消えない影
撮影が進むにつれ、蓮の演技にはますます深みが増し、スタッフからの評価も上がっていった。しかし、その陰で彼は少しずつ追い詰められていた。毎晩、自分の内面を掘り下げ、役と向き合う過程は彼にとって初めての苦痛だったからだ。
ある日、撮影が終わってから蓮は一人、撮影所の外で空を見上げていた。ふと、隣に現れたのは、親友の健吾だった。健吾は仕事の関係でたまたま東京に来ており、連絡を取って久しぶりに会うことになったのだ。
「久しぶりだな、蓮。顔色、悪いぞ」
健吾の軽口に、蓮は苦笑した。しかし彼には、その言葉がただの冗談には聞こえなかった。役に入り込みすぎて、疲れ切った自分がそこにいることを、健吾に見透かされているように感じたからだ。
「なあ、健吾。俺、ほんとにこれでいいのか、わからなくなってきたんだ」
蓮は初めて、健吾に弱音を漏らした。健吾はしばらく黙って蓮の顔を見つめていたが、やがて穏やかに語りかけた。
「蓮、お前がどう感じているかは俺にはわからないけどさ。でも、お前が自分の心と向き合うようになったのは、すごいことだと思うよ。今までのお前は、周りの期待とか、見た目に甘えてきた部分があっただろ?」
健吾の言葉に、蓮は驚きを感じた。彼自身、自分がどこかで他人の期待に答えることだけを考えていたことに気づきつつあったのだ。




