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Anomalyの世界旅路:異変に魅せられた探索者  作者: 夏衒
異変に魅せられた少年
4/28

出発の準備/目醒め

「ふわぁ~……」


ジンが欠伸を漏らしながら、登校中の朝日をぼんやり眺める。その姿に翔太が呆れ顔で声をかける。


翔太「おいおい、最近ずっと眠そうじゃないか、大丈夫かよ?」


ジン「まぁね、修行のせいで寝れてないんだよ」


ジンは重い足取りで答える。


翔太「お前、前に言ってたあの修行か?」


ジン「そう。修行というかトレーニング?いや修行かな?」


「どっちでもいいだろ!」翔太は笑いながらツッコミを入れる。二人はそんな会話をしながら学校へと向かう。


約二週間前のこと—— ジンが卒業後の進路を学校の先生に報告して帰宅した夜、祖父から武具一式を受け取った。 革鎧はジャストサイズ、ショートソードも完璧に手入れされている。土曜日の朝からこれを装備し動き回った結果、翌日は全身筋肉痛に。部活を卒部してから運動をしなくなっていた体には荷が重すぎたのだ。


「わっはっはっは!そらそうなるわ!お前がバスケしてた頃とは違うんじゃ」 祖父はその様子を見て豪快に笑い飛ばした。


「でも、どうしよう…。体を鍛えるのは分かるけど、何をすればいいんだ…」


床に倒れ込んだジンは呟いた。そんな彼を見て祖父は得意げに言った。 「それならワシに任せろ。友人に頼んどいたんじゃ、お前を卒業まで鍛えてくれる人をな」


そして、10月が始まった。特訓の日々だ。革鎧を身につけショートソードを携え、さらに荷物まで持ちながら動く——それは想像以上に過酷だった。


「翔太、お前もお父さんに鍛えられてるんだろ?」


「そうなんだよな。俺の扱う“力”は父さんと同じだから、訓練も似たようなメニューなんだよ」


ジンは驚いた顔で答える。「マジかよ。想像したくないな」 翔太は国直属の防衛軍に所属する隊長の息子。その訓練がどれだけ厳しいか、ジンには想像を絶するものがある。


学校に到着すると、いつもの日常が始まる。授業が終わり、放課後。教室を出て帰宅しようとする二人だったが—— 「さようならー」 翔太が軽く手を振る。


ピシッ!!! その瞬間、二人の周りの空気が変わった。 「え?」 「なんだ?」 ジンと翔太は異変を感じ取る。そして気づいた。周囲に誰もいなくなったことに——。


「おい翔太、みんながいないぞ!」


「まさかこれって…」翔太は何かに気づき、小声で呟く。


廊下の奥から足音が響く。


コツン…コツン… 姿を現したのは、黒いスーツに身を包んだ二人の男。


「今回は失敗だね。それでもやり切れ。任務だ」


「分かっているさ。さて、君たちに少し話があるんだけど、いいかな?」 軽口を叩く金髪の男と、その横に立つ黒髪でがっしりした体つきの男——彼らの目的は一体何なのか。

二人の会話からしてこの状況の原因が目の前の男二人によるものだとわかる…翔太と目配せでそんなことを話し合い一つの結論が出た。当たり前だが…


「逃げるか…?」


翔太が小さい声で問いかける。


「当たり前だろ」


ジンが即答するや否や、二人は目の前の状況を振り切るように走り出した。


「なら…」 「GO!」


ジンの合図で、二人は男たちが歩いてくる方向とは逆へ全力で駆け出した。


「逃げたか」 「まっ、そうなるよねー」 金髪の男は悠然とした態度で、逃げていく二人を眺めていた。


「外に出られるのは面倒だ。今回は捕獲が目的だが…最悪、生死は問わない」


「了解了解」 金髪の男が軽く返事をすると、手に持った札をひらりと投げた。札は空中を舞い、二人の後を追いかけていく。


「良かった、特訓しといて。結界のことを学んでおいて助かったよ」ジンが息を切らしながらも、少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「俺もだよ…でも、あれ多分黒蝶(こくちょう)の奴らだ」


