#6 謎の少女達/逆襲の決意
Side.Aruto
僕は今、再び夜の街に出ている。
歩道橋に寄り掛かって、『トコヤミ』を観ていた。
そこに映っているのは、僕の眷属ヴォルフ、ダイカク、パルスの位置情報。
コイツらは、各々三角形に散らばっていて、僕は丁度中心辺りに立っている。
少ししてから、『トコヤミ』のメニュー画面に切り替える。
右上に表示されているポイントが、少しずつ加算されていっていた。
メニュー画面を観て、眷属の位置情報を観て、そしてたまに眷属の状態を確認して…。
さっきからそれの繰り返しだ。
スマホとにらめっこをする僕の影から、ぬるりとムシバミが出てきた。
「今のところ異常はねェようだなァ」
「あぁ。でも、このまま待ってたら現れるんだろ?」
やってることは昨日と同じ。
眷属を各地に散らばらせて、ポイントを稼がせる。
ひとまずはそれをルーティーンにしていた。
そうしていた矢先に、フォールが消えた。
だから昨日と同じ動きをして、それを監視していたら、フォールを消した犯人が現れる筈なんだ。
「……にしても、僕の眷属を殺すなんて……。本当に何者なんだよ」
眷属達の力は、人間を遥かに上回る。
常人に殺れる訳が無いんだ。
だがムシバミ曰く、そんな僕の眷属達を殺せるような奴が居るらしい。
おそらくそいつは普通じゃない。
ムシバミと同じような存在か。
あるいは僕と同じように、特別な力を得た人間か。
「詳しくは俺も解らんがなァ。或斗、仮にそいつを捕まえたとして、どうする?」
「は?殺すに決まってんだろ」
「クハハハ!ガキが大層なこと言いやがる!」
例え笑われようが、邪魔されてるのは明らかなんだ。
そいつを放っておいたら、野望の妨げになる。
放ったらかしにしておく訳にはいかないだろう。
この僕の恐ろしさを骨身に刻み込んでから地獄に送ってやる。
心の中でそう宣言しつつ、改めてスマホに視線を戻した。
「ッ!!」
『眷属一覧』を開いた僕は、目を見開く。
なんとパルスに、『戦闘中』の表示が出ていたんだ。
「戦闘中!?」
「おォ、掛かったらしいな。邪魔者が」
「行くぞ!」
僕はパルスの居場所を確認すると、すぐに走り出した。
パルスが居たのは、あまり人が寄り付かない公園だった。
そこまで広くはなく、敷地内の遊具は滑り台とブランコと砂場だけ。
あとはベンチと街灯くらいだ。
そして僕がその公園に入った時、パルスはまさに戦闘中だった。
射撃音が鳴っている。
僕は巻き込まれないように、滑り台の陰に隠れた。
それから街灯の明かりで、パルスが戦っている相手の姿を確認できた。
「………は?」
僕は目を疑った。
パルスと対峙しているのは、3人の少女。
それも僕や姫路さんと同い年くらいの。
しかも、その3人の姿も異様だった。
1人は丈の短い黄色いチャイナ服を身に纏い、脚装を履いている短髪の少女。
別の1人は緑を基調としたシスターの格好をしていて、杖を持っている。
そして残った1人は、オフショルダーの青い巫女服を着ていて、弓を構えていた。
そいつらの髪色もまた、着ている衣装の色と一致している。
僕にはその3人の格好が、コスプレにしか見えなかった。
まさかコイツらなのか。
コイツらがフォールを殺したのか。
「強敵認定。強敵認定。最大火力デ吹キ飛バシマス」
パルスがそう言って、両腕の銃を構えた。
「来ますよ!」
その様子を見た巫女服が、警戒の声を上げる。
「わっ、私に任せて!」
ここでシスターが前に出た。
そして杖を構えると、四葉のクローバーの形をした緑色の光の壁が現れる。
そのタイミングで、パルスが凄まじい連射を始めた。
“ドドドドドドドドドド_______!!!!”
