#3 闇の根源/眷属作成
Side:Aruto
ムシバミが黒い掌から出した、黒色の丸い宝石。
それは艷やかで、且つ妖しい輝きを放っていた。
「何なんだよ、それ」
僕が問うと、ムシバミは不適に笑いながら答える。
「コイツはオニキス。或斗、お前に与える力の源…。闇の根源だ」
「闇の…根源……?」
「あァそうだ。気に入らねェ奴を消したい、潰したい、ぶっ壊したい…。この力さえあれば、お前の望むことは全て叶うだろうよ」
「全て…叶う……?」
「あァ。最もそれが強力な程、相応のエネルギーが必要になってくるがなァ。……おっ、丁度いい」
ムシバミはなんとベランダの扉をすり抜け、僕の部屋に侵入した。
そして、机に置いてあったスマホを手に取る。
「いちいち説明するのも面倒くせェ。こうすりゃ解りやすいだろ」
ムシバミはそう言うと、スマホの画面にオニキスを押し付ける。
すると突然、オニキスが黒煙を上げた。
そして、まるで泥沼に沈んでいくかのように、僕のスマホの中に入っていったんだ。
「あぁ!何するんだ!?」
僕は慌ててスマホを奪取した。
その反応が可笑しかったのか、ムシバミはまたゲラゲラと笑った。
まるで、わざとスマホを奪わせたかのように。
「クハハハ!安心しろ、壊しちゃいない。そいつは今まで通り操作できる。ただ、加えただけだ」
「加えた…?」
「スマホをよく見てみろ」
「……?」
意味が解らず、僕はスマホを操作した。
「……ッ!!?」
SNSやゲーム等のアプリが並ぶ、いつもと変わらない筈の画面。
その中に1つ、見覚えのないアプリが追加されていた。
アプリの名称は『トコヤミ』。
アイコンには、妖しい光を放つオニキスが描かれていた。
「トコ…ヤミ……?」
「クハハハ。最近のガキはアプリゲームが好きなんだろ?だからそれ風にしてやったぜ。早速起動させてみるといい」
僕はアイコンをタップし、『トコヤミ』を起動させた。
画面の中で黒い煙が上がり、その中から『トコヤミ』のタイトルが浮かび上がった。
もう一度タップするとそのタイトル画面が消え、何かのメニュー画面へと切り替わる。
『眷属作成』、『強化』、『融合』…と記された画面。
それから、右上に『100p』と表示されていた。
「本当にゲームみたいだな……」
「これを上手いこと使いこなせれば、お前の望むがままだ。使い方くらいは教えてやるからよぉ、耳の穴かっぽじって聞けよ?クハハ!」
ムシバミは楽しげに笑って続けた。
「まずは『眷属作成』。その名の通り、お前のスマホで映した物を眷属化させることができる」
「眷属化……!?」
「次に『強化』。これも字の通りだ。或斗、お前自身を強化する機能だ」
「僕自身を、強化……!?」
「最後に『融合』。これは作った眷属同士を融合させ、より強い眷属を作り出す機能だ」
「融合……!?」
「とまぁ、メニュー画面の説明はこれくらいだ」
「いや待て待て!」
僕はムシバミに待ったを掛ける。
こんなこといきなり説明されても、理解が追いつかない。
「そんな説明されても解らないんだが!?」
「俺様も一発で理解できると思ってねーよw」
「ならもっと詳しく___!!」
「やっぱ面倒くせぇ〜wどれでもいいから使ってみろよ。ものは試しっていうだろうが。ただし、ポイントに注意しとけ」
「ポイント?……もしかして、これか?」
僕は右上の『100p』を指差す。
ムシバミがゆるりとスマホを覗き込んだ。
「そうそう、それだ。『眷属作成』も『強化』も『融合』も、何をするにもポイントが要る」
「……『トコヤミ』で何かするには、このポイントの範囲内ってことか?」
「そういうこった。使ったポイントは戻ってこねェからなァ。考えて使えよ?」
ムシバミはニヤニヤと笑いながら言う。
さっきから馬鹿にしたような態度取りやがって。
そもそもこの『トコヤミ』で、本当に僕の望むがままになるのか。
確かにこのムシバミといい、スマホに入ったオニキスといい、さっきから超常的なことしか起こってないが……。
まぁ、とにかく使ってみるか。
ものは試しっていう考え方には同意だな。
ムシバミの説明的に、『融合』はまだ使えないだろう。
だったら『眷属作成』か『強化』だな。
僕はとりあえず、『強化』を押してみる。
その先に現れた画面に、僕をデフォルメしたようなキャラクターが映っていた。
それから、『自身を強化しますか?』という質問文に、『Lv.1→Lv2.』の表記と、『強化する』のボタン。
さらに『強化する』の文字の下には、少し小さく『100p使用』と書かれていた。
「……1回の強化だけで、この100pは無くなってしまうのか?」
