかり利益もらってるじゃないかよ。おまえらしいぜ。」

「はははっ。」

 部活のあと、すぐに家に帰った。家ではカップ麺を食べながらパソコンで掲示板やニュースサイトを回るが、事件の話題は無かった。やはりここまでなのか・・・。

 パソコンの電源を落として、風呂に入る事にする。この三日間は事件のことで手が回らず、風呂に入っていなかった。時期が五月中旬ということもあり、数日入らなくてもべつに問題は無かったが、事件について何も進展がないいまのうちに体をいたわっておこう。 風呂に入ったあと、一通り片付けをして、昼間のワイドショーを録画したビデオを巻き戻して見る事にする。リモコンで早送りをしながら、事件の話題がないか探すが、新しい犠牲者が出ておらず、警察は情報の開示を拒んでいるため、新事実は何もない。

 あきらめて今日はもう寝ることにする。

 いつも通り学校に来た。授業が始まるので、机の中から古典の教科書を出そうとした。すると、一枚の紙が入っていた。綺麗な字で、こう書かれている。

「昼休みに、屋上で。 萩原」やはり彼女から話す場所と時間を提供してくれたか。

 その日は出来るだけ萩原さんと目が合わないよう普段通りに午前中を過ごした。昼食の時間に学食で早めに食事を済ませ、屋上へ向かう。

 屋上へ出るドアには鍵がかかっており、鍵は職員によって厳重に管理されているのだがどうやって屋上へ出るのだろう?

 最上階に到着し、鍵がかかっているはずのドアノブを回してみた。すると、普通に開いた。その理由は後で考えることにして、とりあえず屋上に出る。

 雨が今にも降りそうな空だ。僕は素早く視界を移動して萩原さんを探した。すると、屋上のドアからちょうど死角になるところに萩原さんはいた。景色を見ているようだ。

「萩原さん?高橋だけど・・・。」声をかけてみる。

「ああ、高橋くん。」萩原さんが近寄って来る。後ろに何か隠し持っているようだ。

「単刀直入に聞くわね?これ高橋君が書いたの?」彼女は後ろから隠し持っていた紙切れを出した。

「見せてもらっていいかい?」

「どうぞ。」萩原さんは紙を僕に手渡した。よく見ると僕が使っているのと同じルーズリーフだ。これは、僕が落として無くしたはずのメモだ!

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