翔太が険しい顔で呟く。


「黒蝶会? 醒者グループの?」


「そうだ。父さんが言ってた。一部の醒者グループが怪しい動きをしてるって。それが黒蝶会の連中だと思う」


黒蝶会——その名は醒者の間で知られた組織。全員が黒いスーツを身にまとい、その前身はヤクザだったという噂もある。


バチバチ!! 全力で走る二人の前にそれ以上のスピードで後ろから追いかけてきた札が結界を張った。


「あぶなっ!!」


一瞬にして目の前に現れた結界に足を止められた。


「ストップストップ、君たち判断が早いね!探索者志望かな?でも言ったよね?ここからは出られないって」 金髪の男の声が背後から響く。


「まずいな…どうする?」 ジンが焦りを隠せない中、翔太が服を引っ張った。彼の視線の先には、障壁に触れながら何かをしている翔太の姿があった。


「…それは嘘ですよね?(時間を稼がないと…)」


ジンは冷静を装いながら、男に問いかける。


「へぇ、よく知ってるね。さて、どうするつもりかな?」


金髪の男は余裕の笑みを浮かべている。


「………(翔太!早くしろ!!)」


バリン!! その瞬間、障壁が割れた。


「ナイス翔太!(間に合った!これで!)」 ジンが喜びの声を上げようとしたその時——


「待てジン!!」 翔太の叫び声が響く。


割れた障壁の先に現れたのは、異形の怪物だった。 それはまるで地獄から這い出てきたかのような姿。縫い合わされたような体、そして不釣り合いに巨大な頭部。


「イタダキマス!!アァ」


怪物が大きな口を開け、ジンに襲いかかろうとする。


「(やばい!なんだよこいつ…喰われる!!)」


ジンの体は恐怖で動かない。


「だから言ったのに…はぁー…蓮人(れんと)君!!出てきたで!」


金髪の男が札を投げると、光の障壁が再び現れ、怪物の動きを封じた。


ガンッ! 怪物は障壁にぶつかり、勢いを失う。


「ウグッ…ナンだ!?…チッ、ジャマクサイナァ!」


怪物が忌々しげに声を漏らす。そして次の瞬間—— 「”混貪(コントン)”!」 バリ、バリ、バリ!怪物の巨大な牙が、目の前に張られた結界を噛み砕き始める。


「あー…それはよくない判断だね」 金髪の男が呆れたように呟いた。その直後、怪物は障壁をゴクリと飲み込んでしまった。


その姿はまるで理性など存在しない。ただ己の欲望に突き動かされ、むさぼり続ける塊のようだった。


「”爪牙(そうが)・転”!」 ズバババッ! 突如、鋭い爪が怪物の体に襲いかかり、怪物は叫び声を上げた。


「アァァ!?イ、イテェ!!」


ジンはその光景をただ呆然と見ていることしかできなかった。体は恐怖で動かず、その場に釘付けにされてしまっている。


障壁を張った金髪の男の前に、新たな影が現れた。それは黒いスーツにマントを身にまとい、フードを深く被った謎の男だった。


謎の男は怪物が障壁を砕いた瞬間、鋭い回転を加え、爪撃を浴びせた。


「な、なにが起こってるんだ…」 ジンは呟くが、答えは得られない。


「おい!何突っ立ってんねん餓鬼ども!」 突如響いた声と共に、金髪の男がジンと翔太をガバッと抱えた。


「ちょっ、やめろ!」反射的に暴れるジン。しかし男は意にも返さず二人をその場から運び去った。


場所:屋上(疑似空間)


「今どきの学生は判断が良いな。しかも目醒めている…当たりだ。ただ、一人は妙だな。力を感じるものの何かが邪魔している。面白い…彼を狙おうか」 謎の男が呟く。


場所:二階の教室(疑似空間)


