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Anomalyの世界旅路:異変に魅せられた探索者  作者: 夏衒
異変に魅せられた少年
20/32

二兎を追う者は一兎をも得ないが、一兎だけ追う者も何も得ない

隊員「悪いがそこをどけてくれないか? 我々は国家防衛軍の者だ」


灰色ローブ「知ってるよ。だからこ……」


堅固「お前たちのことは知っている、正体を隠す必要はないぞ?」


自分たちのことを知っていながらどける気のない相手の言葉を(さえぎ)り堅固は剣を向けた。


少し前……

イアニス「では隊長、我々は城の方に向かいますので」


堅固「そちっは頼んだぞ、翔太の他にもジン君たち探索者が多くいるはずだどんな些細なことも見逃すな!」


イアニス「はっ!!」


仮拠点で少しの休憩とアルラドの古遺跡の調査のための準備をしていた時、オリエの(つい)結晶(けっしょう)が割れた。

オリエの相方は翔太でつまり翔太が今、異常と対面しているかその情報を得たということ、すぐに二組に分かれ城とその周辺をそれぞれ向かった。


隊員「なんだこの音……?」


堅固「音だと? ………俺には何も聞こえないぞ?」


隊員「本当ですか!? 何かこう……チリンチリンって鈴の音みたいな」


堅固「鈴の音?」

  「俺には聞こえないが……他にだれか聞こえる者はいるか?」


「はい」「聞こえます」「私も」「俺も」最初の隊員の他にも数人の隊員が鈴の音が聞こえると言い出した。少し考えてから堅固は聞こえるといった隊員たちに音の聞こえる方へと案内させることにした。


音の鳴る方へと向かっている途中に堅固はあることに気づいた


堅固「音は今も聞こえるのか?」


隊員「はい。今向かっている方向から絶え間なくチリンチリンと聞こえてきます」


堅固「そうか(おかしい……俺には全く聞こえないにも関わらず一部には聞こえる)」


隊員が向かう先から気持ち悪い空気が伝わってきた。自身の身体の中を攻撃してくる感覚、これは精神干渉…最初に聞こえると言ったのは言ったのは海都(かいと)


「なるほどな、そういう事か」


海都をはじめとしたこの5人は翔太を抜いた隊員の中で霜牙隊に入って日が浅い。

つまり他の隊員よりもまだ未熟なメンバーだ。翔太を抜いて。

そして一部の人間には聞こえてそれ以外の人間には聞こえない”音”これはおそらく、というよりほぼ確実に精神干渉系の事象だ。

アルラドの古遺跡がある双幻森林はその場所自体が広大な幻惑や幻想の力が満ちている。

ならばそこに起こる異常は膨れ上がった幻惑・幻想力なら十分理解出来る。


「あそこです隊長!!」


そう指す場所には他よりも異常に大きく立派なdazzle(ダズル)tree( ツリー)があった。その時には、ジンが体感した圧倒的な幻惑力による物理的圧力が襲ってきていた。


堅固「とりあえず行くぞ。目標はあの魅木の調査だ! 調査の主は、カイレルン頼む」


カイレルン「うん任せて」


堅固「進むにあたって自分が無理だと思ったら直ぐに下がれ! ここまで膨れ上がった精神干渉は自分の意識外で蝕まれる、ここから先は常に自分の直感を信じるんだ、堕とされた者は近くの奴が介護してやれ」


カイレルン「ちなみに皆ポーションは飲んでおいて、ここまでとなると意味はないかもしれないけど念のため」


カイレルンは隊全員に配ったポーションを飲ませ自分もポーションを苦い顔をしながら飲んだ。


堅固「なら行く……」

  「誰だ!!」


ババッ! シュタシュタッ! どこからともなく灰色のローブを着た集団が堅固達一行を取り囲んだ。ここから先にはいかせてくれなさそうな雰囲気で何も言わない彼らに堅固は口を開いた。


