表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

片山沙織の場合 ①

まずは片山沙織の物語。

完璧なキャリアウーマンの彼女が見せる一面をお楽しみください☆


 ずっと仕事一本でやっていると、愛だの恋だのという類とは疎遠になってしまうものだ。


『あんた、仕事ばっかりで人生楽しい?』


 結婚した友人にそう言われて、チクリと胸が痛む。もうすぐ三十路。その事実を突きつけられた気がした。


『彼氏とか……結婚とか考えたりしない?』


 考えないわけじゃない。ただそれよりもいつも仕事を優先してきただけ。

 でも、やっぱり三十路になると多少の焦りも出てくる。


「とはいえ、相手がいないしね」


「いるじゃん」


 ため息混じりに玄関に入った瞬間聞こえてきたそんな声。驚いて顔を上げれば、お隣に住む大学生、門倉風吹(カドクラフブキ)が壁に寄りかかって私を見ていた。


「風吹くん……また勝手に……」


「スペアキーくれたの沙織さんじゃん」


「あげたんじゃなくて、風吹くんが勝手に持って行ったんでしょ」


 つい先日、テーブルに置きっぱなしにしていたスペアキーをたまたま来ていた風吹くんは持って行ってしまったのだ。


「コレ、母さんが沙織さんにって」


 そう言って差し出されたのはパックに入った肉じゃが。風吹くんのお母さんはこうして時々お裾分けしてくれる。


「ありがとう。風吹くんコーヒー飲むでしょ?」


「え? いいの!」


 驚く風吹くんを置いてキッチンに入る。ジャケットを脱いで腕捲りをしていると、追いかけてきた風吹くん。


「ねぇ、沙織さんは彼氏いないの?」


「残念ながらいないわ」


 コーヒー豆を探しながら答える私は、その時の風吹くんの表情なんて見ていなかった。


「じゃあ俺はどう?」


「へ?」


 風吹くんの言葉に驚いて、せっかく見つけたコーヒー豆の袋を落としてしまう。


「なに、冗談……」


「冗談なんていわねぇよ」


 一瞬ドキッとしたのを笑って誤魔化し、袋に伸ばそうとした手を掴まれる。グイッと手を引かれ、視界に飛び込んできた風吹くんの真剣な顔に不覚にもドキドキした。


「……だって、私三十路だし」


「そんなん関係ない。俺は沙織さんがずっと好きだったんだ」


 いつも無邪気な弟みたいにしか思ったことがない相手にそう言われて、混乱してしまう。

 なんとか冷静を保とうと、掴まれた手を離そうとしてみたけど、更に力を込められてしまった。その力強さに、彼が男なんだと思い知る。


「離すかよ……やっと捕まえたってのに」


「でも……っ」


 離れようとする私を抱きすくめる風吹くん。私より頭一つは背の高い風吹くんの腕の中で、弟のように思っていた彼に初めて感じる男の部分。


「沙織さん……俺のこと、男として見て欲しい……」


 そう言った風吹くんの声は、苦しげに掠れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