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第11話「独立交渉と、王の決断」

 父たちを追い返した翌日。僕は、郷の代表として王都へ向かう準備をしていた。

 リシアやエルフの長老、鍛冶屋の親父さんなど、郷の主だった者たちとの会議の結果、僕が直接、国王と交渉することが最善だという結論になったのだ。

「カイ様、お一人で行かせるわけにはいきません。私もお供します」

 リシアが、心配そうな顔で申し出る。

「いや、リシアは郷に残って、みんなをまとめてほしい。大丈夫、争いをしに行くわけじゃない。話し合いに行くんだ」

 僕は彼女を安心させるように微笑んだ。護衛として、郷の若者の中から腕の立つ者と、エルフの弓使いを数人、連れていくことにした。

 そして、何よりも重要な「手土産」を、荷馬車に満載した。僕たちの畑で採れた、新鮮な野菜と小麦。そして、僕が醸造した特製のエールとワイン。

 交渉のテーブルでは、時に言葉よりも雄弁なものがある。

 数日かけて王都に到着すると、その惨状に僕は言葉を失った。

 街は活気を失い、道端には力なく座り込む人々があふれている。衛兵たちの顔にも疲労の色が濃く、かつての威勢は見る影もない。食料を配給する教会の前には、暴動寸前の長い行列ができていた。

 これが、僕が知る王都の姿か。あまりの変わりように、胸が痛んだ。

 王城へと向かい、国王への謁見を申し込むと、意外にもすぐさま通された。よほど、僕の来訪を待ちわびていたらしい。

 通された謁見の間には、国王と、痩せこけた大臣たちがずらりと並んでいた。その中には、先日、僕の元を訪れた調査団の騎士の姿もある。そして、隅の方には、屈辱的な表情でうつむく、父と兄たちの姿もあった。

「面を上げよ、カイ・マクガバン」

 玉座から、国王の疲れた声が響く。

 僕は顔を上げ、まっすぐに国王を見据えた。

「お初にお目にかかります、国王陛下。私はカイ・マクガバン。穣りの郷の代表として参上いたしました」

「……うむ。貴様の噂は聞いている。単刀直入に言おう。我が王国は、未曾有の食糧危機に瀕している。貴様の持つ、その奇跡の技術と、土地で採れる作物を、王国のために差し出す気はないか」

 国王の言葉は、命令ではなく、懇願に近かった。プライドをかなぐり捨ててでも、国を救いたいという必死さが伝わってくる。

 父や兄たちの傲慢な態度とは、まるで違う。

「お気持ちは、お察しいたします。ですが、無償で差し出すことはできません」

 僕がはっきりと告げると、大臣たちの間にどよめきが広がった。

「な、何を言うか! 国の危機であるぞ!」

 一人の大臣が声を荒らげるが、国王が手でそれを制した。

「……望みは、何だ。金か? それとも爵位か? 望むものを言ってみよ。できる限り、叶えよう」

「私が望むものは、ただ一つです」

 僕は一呼吸おいて、宣言した。

「私の治める土地、『穣りの郷』の、完全な独立です」

「――なっ!?」

 その場にいた全員が、息をのんだ。独立。それは、国王の統治権を否定する、反逆ともとれる要求だ。

「貴様、正気か! それがどういう意味か、分かっておるのか!」

「もちろんです。穣りの郷を、王国のいかなる干渉も受けない、独立自治領として認めていただきたい。それが、我々の食料を融通する、唯一の条件です」

 謁見の間が、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。

「ふざけるな!」「反逆者め!」といった怒声が飛び交う。父と兄たちは、「それみたことか」と言わんばかりの顔で僕を睨んでいる。

 だが、国王だけは、玉座でじっと腕を組み、僕の顔を見つめていた。

「……なぜだ。なぜ、そこまでして独立にこだわる」

「簡単なことです。二度と、誰からも理不尽に奪われないためです」

 僕は、マクガバン家の席を一瞥してから、言った。

「私は、ただ物を腐らせるだけの外れスキル持ちだと、家族に疎まれ、役立たずの烙印を押され、不毛の地に追放されました。ですが、私はそのスキルと、私の知識を使って、仲間たちと共に荒れ地を楽園に変えた。私たちが流した汗と努力の結晶を、かつて私たちを見捨てた人々に、ただ奪われるのはごめんです」

 僕の言葉に、誰も反論できなかった。

「穣りの郷の独立を認めていただけるのなら、我が郷は、王国に対し、食料の安定供給をお約束します。もちろん、正当な対価はいただきますが。さらに、王国を蝕む『灰枯病』の、解決策もご提示いたしましょう」

「なんと! 灰枯病を解決できると申すか!」

 国王が、玉座から身を乗り出した。これが、僕の切り札だった。

「はい。おそらくですが、私には原因の目星がついています。そして、私のスキルがあれば、それを解決できるはずです」

 国王は、苦悩の表情で深くうつむいた。一国の王として、領土の割譲を認めるのは、断腸の思いだろう。だが、天秤のもう片方には、滅亡寸前の国の未来と、飢えに苦しむ何万もの民の命が乗っている。

 長い、長い沈黙が流れた。

 やがて、国王は顔を上げ、一つの決断を下した。

「……よかろう」

 その声は、謁見の間によく響いた。

「貴様の要求を、すべて呑む。穣りの郷を、独立自治領として認める。その代わり、必ずや、この国を飢えから救ってもらうぞ」

「御意」

 僕は、深く頭を下げた。

「カイ・マクガバン……いや、もはや貴様は一領地の主か。見事な交渉であった」

 国王は、そう言って、疲れたように、だがどこか吹っ切れたように小さく笑った。

 父と兄たちは、信じられないという顔で、その場でへなへなと座り込んでいた。自分たちが見捨てた三男が、国王と対等に渡り合い、独立まで勝ち取ってしまった。その現実が、彼らの心を完全に折ったのだ。

 こうして、僕と王国の交渉は成立した。

 荷馬車で運んできた食料は、早速、城の料理人たちに渡され、その日の晩餐で王侯貴族たちに振る舞われた。

 一口食べた彼らが、そのあまりの美味しさに、涙を流して感動していたという話を、僕は後から聞いた。

 僕の、そして僕たちの郷の、新しい歴史が始まろうとしていた。

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