夢か幻か……答えは現実(リアル)
「やだ!」
「行かなきゃ駄目なの!」
腰まである黒髪ロングの白いワンピースの女の子を大人が無理やり何処かへ連れて行こうとしている。第三者の目から見たらこの上なく怪しいだろう。
実際は警察署に行き、この子を保護して貰おうというのが真実だ。オバサン達の目が痛い。いい加減標識から手を離して欲しい。
「やだやだやだやだやだ!」
「あぁもう!」
昨晩の出来事であまり眠れていないこともあり、イライラは募るばかりだった。
「何でも1つだけ言うこと聞くから大人しくついて来てくれよ」
「ずっとお兄ちゃん家にいる」
何処の一休さんだよ。
「それ以外でお願いします」
「う〜、じゃあお姉ちゃんと遊ぶ」「おぉ! それならいいぞ!」
しぶしぶという感じだが標識から手を離し、大人しくついて来てくれる。
昨日由美は来るって言ってたしな。簡単過ぎて先ほどまでの闘いが無駄だった気がするが結果オーライという奴だろう。
「すみません」
「はい、ご用件は何でしょうか?」
警察署にたどり着き、受付のお姉さんに話し掛ける。
「迷子の保護をお願いしたいのですが」
「わかりました、担当の者をお呼びしますのでお掛けになってお待ち下さい」
言われた通りに座り、しばらくすると若い男の人が出てきた。
「お待たせしました。担当の鈴城と申します。それで迷子というのは?」
結局はほとんど俺のことしか聞かれなかった。女の子に関しては何故か聞かれない。
「カウンセリングを受けることをお勧めします」
「……は?」
「私には女の子等見えませんので、貴方が幻覚のようなものが見えている可能性があります」
「でも現にここに……」
立ち上がり、隣にいるはずの女の子を指差す。いるのだちゃんと。女の子はぶつぶつと何かを言っている。
「けいさつわからない、ちょうちょはみえない、けいさつわからない、ちょうちょはみえない」
まさか本当に見えない? この子が言っていることは本当なのか?
「……いえ、何でもありません。カウンセリングを受けてみます」
ここにいても押し問答になるだけだ。とりあえず理解したことにして穏便に済ました。
「ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる」
警察署を後にしたのはいいが女の子はずっとこの調子だ。精神的に負担を掛けすぎたか。
「お前は、人間なのか?」
疑問を持ちながらも家にたどり着く。幽霊でも何でもいいやもう、とりあえず約束を守るために由美に連絡を取らなきゃな。鍵を開け中へと入る。
「ただいま〜っと、って言ってもーー」
「お帰りなさい」
「お姉ちゃん!」
由美がテレビを見て寛いでいた。女の子も由美の姿をみると元に戻る。
「何故いる?」
「バイト休みだし、鍵が空いてたから」
「掛けたぞ?」
「空いてたよ」
鍵は掛けたと思ったのだが空いていたらしい。不法侵入なのだが、まぁいいか。ちょうどいい。
「俺はこの後すぐにバイトだから遊んでやってくれ」
昨日休んだし少し早めに行って店長にゴマを擦らねばならない。
「いいよ〜、行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
「行ってくる」
温かい気持ちになりながらバイト先に向かう。近道に利用している公園を突っ切っていると不意に声を掛けられた。
「ちょっと待ちなさい」
振り返ってみると腰を曲げた老婆が立っていた。
「珍しいのがいるね」
「はい?」
「その蝶だよ」
自分の肩を見ると最近よく見掛ける揚羽蝶がついていた。俺の視線に気付いたのか、ヒラヒラと何処かへと飛ぶ。
「昨日からよく見掛けますよ」
「いやはや、視るのは久し振りだよ、視られている人もね」
「?」
老婆はそれだけ言うと踵を返し、ゆっくりと歩いていく。俺は気にも止めずにバイト先へと急いだ。
「ただ……いま」
店長のやろう、昨日いきなり休んだからってこき使いやがって。
