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虚像の王子  作者: 進藤
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感情の扉を開く

 その日の夜、蓮は初めて詩織に本音を漏らした。



 「詩織さん、俺、もしかしたら今回の役、ちゃんと演じられないかもしれない……」



 彼の言葉に、詩織は少し驚いた表情を浮かべた。いつも自信満々で、どこか軽い態度を崩さない彼が、こんな風に悩んでいるのは初めてだったからだ。彼女は穏やかに微笑みながら、彼の肩に手を置いた。



 「蓮くん、演技はね、自分の感情と向き合うことから始まるのよ。あなたが心の中にある本当の気持ちを解放すれば、それが役に息吹を与えるわ」



 詩織の言葉に励まされた蓮は、再び台本に向き合った。自分が経験した喜びや悲しみ、嫉妬や孤独、そうした感情を一つひとつ思い返しながら、登場人物に近づいていった。



 次の日の撮影で、蓮は自分の殻を破るように感情を解放し始めた。これまでの撮影では見られなかった本物の苦悩や悲しみが彼の演技に表れ、監督の岸田も思わず息を飲んだ。



 「カット!……蓮くん、今のシーン、素晴らしかった。君の本当の演技が見えたよ」



 岸田の言葉に、蓮はほっとした表情を浮かべた。初めて「自分の心から出た演技」で周囲を納得させられたことに、少しの自信が芽生えていた。



 その後のシーンでも、蓮は自分の内面と向き合いながら演技を続けた。これまで軽んじていた「本物の役者」というものが、どれほど奥深いものかを痛感しつつ、その道を歩み始めたのだ。



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