夢
これも、違うサイトで掲載していた少年推理モノで、僕が原作者です。これもそのサイトには残っていないので、こちらのサイトに投稿することにしました。どうかよろしくお願いします。
夢をみていた。
それは、誰かから追われて、僕が逃げるというシンプルな夢だ。
僕が、よく行くデパートにいると、誰かが追ってくる予感がする。すると、僕は必死になって走る。
入り口のドアをタックルで開けて、ひたすら歩道を走る。夢なのに、堅いアスファルトを蹴り続けている足が痛くなってくる。息も上がってくる。
しばらく走っていると、空きビルが目の前に現れる。僕はその中に駆け込み、屋上へと階段を駆け上がる。
屋上に着いたのはいいけど、まだ追われているような気配がする。このままではつかまる。誰に?そんなことは分からない。だけど、捕まるよりは死んだ方がましだ。そんな気がしてくる。
ここはかなり高い。飛び降りれば死ねる。僕は迷う事無く、助走をつけて屋上から飛び降りた。顔が空冷されて冷たい。ひっくり返って空を見る。青いそらに太陽が輝いているまぶしくて、目がくらんでくる・・・。
僕は起きた。息が上がっていて、背中は汗をかいている。
とりあえず落ち着こう・・。僕は自分に言い聞かせる。
ベットの脇に置いてある時計を見ると、午前六時前だった。汗を拭いて、ベットから起き上がる。学校には八時に行けば大丈夫だ。嫌な夢のせいとはいえ、ちょうどいい時間に起きる事が出来た。
僕は高橋 亮。高校一年生だ。両親は今、二人とも赴任していて、僕が居るこの家は僕以外誰もいない。両親は赴任先から仕送りをしてくれるので、生活に困る事はないし、僕は家事や掃除は普通に出来る。つまり、生活には全く困っていない。
僕は居間に行って、昨日セットしておいた炊飯器がちゃんと作動しているのを確認した後、味噌汁が入っている鍋に火をかけた。しばらく時間があるので、テレビのスイッチを入れた。チャンネルをニュースに合わせる。
ニュースは相変わらず、凶悪な犯罪を報道していた。続発する通り魔や強盗に続き、
自殺やホームレスの話題。
ひととおり報道が終わると、今度は専門家へのインタビューへと移った。
「無駄だな・・・。」僕はつぶやいていた。全く無駄だと思うからだ。慶応や東大を卒業している勝ち組アナウンサーにこんな事件を報道させても無駄だし、ましてやふんぞり返って偉そうな事ばかり言う奴にインタビューなんかしても無駄だと思う。
一方で、僕はこうも思う。ニュースを報道するには広範囲な知識が必要だし、しかも努力家で頭がいい必要がある。そういう人はやはり東大や慶応くらい普通に受かっているものだ。専門家の人も、元警視庁の偉い人であったり、有名な大学や学会の権威であったりするので、偉そうにする権利は十分にある。
つまり、この自問自答そのものが無駄なのだ。
僕は椅子から立ち上がって、キッチンへと移動する。炊飯器はごはんが炊きあがったため、自動的にストップしている。僕は鍋の火を止めた。
ごはんと味噌汁を茶碗に入れて、居間に持って行き、テーブルの上で食べる。
食べている間、僕は学校の事を考えた。数学と古典の宿題は終わっているし、クラスにも慣れてきた。そう、今はまだ五月で、授業が始まったばかりだ。
僕が通っているのは、公立の進学校だ。進学校と言っても、かろうじて進学校の条件に当てはまっているだけで、みんながみんな頭が言い訳じゃない。女子は大半がいわゆるギャルで、授業中も教師の目を盗んで携帯をいじっている。メールしているのか、出会い系サイトをはしごしているのか、はたまた音楽をダウンロードしているのか知らないが、とりあえずうるさくないので僕は気にしていない。その反動で休み時間はすごい事になっているが。
男子は、運動部の推薦で入って来た奴が数人、とりあえず近いし雰囲気いいから入ってきたのが大半で、あとは僕みたいに志望校への滑り止めにして、運悪く受からなくて来た奴だ。
だけど、推薦ももらわずに志望校に受かる訳は無かったのだ。しかも入試はかなり難しくてさっぱり分からなかった。この際、腹をくくって、そこに行くしか無いと思った。近いし。チャリで10分しかかからない。満員電車で一時間近く揺られるよりはずっとましだと思う。
食べ終わり、時間も時間なので、僕は自分の部屋に戻って着替える事にする。
ブレザーとネクタイというおおよそ公立らしくない制服。出費をしている地元の企業が儲かっている結果だとか。
鞄を担いで、鍵を取り出して玄関へと移動して靴を履き、扉から出て鍵を掛けた。
チャリは下の自転車置き場に止めてある。
