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#12 燃える刀/燃え上がる闘志

Side.Aruto


 次から次へと…。ふざけるなよ。

 今置かれている状況に、僕は苛立っていた。

 姫路由希。

 僕を心配してくれたり、馬鹿共から庇ってくれたりして、最初は味方だと思っていた。

 何なら僕のこと好きなんじゃないかと思うくらい。

 だけど結局、この女は馬鹿共の肩を持った。

 さらには変身して、僕の邪魔をしたんだ。

 だから僕は解らせてやるために、コイツをズタボロにしてやった。

 素直に謝れば赦してやるつもりだったのに…。

 だけどこの女は、立てなくなるくらいボコボコにしても、目を覚まさなかった。

 まぁ、時間を掛ければ心変わりするだろう。

 アジトに連れ帰って教育してやろうと思った矢先、新手が現れた。

 それは赤髪の、黒いセーラー服姿の女だ。

 おそらく、てるてる坊主が呼び出したんだろう。

 アンテナ眷属がやられたことで、通信が可能になったんだ。

「……」

 奴は無言で、姫路さんを板壁に寄りかかるような形で座らせた。

 その間、こっちに背中を見せている。

 だが、隙なんて感じさせなかった。

 おそらく奴は、パルスを殺した奴らと同格。

 変身したてで経験が浅い姫路さんより強いだろう。

 ここは一旦退くか…。

「フン!誰が来ようと、この俺の相手じゃないんだゾ!!」

 だがダイカクは、やる気満々だ。

 全身の筋肉が膨張している。

 ダイカクは姫路さんと戦いはしたが、傷一つ負っていない。

 それに、相手はパルスの時と違って1人。

 もしかして、ダイカクなら押し切れるんじゃないか。

 なんだか、そんな気がしてきた。

「穂香!あのカブトムシを街に放つ訳にはいかないル!やれるル!?」

「……あぁ。うん」

 赤女は小さくて低い声でてるてる坊主に応え、構えた。

 気怠げに見えて、目は真剣だ。

 あっちもやる気らしい。

 僕を邪魔する女共は、一人一人が強くて厄介な存在だ。

 だが、この場で一気に2人も潰せるとしたらデカい。

 コイツらを連れ帰っていろいろ調べれば、今後の戦いが優位に進む筈だ。

 調べ尽くした後は、駒としても使えるかもしれない。

 徹底的に使い倒してやる。

「ダイカク、やれ!」

「合点だゾ!」

 命令に応えたダイカクは、物凄い勢いで飛び出した。

 この巨体で攻められるのは、恐怖でしかないだろう。

 だが、赤女は全く同じタイミングで飛び出していた。

「何ィ!!?」

 流石にこれは想定に無かった。

 ダイカクが驚きの声を上げる。

 攻撃を受ける前に、慌てて拳を振るう。

 しかし赤女は、それを前に跳んで避ける。

 そしてすれ違いざまに、裏拳でダイカクの後頭部を打った。

「ぐっ_____!!」

 ダイカクは足をふらつかせる。

 しかし、なんとか踏ん張った。

 赤女はというと、その後ろで涼しい顔をしている。

「この!!ナメるんじゃないゾ!!」

 ダイカクが即座に振り返り、太腕を横に薙いだ。

 だが赤女は、それをしゃがんで躱す。

 それに続けて、ダイカクの腹に拳を入れた。

 ただ、それが速すぎる。

 一瞬で3、4発入ったんじゃないか…。

「ごえっ!!……このォ!!!」

 キレたダイカクが、拳を振り下ろす。

 だがそれも、ヒラリと跳んで躱された。

 地面にダイカクの拳が突き刺さる。

 赤女はダイカクのその腕に着地し、再び跳躍した。

 その瞬間、赤女の右足が燃え上がった。

「なんダゾ!!?」

 仰天するダイカクの頭を、赤女は容赦なく蹴り抜いた。

「ゴベッ______!!!」

 頭から地面に激突するダイカク。

 それに対し、赤女は少し離れたところで余裕そうに着地した。

 だが、これで終わる奴じゃない。

「まだまだダァアアアアアアアアアア!!!!」

 タフネスを売りにしているダイカクは、瞬時に起き上がった。

 その勢いのまま、赤女に殴り掛かる。

「ッ____!!」

 流石に赤女もこれは予想外だっただろう。

 それでも反応が速い。

 焦りで顔を歪めながらも、応戦に出たんだ。

“ガキン______!!!!”

