片山沙織の場合 ②
「……おはよう、ございます」
翌日、玄関を出たところに風吹くんが立っていた。
昨日はあのまま「ごめん」とだけ言って部屋を出て行った風吹くん。そのせいか、どこか居心地が悪そうにしている。
「あのっ、沙織さんっ……」
風吹くんの前を行き過ぎようとした時、ふいに腕を掴まれる。
掴まれた手がひどく熱く感じる。
「沙織さん……俺が嫌なら、鍵返すよ……」
昨日までの強気はどこへ行ったのか。振り返ってみると俯いている風吹くん。
その姿を見て、私はふっと微笑んだ。
「……いいよ」
「え……?」
私の言葉に顔を上げる風吹くん。情けない顔をしている風吹くんの頬に、捕まれていない手を伸ばす。
「本当に私でいいなら、持ってていいよ」
「沙織さん……それって……」
そっと触れた風吹くんの頬。手を掴まれた時から感じてたその冷たさに、彼が結構前から外にいたのが分かる。
その頬を温めるように撫でていると、その手も掴まれる。でもその手は掴む、というより包み込まれるようだった。
「沙織さん、マジでいいんだよね?」
「いいよ」
答えるなり、風吹くんに強く抱きしめられてしまった。
「どうしよう……すっげぇ嬉しい……」
絞り出すような風吹くんの声。でも昨日とは打って変わって、その声には嬉しさが混じっていた。
風吹くんの腕の中は温かくて、私は久しぶりに感じる幸せに思わず頬が緩む。
「……風吹くん、そろそろ行かなきゃ遅刻なんだけど」
そう、今は朝。私は会社、風吹くんは大学に行かなくちゃいけないわけで。
「……行きたくねぇ」
まるで駄々っ子のようなセリフ。その言葉に苦笑いをしながら、私は背伸びをして彼の耳にそっと囁く。
「……学校終わったら家で待ってて」
「……っ!」
途端に真っ赤になる風吹くん。一瞬腕が緩んだのを見逃さず、彼の腕からすり抜けた私は手を振って会社に向かうため歩き出した。
これまで愛だの恋だのという類と疎遠になってしまってた。
今更そんなのに現を抜かすなんて恥ずかしいと思っていたし、今でもやっぱり恥ずかしい。
でも、そんな私でも彼ならきっと受け止めてくれるんだろう。だから私が恥ずかしいと思っても、その気持ちよりもっと大きな幸せを感じさせてよね?
【End】
いかがでしたでしょうか。
因みに風吹くんは大学四年生です。書いとけよって話ですね。
とにかく片山さんの物語は終了です。
次回は植田さんの物語です。
お楽しみに!