チャリの脇に立ち、鞄を前かごに入れて、僕は携帯音楽プレイヤーを取り出した。音楽を聴きながらチャリを運転するのはルール違反だが、つまらない通学時間が少しでも楽しくなるなら僕ら高校生はなんでもやるだろう。僕もそうする。
イヤホンを付けて、スイッチを入れると、アニメの主題歌になっているロックバンドの歌が流れ出した。
チャリ置き場を出て、マンションを後にする。あとはひたすら同じ制服を着ている奴しか目に入らない。
ほどなくして、高校に到着。指定の番号の着いた場所へチャリを止めた。イヤホンを外して、一年E組の昇降口へと歩く。
僕の在籍しているE組は雰囲気がいいことで有名だった。特に男子は不思議な連帯感で包まれている。しかし、いつも先陣を切ってギャグをとばしたり、ボケたりしているのは野球部の田中と橋本だ。彼らとは馬が合いそうにないので、とりあえず適当に合わせている状態だ。
教室に入って、机の脇に鞄を置き、騒ぐ女子や田中達はほって置いて、僕はルーズリーフと筆箱取り出して、絵を描くことにした。幸いなことに、同じ事をしている女子は何人もいるので、周りは放置させてくれる。男子では僕と後ろの方に座っている加藤だけだが。
いつもやっているオンラインゲームで僕が使っているキャラクターを描く。何回も描いているので、何も見ずに描くことが出来る。ショートヘアーの女性で、槍を持っている。
そんな物を描いていたら、誰か覗いたりちょっかいを出して来そうなものだが、僕には今のところそんなことをしてくる友達はいない。今描いているキャラクターも一番強いから使っているだけだ。全体像が描けたところで、担任の先生が入ってきた。
と、思ったら学年主任の高山先生だ。中年でいかつい風貌をしたおっさんだ。
「みんな、静かに。大事な話があります。」
みんな席に着き、高山先生を見つめた。
「このクラスの担任だった、白石先生が亡くなりました。」教室はざわついた。
「静かに。まだ話は終わっていません。」高山先生が声を張り上げる。すぐに教室が静かになった。
「白石先生は、鋭利な刃物で何回も刺されていたそうです。所持品から財布がなくなっているので、例の連続強盗ではないか、との事です。この事件はもちろん報道されるので、君たちもテレビ局の人から何か聞かれるかもしれないけど、余計な質問には答えないように。この後、一限と二限をつぶして、全校集会があります。私は、他のクラスを回るので、もう行かなければいけませんが、時間厳守だからね。自主的に並んで、体育館へ移動するように。」
そういうと、高山先生は教室から出て行った。
先生が出て行った後の教室はささやき声に包まれた。しかし、僕にはそんな物は気にならなかった。記憶をさかのぼって、例の強盗の情報をかき集めているからだ。中肉中背の男で、はっきりした風貌は分かっていない。それもそうだろう。犯人は深夜の人通りの少ない場所をうろつき、標的を探しているからだ。しかも場所は決まっておらず、事前に怪しい男を見たという目撃情報はあるものの、犯行の後にすぐに逃走しているらしく、まだ捕まっていない。
そのとき、一つの疑問が浮かんだ。なぜ、白石先生はそんな危ない時間帯に人通りの少ない通りを出歩いていたのか。しかし、真面目で綺麗な顔をしている女性の白石先生がそんな時間帯に人通りの少ないところを出歩くとはとうてい思えない。
そんな事を考えていると、予鈴が鳴り、みんな廊下へと移動し出した。僕も席を立ち、廊下へ出て、体育館へと列に並んで移動し始めた。
体育館へ着き、整列が完了すると、あたりは静寂に包まれた。教頭先生のアナウンスで校長先生が壇上へとあがる。
「先日、五月十日午後11時に、一年E組の担任である白石加世子先生が亡くなりました、先生は東京世田谷区にお住まいで、事件は世田谷区郊外で起こりました。先生は深夜には校外の公園でランニングをしているとの事で、今回の事件もランニングの途上で犯人に遭遇したとのことで・・・。」
その後、校長は白石先生を賞賛する言葉を並べたあと、生い立ちや、残された家族への哀悼の言葉を並べた。
僕は適当に聞き流していた。ただ白石先生がかわいそうだった。だが、こんなご時世に深夜にランニングするなんて、自業自得ではないか。いや、これは明らかに犯人が悪い。
だが、なぜ白石先生だったのか。本当に犯人は適当に標的を選んでいるのか。
わからない。圧倒的に情報が少なすぎる。だが、調べない訳にはいかなかった。何よりも、真面目に仕事をしていた白石先生にはこんな不運は許せなかった。
今、思えば、それが長くつらい戦いへの入り口だった・・・。