「パパお帰りなさい」
「パパおかえり〜!」
俺はついに子持ちとなったようだ。由美に言われたのだろう。楽しそうに笑われたら否定したくなくなる。
「疲れたからパパは休みます」
「ノってくれるんだね」
「否定する気力がないだけです」
寝室には向かわず、リビングで寝っ転がる。
「ふふ、夕飯の準備するね」
「お〜、手伝うか?」
「大丈夫だよ、台所は女の戦場だからね、旦那さまはごゆっくり〜」
少し眠い、由美達には悪いがこのまま甘えさせてもらおう、少し……だけ。
「起きて」
何か声が聞こえる。
「パパ起きないね」
「ね〜!」
あぁ、由美達が起こしてくれてるのか。それじゃあ起きるとーー。
「ど〜ん!」
「ど〜ん!」
「ぐほっ!?」
起きようとした所に二人ががりのボディースープレックスを腹部に喰らう。呼吸が一瞬出来なくなる。
「寝るのが悪い!」
「お前……悪かったけど……ひでぇ」
「ごはん!」
本当にこの子は自由だな。
「今日はすき焼きです」
「またかよ! いや、昨日は鍋だったけど夏に食うもんじゃねぇ」
「嫌なら食べないでいいよ。昨日の仮病のことをーー」
「慎んで頂きます」
一生由美には勝てない気がしてきた。
「ほら、今日もお肉お肉」
ふむ、由美は亭主関白の家だったのだろうか、俺を立てるように肉を進めてくる。女の子は大人しいのだがこちらをじっと見るのは止めて欲しい。
「ん? 昨日と同じ肉か?」
妙に筋があるのと甘酸っぱいのに昨日と変わりは無かった。
「そうだよ、部位は違うけどね」
「そうか、旨い」
「しらたき!」
食事は今日の話をしながら進む。
「この子を今日警察に連れて行ったんだけどさ、何故か見えて無かった」
「何が?」
「この子」
しらたきを口いっぱいに詰め込んでいる女の子の頭に手をポンと乗せる。
「ふ〜ん、何でだろ?」
「俺もわからない。触れるし幽霊じゃないとは思う。妖怪か?」
「こんな可愛い子なら大歓迎だね」
「まぁな」
撫でると嬉しそうにするのは本当に可愛い。
「……由美」
「ん?」
「しばらくこの子は俺の家で暮らす」
「そうなるねやっぱり、毎日来たくなるなぁ」
頑張れ俺! 大丈夫だ俺ならやれる。好きと言うんだ!
「バイトあるしさ、1人にさせるのは嫌なんだよな、由美ならバイト先一緒だからシフト調整も出来るし……」
あぁ何か言い訳っぽい! もう少しというか一言だ。行け、行け俺! あれ、何か違くね?
「一緒暮らさないか?」
何で一歩じゃなくて走り幅跳びしてんだよ俺!
「いいよ」
「……え?」
「だからいいよ、暮らしてもねパパ」
「お、おう」
よっしゃあ! やったぜ俺。契約しててよかった3LDK!
「夢、みたいだ」
「しらたき!」
こいつにはこんにゃくを大量に買ってやろう。
そうして食事が終わり、食器等を重ねる。
「んじゃ、洗い物は俺がやるよ」
「大丈夫だよ、家事は女の領域だからね」
由美はそう言うが此方としては肩身が狭い。
「いいって、やってもらってばかりは俺も気分が悪いしさ」
持って行こうとする食器を取ろうとする。
「大丈夫! 大丈夫だからさ」
「遠慮すんなって」
「触るな!」
俺にはわからなかった、何故食器を洗おうとするだけでここまで頑なに拒否するのか。。
「……わかった」
「あはは……ごめんね怒鳴って、親が厳しくてさ、もう条件反射というか、それにちょっと台所汚しちゃったし片付けなきゃいけないんだよね」
「いや、俺もごめん、そういうの知らなかったからさ」
「ううん、ありがとう」
そういうと由美は台所へと歩いていった。
「ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる」 女の子はまた繰り返し言っている。何かが起こるとこの状態に入るので、予想だがストレスから逃げるために言っているのではないだろうか。
「蝶々は見てるか、一体何をだ?」
「きゃっ!」
その時台所から金属が落ちる音と共に由美の悲鳴がした。包丁でも落としたか!