 拳と拳がぶつかり合う。

 その衝撃波で、僕は吹っ飛びかけた。

 ダイカクのパワーは流石だが、それより小さい赤女も負けてない。

 僕と変わらない歳の少女だろうに、変身するだけであそこまで力が出せるのか。

 やはり厄介だ。

 だがダイカクは、パワーだけなら僕の眷属の中ではトップクラス。

「くっ……!!」

「おん……どりゃあァアアアアアアアアアア!!!!」

 ダイカクが拳を振り抜く。

 ふっ飛ばされた赤女は、後ろの廃ビルに激突した。

 その衝撃でビルが崩れ、瓦礫が落ちてくる。

 それは山になって、赤女の姿を覆い隠した。

「やったか……?」

「はい、或斗様!勝ちましたゾ!」

 ダイカクは上機嫌で、両拳を空に突き上げる。

 あいつは、普通だったら死ぬくらいのスピードでふっ飛ばされた。

 その上、瓦礫の下敷きになっている。

 これは流石に助からないんじゃないか。

 瓦礫を掘り起こすのは時間が掛かるし、とりあえず姫路さんだけ回収して帰るとしよう。

 そう思った時だった。

“ドガシャァアアアアアアアアアアン!!!!”

 凄まじい轟音が鳴り響いた。

 砕けた瓦礫まで飛んでくる。

 廃ビルの方を見ると、赤女が埋まっているであろう場所から炎が上がっていた。

「ッ!!?」

「何だゾ!!?」

 何が起こったのか解らないけど、とりあえず構える。

 するとなんと、炎の中から赤女が現れた。

 奴は僕達に向かって、ツカツカと歩いてくる。

 疲れたような顔をしているが、威圧感が半端ない。

「私、あんまり気分が良くないんだ……」

 ここにきて、赤女が初めてはっきり喋った。

 その低い声からは、苛立ちが滲み出ている。

「もう、一気に終わらす」

 そう宣言した赤女が、右手を前に翳す。

 すると真っ赤な光と共に、どこからともなく日本刀が現れた。

 赤女は柄を右手で掴むと、勢いよく振る。

 それによって風が巻き起こり、その風圧で、僕はまた吹き飛びかけた。

「なんてパワーだよ…」

 僕がポツリと呟く間に、廃ビルを燃やす炎に異変が現れた。

 まるで剥がれるように空中へ舞い上がったかと思うと、1つの線になり、蛇みたいな動きで赤女に迫る。

 そして炎は赤女が持つ刀に纏わりついた。

 赤女は炎を纏った刀の切っ先を、ダイカクに向けた。

「刀を持とうが、力でこの俺に勝てる訳がないゾ!」

 そう言ってダイカクは、頭の大角を振った。

 お互い得物を向けたまま、ジリジリと間合いを詰めていく。

 先に動いたのは赤女だった。

 エグい速さで地面を蹴り、ダイカクに迫る。

 そして刀を横に薙いだ。

「甘いゾ!!」

 ダイカクはそれを角で弾いた。

 燃える刀と大角が打ち合う。

 ダイカクは意外と器用な奴だ。

 刀を持った奴相手に、頭の角だけで対等にやり合えている。

「ッ……!!」

 赤女は焦っているような、苛立っているような、そんな顔をしている。

 燃える刀を持ってきたからどうなるかと思ったが、どうやら見かけ倒しだったようだ。

 やっぱり所詮はただの女。

 ダイカクのパワーを抑えられる訳がないんだ。

「ダイカク!そのまま押し潰せ!!」

「合点だゾ!!」

 僕が鼓舞した途端、ダイカクのギアが上がる。

 大角による連続突きが、赤女を襲った。

「チッ……!」

 赤女は刀で対応するが、防ぎ切れる訳がない。

 ところどころ角が掠って出血している。

 奴は堪らず、バックステップを決めた。

 馬鹿だ。

 そんなの突進が得意なダイカクにとって、何の意味もない。

「下がったな!なら望み通り、穴空けてやるゾ!!」

 ダイカクは背中の翅をはためかせ、スタートを切る。

 一瞬で赤女に詰め寄った。

 そして赤女の鳩尾を角でぶっ刺す。

 ……筈だった。

「ッ…!?」

 予想外だった。

 角が届く直前、赤女は跳躍していたんだ。

 そして同時に、燃える刀を横に振る。

“ギィン_____!!”

