そろそろプロとして味○素系の旨味調味料について語らしてもらうわ
どもども、稲村某で御座います。実は若い頃からずーっと、旨味調味料を盲目的に避けてました。原因は詳しく覚えてませんが、やはり誰かが唱えたグルタミン酸が舌に悪影響云々説だったんじゃないでしょうかね。しかし、自分が調理に関わる職業に就き先輩方から様々な意見を聞いている内に、自分の舌で感じ考えを改めました。つまり、今は旨味調味料肯定派です。味の○バンザイ!!
【 何だと!? お前は料理人なのにそんな手抜きで料理してるのか!! 】
↑こういった意見が世間じゃ流布してますが、でもねぇ……感情論で語られても、困るんですよ実際。そもそも、旨味調味料で舌が麻痺するとか、何の根拠も無い話なんですし。まず、旨味調味料の成分はグルタミン酸ナトリウムが主で、これは昆布や椎茸に含まれている物。これ自体が人間に害を成すような成分じゃ有りません。そして、手間暇掛けて出汁を取らないと金が取れる売り物にならないって幻想に関しては……只の感情論です。
【 おいおい、ラーメンだって昆布や鰹節や牛豚鶏使って出汁取ってるじゃないか! 手抜き商売するな!! 】
↑先ずですね、出汁を取ると旨味成分が食材から出るってのは当然の話です。和洋中仏東西問わず、美食を謳う料理は全て味のベースを取ります。しかし、皆さんが拘っているのは、何処で誰が取ったか、じゃないんでしょうか。↑みたいな意見を御持ちの方は、全ての料理は現場で出汁やスープを作らないと鮮度落ちるからダメだ、と仰有りたいのでしょう。でも、それじゃ調理人の生活はどーなっても良いって事になるんでしょうかね?
一例として、とあるカレー屋さんは二日間掛けてカレールゥの仕込みをなさるそうです。香味野菜やスジ肉をじっくり炒め、それを半日掛けて煮出します。そして一晩寝かせてからミキサーで細かくしスパイスを合わせて更に煮込み、実に旨いカレーが出来る。うーん、本格的!! ……ですが、それをチェーン店でやれるのか? と聞かれれば、答えは否です。個人店なら幾ら時間が掛かろうと個人の自由ですが、我々のように雇われて働いている会社員は、勤務時間の限界が有ります。ただ作って売って利益が出れば終わり、ではなく一日の営業が終われば収支報告書や発注伝票整理やら、やらなくてはならない様々な雑務が残されています。仕込みに二日間も掛かる料理は、そうした調理以外の仕事をする時間を削り取ります。一日十八時間働けと? バカ言うな、です。
では、そうした調理以外の仕事をするにはどうしたら良いか……はい、答えは一つ。プロの意見を汲み取り、キチンと吟味された食材を使い加工会社が責任を以て作った【 旨味調味料 】を使えば解決します。一店舗が仕込むより遥かに多い量を一度に作る為、そうした食材は非常に安価です。もし、貴方がゼロから【 旨味調味料 】に匹敵するだけの出汁を作ろうとしたら、昆布に六百円、干し椎茸に四百円、鶏ガラ百円に野菜その他五百円……はい、千円のラーメンに二千円近い原価を掛けて作らなきゃならんのです。つまり、ゼロから作る場合はそれだけの材料は掛かりますが、これを【 旨味調味料 】に代表される様々な既製品の出汁やスープ系食材に置き換えるだけで簡単且つ安価に作れます。どちらが得か、考えてみてください。
まあ、そうは言ってもラーメン屋に限らず外食チェーン店等に行って、あからさまに判る手抜き料理を出されたらお客様はお怒りになるでしょう。それは確かにそうなんですが、高級料理店で出される料理と我々のようなチェーン店で出される料理を同じ物として比較したり、それ以外の接客サービスを比較して憤慨されても困ります。回転寿司に来て「春が旬なんでしょ? 鰆ある?」と言われても、春先の鰆は余り脂乗りの良い物じゃありません。その中でも脂乗りした鰆となると、高くておいそれとは仕入れられません。ならば貴方が一本丸ごと買うと言うのなら、仕入れて握りにしましょう。そんな風に少数の顧客(幾ら高くてもすんなりと支払いが出来る方です)を満足させられるだけの品揃えとサービスが提供出来るのは、個人店だけなのです。
目に見えない料理への気配りは、結果的に食の安全に繋がります。中途半端な温度による長時間の低温調理は一部の菌の繁殖に繋がりますし、生の食感を求め過ぎれば食中毒を発生させる原因になります。短時間で出汁が取れる加工食材を使う調理は、そうしたリスクを軽減させる結果にもなるのです。無論、不必要な原価を削減出来れば、提供する料理の値段を安くする事も出来ます。安くて旨い代わりに加工食材を使った料理の方が、高くて安全性も曖昧な料理より安心して食べられると思いますが……それでも、皆さんは我々のようなチェーン店に個人店と同じ調理法を求めますか?
外食産業の料理というのは、常に原価と食中毒のリスクを考えながら提供されています。高くて旨いのは当たり前、安くて不味いと誰も食べない。そんな当然の事も、お金さえ払えばお客様なんだから料理人はいちいち文句言うな、と威張る方には判らないのです。たとえ百円のお握りでも、そこには様々な原価が掛かり、そして喫食まで適温保管する義務が発生します。出来立てホカホカのままを維持する為、保温器で七十度を維持したら……食中毒のリスクが跳ね上がります。低温調理に関しては【 中心温度が七十五度以上を三十分維持 】しないと細菌の繁殖を促してしまいます。ちょっと話が脱線してしまいましたが、加工食材を目の敵にすると原価維持や食中毒回避のリスクまで犠牲にしかねないのです。
個人が好き勝手に主張するのは、全く構いません。一生涯、自分は旨味調味料を口にしないぞ!! と宣言なさっても結構です。但し、それを他人に強制する権利は誰にも有りません。況してや、料理研究家や外食産業職員に無理強いしたり、お前は間違ってる! 等と喧嘩ふっかけるのはお門違い。我々のようなプロに金も払わん奴が何か言う権利は、誰が与えたのやら? お客はお金を払うまでは食い逃げと紙一重、会計済ませて帰って初めてお客様です。閉店過ぎてもダラダラと居続ける奴なんぞ……おおっと、それは今は関係ないか。
……ま、とにかく旨味調味料は使う量にだけ気を配れば、実に有り難い存在です。実際、家庭用として販売されている冷凍食品やレトルト食品のほぼ全てに【 発酵調味料 】又は【 旨味調味料 】が入っています。どちらも、一部の方が目の敵にしている例の調味料です。それらを全て排斥するのは、きっと無理ですが……それでも、貴方は【 旨味調味料 】を敵視しますか?