クローバーの壁に、容赦なく銃弾をぶっ放す。
あまりに凄まじい連射。
その影響で、辺りを土煙が包み込んだ。
パルスの射撃シーンは、一回だけ見せてもらっている。
だが、弾の無駄だとか言って、連射は見せてくれなかった。
そんなパルスが、銃弾を惜しむことなくぶっ放している。
強敵認定とか言ってたし、あの少女達はそれ程の強さだということなのか。
結局この連射は30秒程続いた。
そして…。
“カチッ…カチッ……”
パルスの両銃が弾切れを起こした。
それでも、人間が食らえば跡形も無くなるくらいの銃弾を放ったんだ。
あの少女達は妙な技を使うようだが、無事では済まない筈だ。
土煙が徐々に晴れていく。
もうすぐで、無様に骸となって転がった3人を拝めることだろう。
……と思った瞬間。
“ガスッ_______!!!”
鈍い音が鳴り響いた。
「ッ!!?」
僕としてもこれは予想外だった。
なんとパルスの胸に、青い矢が突き刺さっていたんだ。
しかも、それだけじゃ終わらない。
矢が刺さった部分を中心に、パルスの体を氷が覆っていく。
「ガッ……ゴッ____!!」
パルスは直立したまま、謎の機械音を上げる。
僕の耳には、それが呻き声に聞こえた。
それからあっと言う間に、パルスの全身が凍りついた。
丁度それと同時に、土煙が完全に晴れた。
「……なんだと!?」
僕はつい声を発してしまい、慌てて口を押さえる。
だって、仕方ないじゃないか。
シスターの息が上がっているものの、3人の少女達は無傷だったんだから。
「ゼェ…ゼェ……。あっ、当たった?海ちゃん」
「はい。…翠さん、感謝致します」
辛そうに呼吸するシスターに、巫女服が礼を言う。
パルスを射抜いたのはコイツか。
射抜かれた瞬間凍る矢…。
いったいどうなってるんだ。
「はいは〜い!先輩達お疲れ〜〜!あとは檸檬にお任せ〜〜!!」
今度はチャイナ服が前に出る。
何故か奴の体中に、バチバチと電気が走っていた。
「いっせ〜〜の〜〜でっ_____!!」
その掛け声と共に、チャイナ服が一瞬でパルスの目の前に飛び出た。
速すぎる。
僕の目には、ワープしたようにしか見えなかった。
「シュ〜〜ト〜〜〜〜!!!」
ハイテンションのチャイナ服はそう叫び、帯電した装脚を纏った足で、パルスの顔面を捉えた。
“バキィイイイン!!!”
氷と火花と一緒に、パルスの頭が砕け散った。
僕は自分の目を疑う。
パルスの体は鉄製だ。
それをいとも簡単に破壊するなんて……。
パルスの頭部の欠片と、残った胴体から、黒い煙が上がる。
そうしてすぐに、パルスは消滅した。
僕は慌てて『トコヤミ』を開いた。
『眷属一覧』から、パルスが消えていたんだ。
「お疲ル〜♪」
「ッ!?」
遠くから、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
3人組の方に目線を戻す。
「……なんだあれ?」
奴らの下に、薄ピンクの小さいてるてる坊主みたいなのが飛んできたんだ。
明らかに、この世のものとは思えない。
てるてる坊主が来た途端、3人が光に包まれる。
光が晴れると、奴らの服装が変わっていた。
おそらく、今のこの服装が普段着。
髪色もさっきより地味だ。
「翠と檸檬は、初めてにしては上手く戦えてル〜♪みんな凄すぎル〜♪」
「でしょでしょ!?檸檬ちゃん最強〜〜♪てか怪人倒すの楽しすぎ〜〜!!」
「翠は大丈ル?」
「うっ、うん。大丈夫。ちょ、ちょっと……疲れただけ」
「お疲れ様です、翠さん。本当に助かりました」
