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Anomalyの世界旅路:異変に魅せられた探索者  作者: 夏衒
異変に魅せられた少年
2/27

目醒め

「聞いたかい?輪凪さんとこのお父さん、亡くなったそうだよ……。」


「えっ、本当ですか!?……たしか、奥さんはいらっしゃらなくて、お父さんと息子さんの二人暮らしじゃありませんでしたっけ?」


「そうなのよ。とてもいい人だったのに、小学三年生のお子さんを残して……お気の毒にね。」


――父さんが死んだ。 その言葉の意味を理解するには、幼い自分にはあまりにも重すぎた。まだ友達と遊んでいた頃、先生に呼び出されるまでは、何も知らずに笑っていたのだから。


「ジン君、おじいさんが迎えに来てくれましたよ。」 そう言われて顔を上げると、そこには祖父の姿があった。


「ジンや、今日はもう家に帰ろう。」


「どうしたの、おじいちゃん?なんで今日は早く帰るの?」


いつもと違う雰囲気を感じ取ったものの、まだ状況を理解していない自分に、祖父は言葉を選びながら伝えた。


父さんが――もういない、と。


急に訪れた出来事だった。それでも、幼心ながらにわかったことがあった。 それは、優しくて大好きだった父さんに、もう二度と会えないということ。そして、家に帰っても、そこには誰もいないということ――。


「おじいちゃん!なんでパパいなくなっちゃったの!?嫌だよ!まだ……会いたいよぉぉ!!」


帰り道、祖父に抱きつきながら泣き叫ぶ自分。それでも現実は変わらなかった。


その日は祖父の家に連れて行かれる予定だったが、「どうしても家に帰りたい」と駄々をこねた結果、祖父は根負けし、父さんと暮らしていた家に戻ることになった。 後からおばあちゃんも来てくれ、夕飯を用意してくれたが、胸に空いた大きな穴が埋まることはなかった。


――父さんは“醒者せいじゃ”だった。 醒者。それは数十年前の天変地異によって生まれた、超人的な能力を持つ人たちの呼び名だ。 だが、醒者の登場は平穏をもたらすどころか、新たな混乱を生むこととなった。能力による事件や事故が相次ぎ、醒者たちは白い目で見られる存在となったのだ。


状況が一変したのは、天変地異からちょうど1年が経った頃。まだ“狂獣”の存在が知られていなかった時代――。 とある田舎町に現れた狂獣の大軍は、自衛隊や駆除業者を圧倒し、町を壊滅寸前に追い込んだ。その報告を受けた数人の醒者が立ち上がり、狂獣を討伐したことで、醒者への評価は一変した。


以降、狂獣が出現すれば醒者が討伐し、人々も感謝を示すようになった。 父さんもまた、そんな醒者の一人だった。正義感が強く、近隣住民たちから信頼される存在。自慢の父親――そんな父さんに、俺は憧れを抱いていた。


「……で、決まったのか?」 声が耳に届き、はっと我に返る。


「聞いてるか? おい、ジン!!」 黒木先生が大きな声で呼びかける。


「あ、はい!?」 慌てて答えると、先生がため息をついた。


「何をぼーっとしている。お前の進路の話だ。」 「あ、進路……そうでした!」


そうだ。俺たちは進路の話をしていた――。でも、俺の夢を話したら、おじいちゃんたちはどう思うだろう。


「あと残ってるのはお前だけだぞ。早く希望を教えてくれ。」 「……。」 「成績も悪くないし、生活態度も問題ない。就職ならまだ間に合うんだ。何を迷っているのか知らんが、しっかり考えろ。」


