人生エレベータ
僕はエレベーターに乗っていた。
超高層ビルの高速エレベータだ。
階数表示は、1から始まり89まである。
僕は、30階のボタンを押した。
チン!
30階に着いたようだ。扉が開く。そこには、30歳の自分がいた。
30歳の僕は、上場企業のサラリーマン。順調に実績を積んで、上司にも気に入られている。結婚を考えている彼女もいて、順風満帆だ。
僕は、30歳の自分に満足して、エレベーターに戻った。
エレベーターに戻ると、
僕は50階のボタンを押した。
チン!
50階に着いた。扉が開く。そこには50歳の僕がいた。
50歳の僕は、結婚して15年の妻と一人娘に恵まれ、幸せな家庭を築いている。会社では部長まで出世して、同期の出世頭だ。
僕は、50歳の自分に満足して、エレベーターに戻った。
エレベーターに戻ると、
僕は70階のボタンを押した。
チン!
70階に着いた。扉が開く。そこには70歳の僕がいた。
70歳の僕は、会社を定年退職して、妻と2人で生活している。孫にも恵まれ、幸せな老後を過ごしている。
僕は、70歳の自分に満足して、エレベーターに戻った。
エレベーターに戻ると、
僕は89階のボタンを押した。
チン!
89階に着いた。扉が開く。そこには89歳の僕がいた。
89歳の僕は、末期がんを宣告されて、病院のベッドで家族に囲まれている。妻も娘も孫も泣いている。なんて幸せな最後だろう。
僕は、89歳の自分に満足して、エレベーターに戻った。
エレベーターに戻ると、
僕は、23階のボタンを押そうとした。
アレっ?
そこには89階のボタンしかなかった。
他のボタンが消えてしまった。
僕は動揺した。
僕の人生は幸せなはずだ!
開けてくれ!ここから出してくれ!
エレベーターの扉を叩いても、応答はない。
エレベーターに閉じ込められて、数時間が経った。
89階のボタンの下にいつの間にか、別のボタンが現れていた。
「やり直す」と書いてある。
僕は、恐る恐る、そのボタンを押した。
ガクン!
大きな音がして、エレベーターは猛スピードで落下を始めた。
ウワーっ!
僕の体は宙に浮き、エレベーターの天井に叩きつけられた。
そして、
ドン!
大きな音がして、エレベーターは止まった。
僕は、天井から床に叩きつけられて絶命していた。
エレベーターの行先表示には「人生やり直し」とだけ表示されていた。