3人組とてるてる坊主は、親しげに会話をしている。
本当に何なんだよあいつら。
まるで女児向けアニメの魔法少女と妖精みたいじゃないか。
3人組の妙な力は、あのてるてる坊主が与えたものなのか。
だとしたら小さい癖に厄介過ぎるだろ。
「ルル、他に怪人の気配はありますか?」
「う〜〜ん……。あと2体居るル!急ぐル!」
「解りました。翠さん、行けそうですか?」
「うっ、うん。大丈夫」
「ゴーゴー♪」
てるてる坊主に促され、3人組は走り出した。
あいつ、眷属の気配を感じ取れるのか。
だとしたらヴォルフ達がヤバい。
焦っていると、影からムシバミが顔を出した。
「或斗、『眷属一覧』のメッセージ欄から一斉命令できるぜ。文字打ち込むだけであいつらの頭に届く」
「そっ、そうなのか」
『トコヤミ』から『眷属一覧』を開くと、画面の一番下にメッセージ欄があった。
そこをタップし、「全員撤退」と打ち込んだ。
これでヴォルフもダイカクも撤退してくれるよな。
あの2人は強い筈だ。
だけど同じ強さを持ったパルスが、ほぼ一方的にやられたんだ。
3人組は各々特殊な力を見せた。
会話からしてシスターとチャイナ服は初陣だったらしいが、おそらくまだ全部出し切ってない。
癪だが、今ヴォルフ達を戦わせるのは危険だ。
「ミタカラヒメ、抗ってくるかァ。良い。実に良い。そうじゃなきゃ面白くねェ」
クツクツと笑いながら、ムシバミがそう呟いた。
やっぱりコイツ、何か知ってる。
「ムシバミ!あいつらは何なんだ!奴らのあの力はいったい何なんだ!」
僕は苛立ちを乗せてムシバミに問う。
すると奴は、口角を上げて語り始めた。
「或斗、お前が住むこの永久市には守神が居た。名はミタカラヒメ。奴は7つの宝石で結界を作り、この地を守っていた。オニキスも、元はミタカラヒメの物だ」
「守神…ミタカラヒメ……。そいつは今どうしてるんだ?」
「奴は俺が破った。お前と出会う前になァ。今は俺の体内に封印している」
ムシバミはそう言って自分の腹を叩いた。
にわかには信じ難い。
コイツの体内に、神が眠っているなんて。
「だがミタカラヒメは封印される直前、残りの6つの宝石をコンパクトに変え、眷属に託した」
「眷属って……もしかしてさっきのてるてる坊主のことか!?」
「あァ。ミタカラヒメは言っていた。そのコンパクトを人の子に渡せば、奴の力の一部を使えるとな。あの3人のガキはコンパクトを受け取ったんだろうなァ。数からして、奴らの他にあと3人居ると考えていいだろ」
「……合計6人…だと?」
さっきの3人だけでも圧倒的な強さだったのに。
しかも残り3人の詳細も不明。
こっちは眷属が2人だけ。
状況が悪過ぎる。
さらにポイントを稼ごうにも、あのてるてる坊主にすぐに察知されちまう。
何なんだよ、何なんだよこれ。
唯一無二の力を得られたと思ったのに。
「クッハハハ!流石だミタカラヒメ!お前の一部といえどあの強さ!こりゃまさに逆境だなぁ。どうする或斗?諦めるか?この世の支配」
ムシバミはそう言って僕の気を煽る。
「……諦めるか、だと?」
随分馬鹿にしてくれる。
「諦める訳ないだろ!!」
僕は怒鳴る。
当然だ。
こんなんで終われる筈がない。
「やられっぱなしで、ナメられたままで終われるかよ。やられたらやり返すだけ。倍返しだ!!」
僕を馬鹿にする奴は、全員ぶっ潰す。
例え女だろうとな。
この世の支配までの足がかりとしては丁度いい。
あのメスガキ共には、地獄を見てもらおうじゃないか。