沈黙が流れる中、先生は少し考えた後、優しく言った。


「わかった。一週間後にもう一度聞く。それまでに家の人と話し合っておけ。」 「……わかりました。」


立ち上がり、先生と共に教室を出て校門へ向かう途中――。


「ジン……お前、探索者になりたいんだろう?」 「!!!」


先生の一言に足が止まる。 胸の奥に秘めていた想いを、まるで見透かされたような気がした――。


歩きながら先生に言われ驚いた。まさか自分の夢を当てられるとは思わなかったからだ。

探索者とは天変地異後に現れたジャングル、海底の神殿、天まで伸びる塔などの様々な異変の総称”Anomaly(アノマリー)”に個人で足を踏み入れ成果を追い求める者。


「お前の父さんが探索者だったように――」 黒木先生が淡々と言葉を続ける。


「それも含めてしっかり話し合えよ。」


「……はい。」 小さく頷くことしかできなかった。


その時、校門の外から馴染みの声が響く。


「おーい、ジン!早く帰ろうぜ!5時の音楽鳴ってるぞー!」


午後5時を告げる音楽が街に流れる中、友人の翔太がこちらに手を振っていた。


「ごめんごめん!今行く!……先生、それじゃあ失礼します!」 慌てて翔太の方へ駆け出しつつ、黒木先生に軽く挨拶をして校門まで走った。


「おう、気を付けて帰れよ。」


「翔太もな!」 翔太も明るく手を振る。


「遅いぞジン!さっさと行くぞ!」 翔太に追いつき、二人で歩き始める。


翔太とは中学からの付き合いだ。部活が同じで意気投合し、気が付けば高校も同じになり、登下校はいつも一緒だった。


ザッ…ザッ…ザッ… 足音だけが響く帰り道。


「なぁ、もうすぐ卒業だぜ。早くね?」 翔太がふと呟いた。


ジン「まだ9月だよ。卒業まではまだもう少し先だろ。」


翔太「いやいや!もう9月の半ばだぞ!卒業は3月だから、あと5ヶ月半くらいしかないじゃん!」


ジン「まだ5ヶ月もあるだろ。」


翔太の少し寂しげな声で「“まだ”じゃねぇ、“もう”だろ。高校生やってるのもあと少しだぜ……。」と言葉を返す。


ジン「翔太は就職だっけ?」


翔太「ああ、探索者になるつもり。」


ジン「探索者? 防衛行くかと思ってた。お父さんが防衛の……えっと、班長だっけ?」


翔太「隊長な! 父さんの部隊が防衛から探索に変わったんだよ。それで、そっちについて行く形さ。」


ジン「なるほどね……。なら軍ではあるのか」


翔太と話を続けながら歩く道は、どこか懐かしく、どこか寂しい。そして別れ際――。


翔太「ジン、お前は?」


ジン「俺は……迷ってる。」


翔太「まだ迷ってんのか? まぁ、ジンなら大丈夫だろ!」


翔太の言葉を背に、別れ道を歩きながら考える。


「父さんが死んだのも醒者だったからだ……。なのに、そっち側の仕事を目指すなんて、許してくれるだろうか――。」


考えながら歩いていると、すぐに祖父母の家に辿り着いた。父さんが亡くなった後、俺はこの家で祖父母と一緒に暮らしている。父さんがいなくなった悲しみを癒し、育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんには感謝してもしきれない。