「危なかったねー君たち。だからおとなしくしてくれって言ったのに。まぁ少し外を見てくるから、今度こそ大人しくしててね」 金髪の男はそう告げると、教室を後にした。


「助けられたってことでいいのか…?それよりジン!大丈夫か?」 翔太が心配そうに声をかける。


「うん、大丈夫だ…助かった」 ジンはまだ混乱した表情で答える。


「それにしても…一体どうなってるんだ?」 翔太が考え込む。


「さっき抱えられたとき首に蝶の紋様が見えた。やっぱり黒蝶会だ。それにしても…助けてくれた?意味が分からん」


ジンも同意した。


「結界に閉じ込められたことは確かだけど、あれは…狂霊(きょうれい)なのか?」


彼らの目には、あの怪物の異様でおぞましい姿が焼き付いていた。狂霊の成れの果てかと思いきや、それには意思や人格すら感じられる不気味な存在だった。


「まさかww…あれはそんな綺麗な存在じゃないよ」 金髪の男の声が響き、彼が再び教室へ戻ってきた。


ジン「……」 翔太「……」 再び現れた男に二人は黙り込む。


「なんで急に黙るのさww」 男が笑いながら問いかける。


「いや、えっと、すみません…」


ジンがとっさに謝ると、男は軽く笑って肩をすくめた。


「はははっ、別に謝らなくてもいいよ」


「あの…」そして翔太が恐る恐る尋ねる。


「ん?そうだよ。俺も、そしてさっき君たちを助けてくれた男も、醒者組織黒蝶会(こくちょうかい)のメンバーだ」


その言葉が響くと、沈黙が場を支配した。


「え…」 翔太が驚きの声を漏らす。男は質問する前に正確な答えを返していた。それこそが翔太を固まらせる理由だった。


「あれ、違ったかな?」 金髪の男——コガネが首をかしげながら言う。その軽い調子に翔太は心の中で動揺していた。


「いえ…(聞かれてたのか?)」


「ならよかった。……そうだ君たち、手を出して」


突然の要求に、ジンと翔太は顔を見合わせる。どうすべきか迷っていると——


「だーいじょうぶだよ!何もしないから。あっ、君たち名前は?ちなみにオレはコガネ、もう一人は蓮人(れんと)だよー」


「…ジンです」


「翔太…」


コガネはニコリと笑う。


「うんうん、ジン君に翔太君ね。さっ、早く手を出して」


観念した二人は、渋々ながら手を差し出す。


「いいね、じゃあ…はい、これあげる」 スーツの内ポケットから取り出されたのは黒いブレスレットだった。


「これは…?」


「御守りだよ。持ってて損はない」


「なんで御守り…?」 翔太が怪訝そうに尋ねると、コガネはにこやかに答えた。


「まぁー、それは後になったらわかるよ。つけるのは利き手の反対ね」


ジンと翔太は言われるがまま左手にブレスレットをつける。


「さて、あの怪物についてだけど…なんていうんだろうねー、あれは異霊や狂霊のような……」


その時—— バゴォォン!! 突如として教室の壁が崩れ落ち、爆音が響き渡る。


「「「!?」」」


三人の視線が一斉に向けられた先から、凄まじい異様なオーラが漂っていた。ジンと翔太にもその威圧感は本能的に伝わり、全身が震える。


「二人ともオレの後ろに」


コガネの言葉に、二人は一歩後ろに下がる。


「アァ…アァ…」 現れたのは、先ほどの怪物。しかしその姿はさらに異様で、どこか知性を失ったかのようだった。


「!!、タ…ベ…コ…ナイ!!」 たどたどしい言葉を発しながら、怪物は大きな口を開け突進してくる。


「逃がさん! “爪牙(そうが)”」ザン! 壊れた壁から蓮人が飛び出し、鋭い爪撃で怪物を叩き伏せる。


「ウァァ……!」 怪物は痛みに呻きながらも、頭を蓮人に叩きつけようとする。しかし蓮人は素早い身のこなしで避け、さらに一撃を加える。


「ちょっと蓮人君!まだ戦ってるの!?」


「うるさい。こいつは少しおかしい。だがそれももう終わる」


「”無秩序(ム…チ…ツジョ)”!」 怪物が最後の力を振り絞ると、黒い靄がその体から噴き出し、辺りを覆い尽くす。


「なっ!」 ジンは迫り来る黒い靄から身を守るように顔を隠す。


「!? みんなどこに行ったんだ…」


気づけば、周囲は黒い靄に包まれ、異様な世界に変わり果てていた。


「はぁー…またかよ。次は真っ黒な空間…どこだよここ」


その時——


「アハハハハ」


背後から女の子の笑い声が響く。驚いて振り向くが、誰の姿も見当たらない。


「なんだよ…」


再び前を向き直した瞬間——


「バァ!」


ジンの目の前に怪物が現れる。


「イタダキマス」


「アァー…」ガブッ!


