#7 眷属量産/妨害電波
Side.Aruto
翌日の放課後。
空はまだ青く、暖かい空気が漂っている。
まさにお出かけ日和ってやつだ。
だけど僕は、アジトのソファに寝っ転がり、ボーっと天井を眺めていた。
その近くの机で、ムシバミとヴォルフがオセロをしている。
「おっ?クハハハ!やるじゃねェかヴォルフ!黙ってる奴はいろいろ考えてるってことか〜?」
「……」
オセロなんてどこで拾ってきたのか解らないが、ヴォルフが押してるらしい。
「どっちも頑張るんダゾ!」
2人の間にはダイカクが立って、楽しそうに試合を観戦していた。
それにしても、何なんだこの状況は。
平和過ぎるだろ。
なんで巨漢の化け物がオセロ楽しんでんだよ。
「おいお前ら!呑気に遊んでんじゃねぇよ!」
「……って言うけどよォ或斗」
ムシバミがゆらりと僕に顔を向けた。
「何か良い作戦でも思いついたのか〜?お前が動かなきゃ、眷属達も下手に動けないぞ?」
「……解ってんだよそんなこと」
メスガキ達に報復を誓ったものの、結局良い作戦は思いつかない。
現在貯まってるポイントは200p。
使える眷属は、Lv.10のヴォルフとダイカクのみ。
今はポイントを稼ぎたいところだが、下手に動けばメスガキ達に察知される。
じゃあLv.20の眷属を作って対抗するか。
いや、Lv.10のパルスが、3人相手に一方的にやられたんだ。
しかも、おそらく奴らは敵戦力の半分。
Lv.20を作ったとしても、結局数の暴力で押し負けるんじゃないのか。
「……数の暴力?」
僕はその言葉に引っかかった。
そうだ、ここまでヴォルフやダイカクみたいな高レベルの眷属ばかり作っていたけど、クズ共をドン底に突き落とすだけなら、そこまでレベルは高くなくてもいいんじゃないのか。
ふと僕は、床に目を移した。
そこには錆びた釘が1本落ちていた。
僕は『トコヤミ』を開き、『眷属作成』を押す。
次にカメラ機能で釘を映し、タップする。
そして10pを使い、Lv.1の眷属を作り出した。
できた眷属は、頭部が釘で、体は全身黒の人型。
まるで戦隊モノに出てくる、悪の組織の戦闘員みたいだ。
「おぉ、新しい仲間なんダナ!」
ダイカクが喜びの声を上げる。
ムシバミもまた、ニヤリと笑った。
「ほほぅ?ここに来てLv.1を作るかァ」
「ちょっとコイツの力でも見てみるか。ダイカク、ちょっと協力してくれ」
「もちろんなんダナ!」
ダイカクが快く頷く。
そして僕は、釘眷属に命令する。
「お前、ダイカクを思いっきり殴ってみろ」
釘眷属は頷くと、ダイカクの前に立つ。
そして、思いっきり腹を殴りつけた。
だが、ダイカクはビクともしない。
まぁ、レベル差があるから当然か。
「……ダイカク、どうだ?」
「ふむ。悪くないんダナ。俺を倒すには足りないけど、充分人間を壊せるパンチなんダナ」
「そうか」
やっぱりLv.1でも充分な強さを持ってるのか。
僕は改めて釘眷属を見る。
そいつは何故か、見せびらかすように右掌を下に向けていた。
その掌から、何かが勢いよく飛び出す。
それは錆びた釘だった。
「……なるほど。そういう能力も付いてくるのか。弱くても個性はあるんだな」
雑魚戦闘員とはいえ、個性があるのは面白い。
錆びた釘を噴出する能力か。
一見地味だが、ちょっとした拷問とかに使えそうだ。
釘以外でも試したくなってきたな。
「クハハハ!ここにきてLv.1の眷属を作るとはなァ」
ムシバミが高笑いしながら、釘眷属をいろんな方向から眺める。