堅固「なんだお前ら?」


隊員「悪いがそこをどけてくれないか? 我々は国家防衛軍の者だ」


一人の隊員が軍であるということを表に出して道を開けるように言った。

Anomalyで国の法は通用しない、行ってしまえば無法地帯と言うことだがその中で悪意ある者や無法な者達を取り締まることができる立場にあるのが国直属の軍隊。それはつまり軍の看板は面倒ごとを片付けるのに有用ということだ。

実力行使する必要のない小心者の小物な悪党ならば、だが……


灰色ローブ「知ってるよ。だからこ……」


堅固「お前たちのことは知っている、正体を隠す必要はないぞ?」


自分たちのことを知っていながらどける気のない相手の言葉を(さえぎ)り堅固は剣を向けた。


堅固「その褪せた灰色ローブに首に見えるその模様、猿真似は相手を怒らせるだけだとわからないのか? 大元の黒蝶会は血眼(ちまなこ)になってお前たちを探してるぞ?」


灰色ローブ「はははは!! なんだよ、ばれてんのなら意味ねぇな」

     「悪いがここから先は行かせるわけにはいかないな。あれは俺たちにとっては大事でね」


堅固「くどいぞ、俺が抜いた時点で話し合いで解決できまい」


灰色ローブ「あぁそうかい」


堅固の言葉に両陣営の全員が武器を構えて戦闘態勢に入った。堅固達は8人、相手は15人以上で人数は不利……

それでも強気に堅固は攻撃を仕掛けた剛腕な力で振るう片手剣は堅固の力に負けないように軍専属の鍛冶師に作らせシンガレラと呼ばれる希少金属をメインにその他金属や素材を使った特注品だ。


ガキンッ!! 集団のまとめ役と見える相手に振り下ろした剣はその男が身に着ける両方の手甲で受け止められた。


堅固「……! 一撃で仕留めたつもりだったが受け止めるか、名前は?」


男は二乱(じらん)と名乗った。


二乱「なんの準備もなしにアンタに挑むわけなぇだろ? アンタの力に対抗するためのこの手甲はかなり高くついたよ」


堅固「そうか。”震波斬(しんはざん)”」


ズドン!! 初撃と同じようにシンプルな上からの振り下ろしだがそこに自身の醒力でを乗せた一撃は大きな音と共に二乱を襲った。


二乱「だから……対策したって言っただろ」


二乱も初撃と同じく二度目の攻撃を防いで見せた。そして二度の攻撃を受け止めた手甲は「シュー」と音を立てながら熱の赤みを帯びていた。


堅固「それがお前の言う対策か」


二乱「そうだ。異獣ヌアガギラの外殻を使った手甲、振動エネルギーを熱エネルギーに変換しやり返す。そして俺の醒力は”剛拳”! 拳の威力は折り紙付きだ」

  「”熱拳(ヒート・フィスト)”!!」


相手の攻撃を吸収し自分の攻撃に上乗せして相手に返す。吸収した攻撃の威力が高ければ高いほど威力が上がる手甲で二乱は熱拳を繰り出した。


堅固は二乱の熱拳を剣で受け止めたが自身の攻撃も上乗せされた威力に後退し、距離を取った。受け止めた剣が熱を帯びているのを感じた堅固は、二乱の言った手甲が振動エネルギーを熱エネルギーに変換することを確認し冷静に次の一手を考えた。


堅固「ふむ、お前の手甲は確かに厄介だが、それが弱点でもあるようだな」


二乱「それははったりか? あまりなめるなよ」


弱点だと? 何を言ってやがる……

武器破壊なら無駄だぜアンタと同じ系統の醒者でテストしたからな

それがわからねぇ男でもねぇはずだ


堅固は剣を構え直し、海人に目配せを送った。彼の意図を察した海都は、二乱と堅固の間に割って入り二乱に武器を向けた。


二乱「どういうことだ!? なんだお前!」


堅固「それじゃ任せたぞ海人」


海都「お任せください」


二乱「おい待て!! 逃げるのか?」


堅固「逃げるのではなく頼もしい味方に任せるんだよ。お前のその武器は俺の醒力に対して相性がいいみたいだがそれに特化したが故に……ここから先は言わなくても分かるだろ」