怪物がジンの右肩に噛みつき、骨ごと食いちぎる。だが奇妙なことにジンは痛みを感じず、恐怖すら消えていく。


場所:2階の教室(疑似空間)


「おい!おい!ジン、起きろ!」 翔太が叫ぶ声が響く。


「無秩序…?」 コガネが眉をひそめる中、蓮人が険しい表情で辺りを見回す。


「どこに行ったんだ?(おかしい…奴を一瞬で見失った…)」


ピキ…ピキキ……ピキ…。


教室の壁にひびが入り、結界の崩壊が始まる。


コガネ「! 結界が割れだした。もうすぐ消滅する! 速くここから離れるで蓮人君!」


蓮人「まて、二人をこのままにはしておけない」


翔太「いえ、俺とジンなら大丈夫です」


翔太が静かに口を開く。その強い眼差しに、蓮人は一瞬黙り込む。そして「どういうことだ?」と尋ねた。


翔太「流石に二人が学校にバレるのはマズイですよね」


蓮人「それはそうだが…」


翔太「それに、多分父さんが来ています」


コガネ「父ちゃん? 父ちゃんって……なんで父ちゃん?」


翔太「俺の父は軍の二番隊で隊長を務めています」


その言葉に二人は驚いた。


コガネ「二番隊の隊長っていうたら”レーベの英雄”やないか!」


蓮人「はぁ…分かった。なら幸運を祈る」


二人はそう言い残してすぐにその場から離れた。結界はどんどんヒビが入っていき最後にはピキピキ……バリン! と音を立てて結界が完全に割れ、疑似空間は消滅。元の教室へと戻った。


場所:2階の教室


外からはパトカーのサイレンが響いてくる。


「戻ってきたのか…?(怪物の気配はない)」


翔太は少しだけ安堵した。

結界が消滅すると同時に、疑似空間も跡形もなく消え去った。 窓の外にはまだ明るい空が広がり、教室の時計は短い針が一つ進んでいる。 しかし、ジンは未だに意識を失ったまま、目を覚ます気配はなかった。


「こっちだ!2人分の気配だ!」 教室の外から複数の声と足音が近づいてくる。


「翔太!ジン!大丈夫か!?」


教室に飛び込んできたのは、2人の警察官と数人の教師。その中には担任の黒木先生の姿もあった。 黒木先生は倒れているジンに気づき、すぐに駆け寄る。


「先生!」 翔太が声を上げると、黒木先生は安堵の表情を浮かべた。


「無事で良かった。いったい何があった!?それにジンはどうしたんだ!?」


「ジンは急に意識を失って、目が覚めないんです」


「とりあえず保健室に運ぼう。それから救急車を!翔太も一旦ここから離れよう」


教師の一人がジンを抱きかかえ、保健室へと運び込む。その後、黒木先生も立ち会い、警察官による聞き取りが始まった。


翔太は黒蝶会の二人のことを伏せ、気づけば周囲に誰もいなくなり、怪物が現れたため二人で逃げ回っていたと説明した。 助けてもらった恩がある以上、黒蝶会の存在を明かすことはできなかった。


場所:???(精神空間)


「なんだ…腕が食われたのに痛くない…それどころか、なんかあったかい…」


ジンは空間に張り付けにされていた。 チャポン…ポチャン… 水音が響く中、彼の前に真っ白な男が現れる。


「まったく…精神世界は術者の心象が反映されるが、困ったものだ。やはり泣き虫は嫌いだな」


その男は顔も体もすべてが真っ白で、まるで“白”そのものが人間の形を成しているかのようだった。


「誰だ…おまえ…」


「ん?君の見えてる通り、白と呼んでくれて構わないよ」


白と名乗る男はジンに近づき、全身を観察し始める。


「ふむ、やはり目醒めている…」


白は独り言を呟きながら、周囲を見回す。怪物の姿はどこにもない。確かに右腕を噛み千切られたはずだが痛みが無い。


白は静かに呟くと、突然ジンの胸に手を突き刺した。


ズボッ!