「何始めようってんだァ?」
「ひとまずこういう奴をたくさん作る。結局数ってのは強いんだよ」
今はとにかくポイントが欲しい。
Lv.1でも、複数で動かせば効率良くポイントを稼げる筈だ。
所謂人海戦術ってやつだ。
「ヴォルフ、ダイカク。その辺から何か使えそうなもの拾ってこい」
「或斗様、何かって何なのダゾ!?」
「何でもいいからとりあえず拾ってこい」
「へい!合点なんダゾ!」
ヴォルフとダイカクは、部屋から出て行った。
その場には、僕とムシバミだけが残される。
「眷属使いが荒いなァ。或斗、お前は行かねェのか?」
「この辺に落ちてる物なんてゴミだろ?ゴミ漁りなんてホームレスがすることだ。そんな底辺の真似なんてできるかよ」
「クハハハ!酷い言い様だなァ!良い性根の腐り様だァ!」
「ムシバミ、お前も何か探してこいよ」
「俺は神だぜ?底辺の真似なんてすると思うかァ?」
「お前も腐ってるな」
ムシバミと軽い言い合いをしつつ、僕は再びソファに寝っ転がった。
30分も過ぎると、ヴォルフとダイカクが拾ってきた物だけで山ができていた。
僕は目ぼしい物を見つけては、次々とLv.1の眷属を作り出していく。
合計10体になったところで、一旦やめた。
とりあえず100pくらいは残しておこう。
ここまで使用したのは、錆びた釘、石、ボロいロープ、ボコボコの金属バット、古びたアンテナ、剃刀、鉄パイプ、ドラム缶、金槌、スプレー缶。
ほとんどの奴は、釘眷属と同じような姿になった。
とはいえ、やはり個性はある。
例えばドラム缶眷属は、他の眷属よりふくよかだった。
ロープ、金属バット、剃刀、鉄パイプ、金槌は、各々が元になった物を装備している。
何の変哲も無いのは、石とスプレー缶の奴だけ。
しかし、石眷属は頭部と拳が石になっている。
スプレー缶眷属も、顔になっているスプレー缶から謎のガスを噴出する。
やはり個性を持っている。
そんな中で、残りのアンテナ眷属。
コイツだけは異彩を放っていた。
そもそも他の9体が人型なのに対し、コイツは完全に人外の域。
黒光りするアンテナの下の方に、蜘蛛みたいな脚が4本生えている。
さらにアンテナのてっぺんから、紫色の電波みたいなのが出ていた。
「ムシバミ、何なんだこれ」
「クハハハ!面白ェ奴ができたなァ。コイツが出してるのは、所謂妨害電波ってやつだろ」
「妨害電波?」
「そうだ。そんで、ここでの妨害電波といえばおそらく……。クハハ」
「なんだよ?解るように言えよ!」
「使ってみりゃ解る。さっそくコイツ連れて狩りに行こうじゃねェか」
ムシバミのこういう説明不足のところが気に入らない。
けど妨害電波ってことはもしかして…。
少しの希望を感じつつ、僕はアンテナを連れて街に繰り出した。
ヴォルフと釘、金属バットと剃刀も連れて。
数時間後、僕は暗い路地に居た。
目の前で、いつも学校で僕に嫌がらせをしてくるチビとデブが、泣きながら倒れている。
確か、小池と大久保だったかなぁ…。
丁度街で歩いてるところを見かけたから、ここに誘い込んだんだ。
そして金属バットに殴らせ、剃刀に切らせ、とにかくボコボコにしてやった。
その2人を、僕は眷属達と共に囲っている。
それにしても、コイツらを襲ってから既に1時間くらいは経つか。
未だにメスガキ共が来る気配はない。
「……やっぱり、コイツのおかげか?」
僕はアンテナ眷属を見た。
コイツが出す電波…。
どうやらこれは…あのてるてる坊主の探知能力を妨害できるようだ。