二乱「(ふざけやがって! 他の奴らは何してるちゃんと他の隊員を抑えておけと……)」


周りに視線を向けると人数有利だった仲間が数を減らされ押されている。霜牙隊は二乱たちが思っていた以上に強く大きな差があった。


二乱は海人を無視して再び堅固に向かって突進し、連続攻撃を仕掛けた。手甲の熱は今だ冷めず(こぶし)の一撃一撃に堅固の攻撃も乗っている。しかし、二乱の連打は堅固に届くことなく全て海都の”魔力盾(シールド)”によって阻まれた。


二乱「お前魔法使いか? はははは!! 馬鹿かお前! 近接相手に魔法使いが出しゃばってくるなんてな! 引っ込んでな!!」


人数の有利もなくなり心の余裕がなくなっていった二乱は言葉の語気が強くなった。それでも冷静に目の前の標的を堅固から海人に変えた二乱は魔法使いの得意な中遠距離での一方的な戦いを避けるためこちらが有利になる接近戦に持ち込むため距離を詰めた。


海都「バカはお前だ脳筋(のうきん)野郎」

  「”岩矢(ロックアロー)”」


二乱「”熱爆破(ヒート・パンク)”!!」


勢いよく突っ込んでくる二乱に牽制のロックアローを5本放ったが正拳突きと似た型から繰り出された熱爆破(ヒート・パンク)の爆発によってすべて粉々に砕けた。

爆煙によってふさがれた視界を利用しさらに畳み掛けるように二乱は拳を振り上げた。


(ヒート・)……! っ!!(熱がもう……)」


熱拳(ヒート・フィスト)で勝負を決めようとした二乱だったが手甲の熱が消えていることに気づいた。二乱の手甲は一度熱を纏うと自然に冷めるまでに時間がかかる。何より変換した熱を使った技を使えば使うほど冷めることなく熱くなる。

つまりは外部から強制的に冷却させられた以外に他ならない。


海都「”氷結(ひょうけつ)”」

  「だから脳筋と言ったんだ、もう少し頭を使え。それに向こうはもう終わったみたいだぞ?」


二乱「何!?」


堅固と隊員たちは二乱以外を制圧し、二乱を包囲した。


二乱「くそ…!」


堅固「わかったか? 俺に特化していても他の隊員が相手をすればいいだけだ。俺と一対一にできるだけの仲間がいれば変わっただろうがな」


二乱「黙れ! ”正拳”!!」


堅固「”波突き”」


バァァン!! 両者の技は互いにぶつかり合い大きな衝撃が走ったが結果は二乱の手甲が割れることによっておさまった。


二乱「!! 割れた!? 耐えられなかったのか!?」


堅固「一つ訂正しておきたかったんだ。お前の手甲に使われたヌアガギラは成獣ではあるがそれだけ、その程度なら真っ向から打ち破れる」


この光景に二乱を含めた灰色ローブの集団は動揺した。もう勝ち目はないと悟った時、ブーンブーンと大きな羽音が聞こえてきた。その羽音は周囲を異様な空気に変え不気味なオーラと共に大きく立派なdazzle(ダズル)tree( ツリー)の樹冠から姿を現した。


カイレルン「なんだあれ!? ベロか!? それにしては色が……」


二乱「(今だ!!)」


ズドン!! 堅固達が視線を奪われている間に二乱は地面を力強く殴り土埃を巻き上げてその場から退散した。それに続くように他のメンバーも倒れた者達を抱えて姿を消した。

意表を突かれすぐに追いかけようとしたが反応が遅れたこともあり逃してしまった。その時には視線を奪われた異虫ベロに似た異虫もいなくなっていた。


「逃がしたか、それにしてもさっきのは……。カイレルン! すぐにあの魅木を調べてくれ!!」


それ以降にあの異虫が出てくることはなかったが、大きなdazzle(ダズル)tree( ツリー)の麓からは大小さまざまで種族すら違う骨が何百何千という規模で埋まっていた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


次もぜひ読んでください。

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