「どうした!?」
「大丈夫だから! 来なくていいから!」
そんな言葉を聞くほど俺は出来ちゃいない。台所に入ろうとするが由美が出てくる。
「大丈夫だから、入らなくていいから、ちょっと切っただけだから」
「ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる」
制止しようとする由美の両手は血で染まっていた。深く切ってしまったと思い、急いで救急箱を取りに行こうとするが、頭に疑問が過る。
何故由美は両手が血だらけなんだ? 落として刺さったとしてもその場合怪我は足、素手で掴んだとしても片手だけ。俺は由美を押し退け台所へ入ろうとする。
「いいから! お願いだから入らないで!」
台所に入ると強い消臭剤の臭いが鼻についた。
「……」
「ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる」
言葉が出なかった。血だらけの台所、床、壁、コンロ、至るところに血が付いていた。台所という空間には俺を含め3人いる。いや、正確には人らしきものと由美と俺だ。
「……由美?」
「先輩に喜んでもらえるように頑張って解体して、血抜きして、血でちょっと汚れたけど頑張ったんだよ?」
俺が口にしていたのは? 強烈な吐き気が襲い、その場で吐き出す。
「ちょうちょは視てる、ちょうちょは視てる」
女の子は変わらず繰り返していた。
「喜んでもらえるように喜んでもらえるように喜んでもらえるように」
「ちょうちょは視てるちょうちょは視てるちょうちょは視てる」
夢のようだったんだ。女の子が来てから、憧れであったただいまと言ったらお帰りと言ってくれる生活。これからだったのに、これからもその生活が送れたはずだったのに。
「喜んでもらえるように喜んでもらえるように」
「ちょうちょは視てるちょうちょは視てる」
「うるせぇよ」
認めたくない。こんなのは俺の望んだものじゃない。床に転がっている銀色に光る物が目に入った。ゆっくりと『ソレ』を手に取る。
「喜んでもらえるように喜んでもらえるように」
「うるせぇって言ってんだろ」
何も感じなかった。ただ、これで静かになる。そう思った。そのままフラフラとリビングへと向かう。小さな女の子の背中が見えた。
「ちょうちょは視てるちょうちょは視てるちょうちょは視てる」
「黙れ」
「ぜ〜んぶ、ちょうちょは視てるよ」
女の子は突然顔だけ振り返り、何かを言った。聞こえない、俺はただ黙らせるだけだ。
「これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢」
なんだ? まだうるせぇな、俺しかもういないだろ。
「これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢」
あぁ、なんだ。
「これは夢」
俺じゃん。黙れよ。
「酷いですね」
「あぁ、こんな現場は久々だよ」
「台所にいた1人は隣人、もう1人は住人のバイト先の後輩らしいです。何れもめちゃくちゃにされてますね、隣人のほうは一昨日にやられています」
「事件当日、加害者は警察署に訪れていたらしいな」
「はい。迷子の女の子を保護したと」
「気でも狂ってたのかね。現場保存だ。おい、蝶はさっさと出せ」
現場にフラフラと飛んでいた赤紫の揚羽蝶を警官が追い出す。
「蝶って何か嫌ですよね」
「どうしてだ」
「黄泉への案内人って呼ばれてるじゃないですか」
警察のファイルには女性二人を包丁によって殺した後の自殺と記録された。
現場付近の公園、老婆がベンチで1人休んでいた。
「ちょうちょは視てる」
女の子も1人、蝶と戯れている。
「おやおや、もう連れてったのかい。可哀想にね」
老婆は笑いながら歩き出す。
「ちょうちょは全部視てるよ」
女の子は無邪気笑っていた。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
何を書けばよいのかわからないのでこのへんで。