だからこそ、父さんと同じ道を目指すことを話した時、二人がどう思うのか――それが不安でならなかった。


「……って、あれ?」


普段、使われていないはずの車庫に、ピカピカの黒い車が止まっている。


「ただいまー!」


誰の車だ? そう思いながら、玄関の扉を開けた――。


これをなろう小説風にアレンジして

叔母さん「おっ!やっと帰ってきたねジン!少し背が伸びていい男になったかな?」

ジン「えっ、叔母さん!?叔母さん帰ってきてたの!?」

叔母さん「久しぶりだねジン!少し見ない間に大きくなったねー!」


夕方5時過ぎ――学校から帰宅したジンを出迎えたのは、スーツ姿の凜叔母さんだった。


ジン「あれは叔母さんの車だったのか……。」


叔母さん「そうだよ、新しく買ったんだ!いい車だr――」


「お帰り、ジン。凜、あんたは今から会社の人と外食に行くんでしょ?早く行かないと時間がないわよ」凜叔母さんが得意げに語り始めるのを、お婆ちゃんが軽くたしなめた。


凜叔母さんは32歳。父さんの10歳年下の妹で、キャンプ道具を扱う会社の経営者だ。そして、一年に一度は車を買い替えるという筋金入りの車好きである。


「それじゃ、ジン。私は行ってくるねー!」


「あぁ、うん。行ってらっしゃい……。」叔母さんは急ぎ足で家を出て行った。


「はぁ……。(相変わらず元気だなぁ)」 ジンは肩をすくめつつ、家に入った。学校の疲れを現すかのように「ただいま、お婆ちゃん。お腹すいたよ」と言い靴を脱いだ。


「フフッ、お帰り。今日はずいぶん遅かったね。それじゃ、ご飯にしましょうか。手を洗っておいで。」お婆ちゃんは優しく笑いながら迎え入れてくれた。


「はーい!」


ジンは2階の自分の部屋に荷物を置き、手を洗うとリビングに戻った。そこには、お爺ちゃんがソファでテレビを見ている姿があった。


「あっ、お爺ちゃん。ただいまー!」


ジンは勢いよく隣に座る。


お爺ちゃん「おー、お帰り。遅かったな、何かあったのか?」


ジン「うん、少し先生と話してたんだ。」


「はーい、ご飯できたよー!」 お婆ちゃんの声がリビングに響く。


お爺ちゃん「婆さん、ちょっといいか。林さんの件なんだが……。」


お婆ちゃん「はーい、ちょっと待ってくださいね。ジン、ごめんね。おかずを机に並べてくれる?」


「うん、わかった!」ジンは勢いよく立ち上がり、台所に向かうと目に入ったのは好物の里芋の煮物だった。


「おー!里芋あるじゃん!サイコー、それと鍋か、うまそー!」


家の外――


「お爺さん、どうでした?」


「まだ何も話していない。」


「そうですか……ジンは話してくれるかしら……。」


「心配するな。今日、話してくれるだろう。」


食卓に並べられた料理を前に、ジンは勢いよく声を上げた。


ジン「それじゃっ、いただきまーす!」


お婆ちゃん「はい、どうぞ。」


ジン「あ~、うまい!やっぱり里芋は最高だな~!」


お婆ちゃん「それは作ったかいがあったわ。」


和やかな空気が流れる中、ジンが意を決して口を開いた。


「俺……探索者になりたい。」


その言葉に、テーブルを囲む家族の時間が一瞬静まり返った。


「やっぱりか。」 最初に答えたのは、お爺ちゃんだった。


「お前の父さんも探索者だったが……それを今のお前が目指す意味は分かっているのか?」お爺ちゃんは続けてジンに質問を投げた。


「……うん」


その答えにお爺ちゃんは「それならいい。ワシらからは何も言わん。お前の夢を進むがいい」と理解を示し応援してくれた。


「本当に!?ありがとう、お爺ちゃん!お婆ちゃん!」 ジンは二人の優しさに心から感謝を込めて笑顔を見せた。


しかし――翌朝、家族の中でも一番情熱的な人が、ジンの前に立ちはだかる。


ドッドッドッド! ガチャッ!


「ちょっと、ジン!探索者になりたいってどういうこと!?本気なの!?」 土曜日の朝、目覚めたばかりのジンに凜叔母さんが詰め寄る。


ジンは負けじと「う、うん。本気だよ!」と返した。


叔母さんはどこか納得していない顔をしたが心の中で無理やり納得したように「そう……分かったわ。決めた」と呟いた。


ジン「えっ……なにを?」


叔母さん「ジン、あんた――うちの会社に入りなさい!」


凜叔母さんの言葉に、ジンは目を見開く。


ある森……。 パキパキ……。


「グァァ!」 静けさを破り、小さな命が卵から目覚めた――。


父の遺した日記に記された一文。


「俺たちの子が成人したら、連れていくよ――レイア。」

ここまで読んでくださりありがとうございます!


次もぜひ読んでください。

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