「そういうことだ。ちなみにレベルが上がる度に、必要なポイントは増えてくからよく考えろよ?」
胡散臭い割には何でも答えてくれるな、ムシバミは。
とはいえ、この1回の強化だけで100p使い切ってしまうのはどうなんだ。
僕がLv.1から2になったところで、何か変わるのか。
いや、変わるには変わるかもしれないが、おそらく微妙な変化だろう。
目に見えない変化になるってんなら、それに使うのは気が引ける。
だったら『眷属作成』にしよう。
僕的にも、こっちの方が気になる。
メニュー画面に戻ると、僕は『眷属作成』を押した。
すると、現れたのはカメラ機能だった。
スマホの画面に、僕の部屋全体が映し出される。
「これは、どうしたらいいんだ?」
質問というよりは、ほぼ独り言のような言い方になってしまった。
だが、それでもムシバミは答えてくれる。
「眷属は身の回りの物にポイントを注ぎ込んで作る。物によっては異常な量のポイントが要求されるがなァ。とりあえず、スマホに映った物を指で突いてみろ。……お〜?これなんかどうだ?」
ムシバミは、小さめの本棚の上を指差した。
その先にあったのは、『覆面アサシン ヴォルフ』のソフビ人形。
『覆面アサシン』は毎週日曜の朝に放送されている特撮ドラマで、『ヴォルフ』はそれに出てくる戦士だ。
黒色に白毛が入った狼のマスクに、黒のインナーとロングコートを身に纏っている。
両手両足の狼らしい鋭い爪に、フサフサの尻尾。
このデザインが気に入り、ソフビを部屋に飾るようになった
僕はヴォルフをスマホで映し、タップした。
すると赤い枠線がヴォルフを取り囲み、『眷属を作成する』のボタンが現れた。
さらにその下に『10p使用→Lv.1』の表示が現れ、左側に『−』、右側に『+』が表示されている。
試しに『+』を押すと、『20p使用→Lv.2』に切り替わる。
さらにもう一度押すと、『30p使用→Lv.3』。
なんとなく勝手が解った。
「ポイントを使う程眷属が強くなるってことか?10p毎に、レベルが1上がる」
「クハハ!その通りだ!解ってきたじゃねェか!ちなみに、今ンところ作った後からレベルを加算したりできねェからなァ。考えて作れよォ?」
ムシバミは相変わらずだ。
顔には口しか無いのに、細い醜悪な目を想像できる。
それより、どうするか。
今の持ちポイントは100。
ヴォルフは最大でLv.10にできるが……。
迷ったところで、他に使い道が思いつかない。
「……とりあえず、全部使ってみるか」
1回強化した僕より、ヴォルフの方が強い。
ていうか、ヴォルフには強くあってほしい。
どうせ最初の1回目だ。
やってみなければ解らない。
僕は『+』を押しまくって100p使用の状態にし、『眷属を作成する』を押した。
その途端、ヴォルフ人形が浮かび上がった。
かと思うと、人形は黒い煙を纏い始め、それがだんだん大きくなっていく。
「なっ…何だよこれ……!?」
「決まってんだろ?眷属ができてンだよォ」
ムシバミがそう言ったところで、急に黒煙が霧散した。
その中から現れたのは、狼の顔をした大男。
ムシバミと同じくらいの背丈をしたそいつは、黒のインナーにロングコートを身に纏っていて、手足には鋭い爪が生えている。
そして黒と白の毛が混ざった、フサフサの尻尾。
「……ヴォルフ?」
間違いない。
目の前に居るコイツは、ヴォルフ人形が変化したもの。
ただ、僕が知っているヴォルフとは少し違って、頭に1本の角が生え、手足の周りの毛量が増している。
身長だって、本来よりデカい。
これは眷属作成の影響なのだろうか。
まぁ、それはそれでカッコいいが。
「おぉ〜。最初にしてはいい出来じゃねェか」
あのムシバミも、感嘆の声を上げる。
不思議と悪い気はしないな。
「カッコいい…じゃなくて、コイツが僕の眷属になるのか?」
「そういうこった。コイツは今この瞬間からお前の手足。お前の思うがままに動かせる」
僕は改めてヴォルフの顔を見る。
すると、ヴォルフも視線を返してきた。
何なのだろう、この安心感は。
ヴォルフなら、本当に何でもやってくれそうだ。
「ヴォルフ、これからよろしくな」
そう言うと、ヴォルフは深々と頷いた。
「クハハ!さて、眷属もできたことだし、早速行くかァ!」
ヴォルフに見惚れていると、ムシバミが豪快に笑いながらベランダに出た。
本当にコイツは訳が解らない。
「ちょっと待て!行くってどこに!?」
「クハハハ!眷属の実力を見たいだろ!だったら外が一番だ!……それと、ポイントの稼ぎ方を教えてやるよ」
ムシバミの口が、また醜く歪んだ。