「クハハ!早速妨害電波が役に立ったようだなァ」
「あぁ。コイツは使えるぞ」
マジでこの発見はデカい。
量産すれば、奴らに見つかることなく戦力を強化できる。
覚悟しろよメスガキ共。
お前らの知らないところで、僕達はデカくなるんだ。
「痛い…痛いィ……」
倒れてるチビの方が、泣き言を吐く。
僕はコイツの顔を踏みつけた。
「痛ァアアアアア_____!!!!!」
「うるせぇんだよ。頭に響く」
それにしても、滑稽なものだ。
学校ではあんなにイキってた奴らが、全裸でボロボロになってるんだから。
コイツらは、散々僕のことをコケにしてくれた。
だからこれは、当然の報いだ。
「なぁ、許してほしいか?」
僕はしゃがみ込んで、馬鹿2人にそう言ってみた。
すると奴らは、物凄い勢いで首を縦に振りまくった。
「ゆっ、許して!許してほいです!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
必死になって僕に許しを乞いている。
本当にいい気味だ。
だが、僕らは日本人。
それに相応しい謝罪の仕方じゃないとな。
「学が無い人間ってこれだから嫌だわ。お前らさぁ、なに寝っ転がって謝ってんの?そんなんで謝罪になると思ってんの?そこは土下座でしょ土下座!」
「へっ……?」
「土下座…?」
奴らは何故かキョトンとしやがる。
この馬鹿さ加減に、正直苛ついてきた。
「土下座だよ土下座!日本語解んないの!?それともまだ反抗的なの?体に釘打ち込もうか?」
僕がそう脅すと同時に、釘眷属が手から釘を地面に向けて噴出する。
それを見たチビとデブの顔が青ざめる。
そして光の速さで、額を地面に擦り付けた。
「ごめんなさい!」
「許してください!」
全裸土下座で必死に謝る2人。
あの腹立つ顔が、今じゃ恐怖と絶望一色なんだ。
マジで快感過ぎる。
「フッププッwいいねぇいいねぇこの角度!イキってた奴が全裸で土下座してるよ!」
僕はスマホのカメラで、奴らの土下座をいろんな角度から撮影する。
その間奴らはプルプル震えながら、土下座を続けていた。
この震えは怒りからなのか、それとも羞恥心からなのか。
もちろん土下座前の泣き顔も裸も全部、既に撮影済みだ。
「しょうがないなぁ、もういいぞ」
一通り撮影して満足したあと、僕は奴らに頭を上げさせた。
奴らはビクつきながら、僕に目線を合わせた。
その表情は、どこかホッとしているように見えた。
おそらくこれで終わりだと思ってる。
散々コケにしておいて、この程度で終わらせる訳ねぇだろ。
「お前ら今日から僕の犬な?」
「えっ?」
「はっ…?」
「『はっ…?』ってなんだお前?またボコされたいの?」
「すっ、すみません!!」
デブが再び謝罪する。
馬鹿は本当に、本当に理解力が無いから困る。
現実教えてやらないと。
「お前らの写真は全部撮ってるからね?いつでもネットの世界に流せるんだから、僕に歯向かわない方がいいよ。それと、コイツらは僕の命令一つでお前ら殺せるくらいの力あるからね?そこ勘違いしないでね」
「うっ……うぅ…」
「はっ…はいぃ……」
逃げられないことを悟った奴らは、弱々しく返事をした。
こうしてチビとデブを、僕の支配下に置いた。
馬鹿な奴らだけど、まぁ何かしら、駒として使えるだろう。
ポイントは現在、合計310p。
コイツら2人だけでまぁまぁ貯まったなぁ。
アンテナ眷属の有用性も確認できた。
ぶっちゃけ今日だけでかなりの収穫だ。
見てろよメスガキ共。
この世界の王は、僕だ。