 その一振りは、ダイカクの角を斬り離したんだ。

「ダ…ゾ……!?」

 ダイカクは一瞬、何が起こっているのか解っていなかった。

 だが目の前で落ちていく自慢の角を見て、現実を知った。

 その瞬間、ダイカクの斬られた角の断面が燃え始めた。

「うっ…うぉおあアアアアアアアアアア___!!!!」

 ダイカクは火を消すために、両手で頭を叩く。

 傷口から発火…。

 メチャクチャ痛いんだろうな。

 それにしても、赤女の燃える刀…。

 まさか、斬ったところが発火するのか。

「熱ィ!ぐぞっ!この!」

 それでもダイカクは踏ん張った。

 斬り落とされた角の断面に炎を宿したまま、右拳を構える。

「ぺしゃんこになるゾ!!!」

 ダイカクが赤女に向かって拳を放った。

“スパン!!!”

 しかし、それも通じなかった。

 その拳が届くより先に、腕ごと跳ね飛ばされたんだ。

「ぐっ…うぅうううううウウウウウウ!!!!」

 ダイカクは切断された腕の痛みに襲われた。

 そしてさらに、残った腕の断面から火が上がる。

 その隙を、赤女が見逃す筈がなかった。

“スパパパ_____!!!”

 ほんの一瞬で3回も、ダイカクの胸を斬り裂いたんだ。

 そして斬られた箇所が燃え上がる。

「ぐぉオオオオオオオオオオオオ_____!!!!」

 ダイカクはもう、悲鳴を上げることしかできなかった。

 傷を苗床とした炎が、別の炎と合わせるようにして広がっていく。

 これじゃあ、もはや火達磨だ。

「ぐっ……うぅううぅうう!!!!」

 ダイカクは、ついに両膝を着いた。

 いくら頑丈だからといっても、燃やされたらどうしようもない。

 武器である角も、拳も、もう使えない。

 背中の翅にまで、炎が燃え移っている。

 もうダイカクに、戦う術は無かった。

「チッ_____!!!」

 こうなったらもう、できることは何も無い。

 僕はその場から逃げ出した。




 家に帰り、自室に籠もると、僕は『トコヤミ』を開いた。

 ダイカクと、4人の戦闘員達、それからアンテナ。

 コイツらの存在が、無くなっていた。

「くそっ!!!」

 僕は拳を机に打ち付けた。

「よォ、荒れてるなァ」

 机の影から、ムシバミが出てきた。

 僕を茶化すように、クツクツと笑う。

「また眷属を亡くしちまったようだなァ。ポイント勿体ねェ〜」

「黙れ!!!」

 僕は再び机を殴った。

 何なんだよ、あの女は…。

 あの女達は…。

 どんなに強くてカッコいい眷属を作ったとしても、奴らは平気で上回ってくる。

 なんで僕よりあいつらの方が強いんだ。

 なんで僕が無様に逃げ帰らなきゃならないんだ。

 ふざけんなよ。

 なんで僕の野望を邪魔されなきゃならないんだ。

「まぁ落ち着けよ。結構ポイントが貯まってんじゃないのか?」

「ッ____!!」

 そうだ。

 悔しくも赤女には敗北を喫したが、馬鹿共と姫路さんを苦しめた分だけポイントが貯まった筈だ。

 僕は現在のポイントを確認する。

 『740p』。

 正直思ったほど貯まっていなかった。

 あれだけやって1000pいってないのかよ。

 まぁいい。

 ポイントの範囲内にはなるが、実質僕にできないことはない。

 調子に乗っている馬鹿女共に思い知らせてやるんだ。

 お前らが敵に回したのは、後の世界の支配者であるということを。

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