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#4 害虫駆除/魔王の誕生

Side.Aruto


「クハハハ!夜風が気持ちいいなぁ、おい!」

「……なんでこんなことに」

 僕は今、ムシバミと一緒に夜の街を歩いている。

 こんな夜中に出歩くなんて初めてだ。

 夜の街は昼とは空気が違った。

 街灯やネオンで、道が綺羅びやかに照らされていている。

 そして仕事帰りの大人達に混じって、派手な衣服の若者が多かった。

 ちなみにそいつらの多くは、馬鹿みたいに騒いでいる。

「何が楽しくてはしゃいでるんだ?まるで猿だな。何も考えてなさそうだ」

「おいおい、見ず知らずの奴らに対して随分な言い様じゃねェか」

「……で?どうやってポイント稼ぐんだよ?ヴォルフもどっか行ったし」

 僕は辺りを見渡しながら歩く。

 ムシバミの力を借りてベランダから外に出た訳だが、その時にはもうヴォルフはどこかへ行ってしまっていた。

「あいつは陰から活躍するタイプなんだろうよ。ポイントに関しては、まぁ、丁度いい奴見つけるか」

「丁度いい奴って何だよ?」

「言葉のまんまだ。……おっ?あいつなんかいいんじゃねェか?」

 路地に差し掛かったところで、ムシバミが指差す。

 見るとホスト風の若い男が、スーツ姿の中年男に詰め寄っていた。

 中年の方は怯えている。

 カツアゲでもされてるのか。

「或斗、ちと助けに行ってこい」

「はぁ!?」

「問題ねェよ。お前にはヴォルフが付いてるじゃねェかァ〜」

 コイツが元気付けてくれているのか、馬鹿にしてるのか解らない。

 にしてもここは人目に付かなすぎる。

 それに子供が大人に勝てる訳ないだろ。

 僕が行ったところで、結局ボコボコにされるのがオチなんじゃないのか。

 けれど、ヴォルフが居るなら…。

 あいつなら、全てをなんとかしてくれそうな安心感があった。

 今もどこかから見守ってくれてるらしい。多分。

 いざとなったら助けてくれるよな。

 そう信じて、僕は路地裏に足を踏み入れた。

「おっ…おい!」

 それからホストに対して声を上げる。

「あァん?なんだガキィ…」

 ホストは僕を睨み、ドスの聞いた声を上げた。

「そっ、その人を離せ…!」

「あァん?ガキが正義の味方気取りかコラァ」

 ホストが僕に近づいてくる。

 するとその時。

「あっ……あぁあああアアアアアアアアアア___!!!」

 なんと中年が悲鳴を上げて逃げていきやがった。

 この僕を置いて……。

 何なんだよあいつ。

 このホストもホストだが、中年も中年だな。

「はっ?どうしてくれんだよ?あいつ逃げたじゃねェかよォ」

 中年が逃げたことで、ホストの機嫌がさらに悪くなる。

 どうしてくれるかって。

 知らねぇよ。

 そもそもお前はあのおっさんに何の用があったんだよ。

 どうせしょうもない因縁ふっかけてたんだろうが。

「代わりにお前が金出すんか?なァ!!?」

 うわぁ大声出してきた。

 中学生相手にカツアゲって正気なのかコイツ。

 とはいえ、何かしら反論しないと…。

「けっけけ警察……!」

「あァ!?呼んでみろやコラァ!!」

 ダメだ警察の名前にもビビらない。

 マズい殴られるのは嫌だ。

 ホストの右手が僕に伸びてくる。

 …その時だった。

“ビュン___!!!”

 頭上から誰かが、超スピードで落下してきた。

“ゴキッ!!”

 そしてそいつは、その勢いに乗ったままホストの右腕をへし折った。

「えっ…あっ……、ガァアアアアアアアア____!!!!」

 腕を折られたホストが叫び、のたうち回る。

 あまりの速さに、痛みが遅れてやってきたようだ。

 影の正体が、こちらを振り返る。

 1本角の狼男。

 ヴォルフだ。

 ちゃんと傍に居てくれた。

「ヴォルフ!凄い!凄いじゃないか!」

 柄にもなくはしゃいでしまった。

 そのリアクションに対し、ヴォルフは頷くだけ。

 うん、クールだ。

 それでこそヴォルフだ。

「ヴォルフ、なかなかやるじゃねェか」

 あのムシバミも、ヴォルフのことを褒める。

 それから、ニタァと口角を上げた。

「さて或斗。さっきも言ったが、ヴォルフはお前の手足。お前の言う事なら何でも聞く」

「そうだな」

「そんでコイツ、どうする?」

 ムシバミはホストを指差してそう言った。

 未だに折れた腕を庇って悶絶している。

「……」

 はっきり言って、僕は馬鹿が嫌いだ。

 特にコイツみたいに、調子に乗ってる奴が…な。

「ヴォルフ」

 僕はヴォルフに命令を下す。

「両脚も折れ」

 ヴォルフは頷き、すぐに動いた。

 まず、ホストの右脚を踏み折った。

「くぎゃあぁアアアアアアアアアア!!!!」

 ホストが再び悲鳴を上げる。

 なんだこの高揚感は。

 正直馬鹿共の鳴き声は嫌いだ。

 でも今この瞬間に奴が発している悲鳴は、僕の気分を昂らせた。

 ヴォルフが左脚を折るために、足を上げる。

「まっ…待って_____」

“ボキャッ!!!”