「ごはっ!……」


ジンは激痛に襲われる。噛み千切られた時とは比べ物にならない痛みが全身を駆け巡る。


「はははっ、痛いか?www」


「(あぁ…まずい、意識が…)」


ボワァ… 突き刺された心臓部から炎が燃え上がる。


「やはりか!面白い!初めて見るぞ!!」


白が興奮した声を上げたその時、彼の背後に巨大な影が現れた。


「ウァ…アァ…”混貪(コン…トン)”」ガブッ!


影の正体は怪物だった。怪物はジンを貫く白に噛みつく。


「邪魔をするな!」 白は低い声を響かせると、勢いよく怪物を殴りつけた。


「ウァァ!……ハァ…ニゲテ…ハヤク」 怪物は吹き飛ばされながらも、ジンに逃げるよう促すかのように声を絞り出す。


「うっとうしいな。この餓鬼が…!いつの間にか意識を取り戻しやがって」 白は舌打ちをしながら剣を抜く。その姿からは冷酷な殺意が漂っていた。


チャキ…… 「死ね。“空斬(くうざん)”!」 白が剣を振り下ろしたその瞬間、怪物が反応する。


「“混貪(コン…トン)”!」


ドカァン! 二人の技がぶつかり合い、激しい衝撃が辺りを覆う。


白「貴様ら…!」


ジン「!」


ジンの目の前に、怪物が覆いかぶさっていた。 「!」


怪物は自ら放たれる技を打ち消すために力を使ったのではない。 空間に貼り付けにされているジンを助けるため、全力で技を放ったのだ。 見えない枷を噛み砕くために——


ボワン!!! 枷が砕け散り、ジンの身が自由になる。


「これは!?まさか……!」 白が驚愕の声を上げる。


目の前の怪物の行動にジンの胸は強く震えた。体を張って自分を助けてくれる存在が、かつて恐れた怪物そのものであったことに、彼の中の何かが変わり始めていた。 目に映るのは“子供たち”の姿。どこか同年代の少年や少女を感じさせるその存在に、ジンの感情が溢れ出す。


「……!」 その感情に呼応するように、眠っていた力が目醒めの兆しを見せるのだった——。


ジンの特訓<結界編>

「なぁ、師匠。結界ってどんなもんなの?」


ジンが興味津々に尋ねてきた。普段はやんちゃな彼が、こういう真剣な顔をするのは珍しい。


「ほう、結界か。最近の若者はあまり使わんからのぉ。まあ、せっかく聞かれたんじゃ。一度体験させてやるか」


師匠である浮和御章が、にやりと微笑む。なんだか嫌な予感がする。


「えっ、師匠って結界使えんの!?」


「もちろんじゃとも。さ、いくぞ」


「え、ちょっと待って――!!!」 ジンがそう言い終える前に、空気がピシッと震えた。次の瞬間、彼の周囲には不思議な空間が広がっていた。


数分後。


「どうじゃった?結界に閉じ込められる気分は」


「どうもこうもないよ!なんだよ今の!結界ってもっとこう、石とか置いて…儀式みたいにやるんじゃないのかよ!?それに気付いたら周りに誰もいなかったんだけど!」


ジンが叫ぶように文句を言うと、師匠は豪快に笑い飛ばした。


「わっはっは!確かに、お前の言うように石を置いて作る結界もある。それは一番完成された形の結界じゃな。ただ、今のも立派な結界じゃぞ?」


「えぇ…」


ジンは納得いかないような顔をしていたが、師匠はさらに話を続けた。


「今のはな、相手を強制的に閉じ込める結界じゃ。ただ、使える者はほとんどおらんし、エネルギーを大量に消費する。それに、結界を張るのに時間がかかりすぎるから探索には向いておらん」


「ふーん…でも、使い方次第じゃ結構役立ちそうだけどな」


ジンが言うと、師匠は少し目を細めて彼を見た。


「ええか、ジン。この強制結界は確かに便利じゃが、その制約とデメリットを考えんとな。だからこそ、結界術師になるには才能が必要じゃ。つまりお前には無理じゃな」


「はあああ!?俺だってやろうと思えばできるし!」


師匠の言葉にジンが反発する。そんなやり取りが続く中、彼らの特訓の日々は続くのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


次もぜひ読んでください。

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