プロローグ
異変――世界の常識が覆された日。 「怪異」「化け物」「モンスター」……呼び名は人によって異なるが、その脅威は全て共通していた。世界中に溢れるそれら狂暴な存在は、人類の平和を根底から崩壊させた。
アルラド古遺跡――“王の間”。 探索者が数多の危険を乗り越え、ついにたどり着いたその地で、異虫『ベロ』が牙を剥いた。
「ジン、また分体が出たぞ!」 翔太の叫びが、張り詰めた空気を裂いた。
「分体か……分かった!翔太は本体を狙え!」 ジンが応じるや否や、分体元から三分の二ほどの大きさの分体ベロが、十二匹に分裂して襲いかかってきた。
翔太はジンの指示に頷くと、左右から迫る分体を無視し、本体へ一直線に突っ込んだ。
「前回のお返しだ――”網火”!」
ジンの手から放たれた網状の炎が、左右の分体を一気に焼き尽くす。その技は、かつての戦いで敗北を喫した彼の成長の証だった。
「片付いたぞ!」ジンが声を張り上げる。
「ナイスだ、ジン!今度は俺の番だ――”波突き《はづき》”!」 翔太の手に握られたロングソードが分体元に突き刺さり、剣先から放たれた衝撃波が分体元を粉々に爆散させた。
「やったか……」と息をつくジン。だが、その瞬間、空気を裂くような薄羽音が響き渡る。
「来たか……!」 天井を覆う暗闇の中から姿を現したのは、異虫ベロの本体――人類が恐れる“the holy one”だった。
「気を抜くなよ、翔太!」 「お前こそな、ジン!」 二人の探索者は、全身全霊でこの神聖なる存在に挑む覚悟を決めた。
――今から語るのは、何年も前のことだ。 時は20XX年、日本、都市部。 ゴーーン…ゴーーン……ゴーーン…ゴーーン……。不気味な鐘の音が街中に響き渡る。
「なんだよ、あれ……」「なに、あの影?」 賑やかだった街の喧騒は止まり、道行く人々は皆、空を見上げて足を止めた。
そう、この日――世界がその姿を大きく変えた。
最初の異変は、日本とイタリアの都市上空、そして太平洋の海上に現れた。 日本とイタリア、どちらの都市も高層ビルが立ち並び、24時間賑わう大都市だった。しかし、その空に突如現れたのは、巨大でただ見上げることしかできない謎の影。
そして、広大な青い海――生命の息吹が遠く感じられる静寂の中でさえも、同じ巨大な影が現れた。 その影は、どこか神聖とも思える鐘の音を響かせながら、悠然と空を滑るように移動していく。
影は、一つの鐘の音を響かせながらゆっくりと移動していく。
「天空島――」 調査の結果、判明したのは、それが空に浮かぶ巨大な島であるという事実だった。この謎はすぐさま世界中のメディアで取り上げられ、人類史上初の異変として広く知られることとなった。
だが、これはまだ序章に過ぎなかった。
この日を境に――世界各地で異変が相次ぐ。
海底からは謎めいた遺跡が突如として現れ、ジャングルには天を貫く巨大な樹木が立ち並び、広大な海には未知の島が浮かぶ。そして、人々の住む街にそびえ立ったのは、見上げるほど高い謎の塔。
次第に環境だけでなく、生命そのものも変わり果てる。――変貌を遂げ始めたのだ。 山に住む動物たちは凶暴化し、異常なまでに巨大化して人を襲うようになった。海では、恐竜のような生物が漁船を襲撃し、多くの命が失われた。
人間もまた、例外ではなかった。
”醒者”――そう呼ばれる存在が現れる。 彼らは、角や尻尾、翼などを持つ異形へと変貌する者、あるいは外見こそ人間のままだが常人を遥かに上回る力を持つ者など様々だった。
――地球は、そのもう一つの顔を、ついに人類へと晒した。 そして、この変革の中で、一人の少年の胸に芽生えた想いが、新たな物語の始まりを告げる――。
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