「あぐぅあァァァアアアアアアアアアア____!!!」

 おぉ、今エグい音したなぁ。

 それにしても、人間の悲鳴って同じに見えて、よく聞くとバリエーション豊かだなぁ。

 最初の方で思っきり叫び過ぎて、声掠れてるじゃん。

 これでコイツが自由に動かせるのは左手だけ。

 まるで死にかけの虫みたいだ。

「痛”っ……い”た”い”よ”ォ…」

 ボロボロのホストは、体を震わせながら咽び泣いている。

 大人の癖に、情けない。

 もしかして、普段僕達に対して偉そうにしている大人達も、怪我させたらこうなるのか。

 急に世の大人達が滑稽に思えてきた。

「フフッ…ははは。おいおいさっきの威勢はどうした?」

 僕はそう言って、ホストの折れた脚を踏んだ。

「ぁぐぎゃ!!!?」

 おぉ、今度は短い悲鳴だ。

 疲れてるのか。体力無いなぁ。

 自分より弱い奴を責める奴は、やっぱり弱いのか。

 そう思いながら、僕は足をグリグリと動かす。

「あ”ぁ”!!!ぐぎィ!!!…やめろヤメロや”め”ろ”おおおォオオオオオオオ!!!!」

 やめろだと。

 なんで命令形なんだよ。

 馬鹿は自分の立場も理解できないのか。

「『お願いしますやめてください』だろ?ほら、言ってみろ。そしたらやめるかもよ?」

 まったくしょうがない奴だ。

 信心深い僕は、ホストに言葉を教えてやった。

 するとホストは、泣きながら懇願した。

「お”っ…願い………しま!!…す!!……やっ………やへ”て”く”た”さ”いぃぃぃ!!!」

 なんだ、やればできるじゃん。

 にしても汚い顔だ。

 涙と鼻水と涎でグチャグチャじゃないか。

 こんなんじゃ働けないだろ。

 う〜ん…それにしてもなぁ。

 自分でも弱い者いじめしてるみたいだって思えてきたけど、やめるにしてはなんか足りないんだよな。

 やっぱり、あれが無いとなぁ。

「土下座」

「へっ…?」

 その三文字を出した途端、ホストが間抜けな顔を見せた。

 僕は当然のことを言ってるだけなんだが。

「やっぱ誠意が足りないと思うんだよねぇ。お前今まで悪いことしてきた癖になんでその程度で赦してもらえると思ってるの?日本人の誠意ある謝罪の仕方と言えば土下座でしょ?大人なんだからそれくらい解るでしょ?常識だよ?ほら土・下・座!」

「え”っ…あ”っ……」

「何ボーッとしてるの?早くやりなよ。さもないとヴォルフが怒るよ?まぁ、僕は別にいいんだけどねぇ?ヴォルフがねぇ〜……」

 僕が視線を送ると、ヴォルフが拳を鳴らした。

「ヒギィ!!!」

 それに恐怖を感じたホストが、急いで体勢を変え始める。

 コイツは左腕以外折れてる。

 その状態で動くのは厳しそうだ。

 事実死にかけの蜘蛛みたいな動きになってる。

 だが、これ以上酷いことをされたくないという本能が、コイツを動かした。

 そして驚くべきことに、コイツは土下座を達成しやがった。

「ひぐっ…!!ヒギィ……!!!す”み”ません”でした!!す”み”ませ”んでしたァあアアアアア!!!」

 それから必死の謝罪。

 凄いなぁ。

 人間って生きるためなら何でもやるんだなぁ。

 しかしここまでされると、引くなぁ。

「ホント凄いねお前。正直見くびってたよぉ」

「…じゃ…じゃあ……」

「でも言われてからやるようじゃ、ダメだね。完全に自己保身だもん。反省の色が見えなかったなぁ。自主的じゃなきゃダメだよ君」

「ッ……!!?」

「という訳で、ヴォルフ、左腕も折っちゃって〜」

「や”め”て”ぇ”エ”エ”エ”エエ”エエ_____!!!!」

 僕の命令に、ヴォルフはすぐに動いた。

 両手でホストの左腕を掴む。

 そして、力任せにへし折った。

“バキィ!!!”

「アガァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 おぉすごいすごい。

 多分今日イチ大きい悲鳴だ。

 にしても今の音エグかったなぁ。

 肉も筋繊維もグチャグチャなんじゃないか。

「あがっ…アババ………」

 想像絶する痛みだったのか、ホストは泡を吹いて痙攣している。

 流石に耐えられないかぁ。

 でもまだ気が済まないんだよなぁ。

 どこか折ったらショックで起きるかな。

 それにしてもどこを折ろうか。

 もう四肢は折っちゃったし。

 そう思案していると、路地裏の方から声がした。

「ここです!ここから悲鳴が!」

「何をしてるんだ!!」

 見つかっちゃった。

 路地裏とはいえ、流石に騒ぎ過ぎたかな。

 察するに通行人の女性と、警察か。

「或斗、ここまでのようだぜ?」

「そうだな、逃げよう…んっ?」

 そう言った途端、ヴォルフが僕の体を抱き上げた。

「ヴォルフ!?ちょっ……うぉおおおお!!!」

 ヴォルフは物凄い勢いで壁を蹴り、上へ上へと登っていく。

 それから屋上に辿り着いたかと思えば、建物の間を軽々と跳び回った。




「クハハハ!大丈夫か〜或斗?」

「うぅっ…死ぬかと思った」

 何処かの建物の屋上に、僕とヴォルフ、ムシバミは降り立った。

 本当に何でも聞いてくれるなヴォルフは。

 とりあえず、今度はもう少し安全に運ぶように言っておくか。

「お前ノリノリだったなぁ。いいじゃねぇかァ。流石は俺様が見込んだガキだ。素質あるぜェ?」

「お前に褒められても嬉しくないんだが」

「素直じゃねェなぁ。まっ、ヴォルフの初陣にしては丁度良かったんじゃねェか。大体勝手は解っただろ」

「まぁな……」

 ヴォルフの力は凄まじかった。

 大の大人を、あんなに軽々と、一方的にボコボコにできるなんて…。

 ここまで強い奴が、僕の味方になってくれるとは。

 本当に何でもできる気がしてきた。

「さて、或斗。ポイントの話だが…」

「あっ、そうだ!忘れてた!」

 元はと言えば、『トコヤミ』のポイントを貯めるために出てきたんだった。

 ヴォルフだって、ポイントを使って生み出した。

 現在0ポイント。

 『トコヤミ』の機能を使うには、ポイントを貯めるしかない。

「それで、ポイントを貯めるにはどうすればいいんだ?」

「クハハハ!もう貯まってるぜ。『トコヤミ』を見てみな」

「何!?」

 僕は慌ててスマホを取り出した。

 そして『トコヤミ』を開いてみる。

「ッ!!?」

 なんとメニュー画面の右上に、『65p』と記載されていた。

「65 ポイント!?なんで急に……」

「ポイントの源…。それは負の感情だ」

「負の感情…?」

「あァ」

 ムシバミが卑しく口角を上げた。

「悲しみ、苦しみ、怒り、恐怖、鬱…。人間の心に生まれる闇。それこそ負の感情。オニキス…『トコヤミ』はその負の感情を糧にする。即ちポイントが貯まるって訳だ」

「……つまり、この65ポイントは、さっきのホストを苦しめたから産まれた…と」

「そうだ」

「人間にストレスを与えれば与える程、ポイントが貯まるってことか?」

「その通り。クハハハ!察しがいいなぁ」

 何がおかしいのか、ムシバミが笑う。

 正直、こんな方法は予想してなかったな。

 ポイントを貯めるには、人に負の感情を与える。

 つまり、誰かを傷つけ、恐怖させ、苦しませる必要がある訳だ。

 流石は闇の力と言えよう。

 力を得るためには、誰かを傷つけるしかない。

 そう言われると、なんだか気が引けてきた。

 僕にだって、心はあるんだ。

 …けどまぁ、さっきのホストのような馬鹿共だったら、心は痛まないか。

 寧ろ社会貢献なんじゃないか。

 僕がさっきやったことは、害虫駆除なんだから。

「馬鹿共を懲らしめることで、力が得られる。いいじゃないか」

「だろぉ?或斗、これはお前にしかできないことだぜ」

「あぁ……。僕にしかできない」

 100pで作り出したヴォルフでさえ、あれだけの強さを誇るんだ。

 これから馬鹿共をどんどん駆除していけば…。

 いずれは、この世界さえ僕の物に…。

「僕が、この世の中を支配する」

 きっと夢ではない。

 この『トコヤミ』の…闇の力があれば、できる。

 地道な道のりになりそうだが、まぁ、焦らずにやっていこう。

 この世の中に、馬鹿はごまんと居るんだから。

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