前編(妹、フィーナ・アドラー視点)
☆☆☆商店
「おい、このオルゴール、もらっていくぜ!」
「有難うございます。金貨一枚でございます」
「はあ、俺は『もらっていくぜ』と言ったんだぜ!お前は承諾した」
「それを持っていかれたら・・」
「お父さん。危ないから、腰に剣を差しているわ」
「ヒヒヒ、俺は冒険者の剣使いだぜ!」
・・・ヒヒヒ、このオルゴールを、酌婦のキャサリンにプレゼントするぜ。
しかし、良い世の中になったな。衛兵隊は削減、人手が足りなくて、こんな万引きじゃ。通報しても来ない。さあ、とっとと店を出ようぜ。
あれ、店の出入り口を塞いでいる奴らがいる。
邪魔だな。迷惑行為はやめろよな。
先頭は幼女で、あとは、ごっつい、ゴロツキか?
避けるか。
「おじしゃん。待つの~~」
幼女が声をかけた。オレンジ色がかった金髪に、エメラルドグリーンの瞳、白とピンクのヒラヒラのドレスを着ている。
一言で言えば、妖精だ。
何故、行く手を塞ぐ。
「おい、どいてくれ!」
「グシシシシ」
幼女の口角が、まるで、三日月のように曲がった。
「ほしーーーの。そのオルゴールちょーだい-」
「あ、何を言っている。これは、俺のだ!」
「グスン、グスン、あのオルゴールほしーの。お兄ちゃん達お願いなの~~」
と幼女が手を目に当て、泣いている仕草をすると、
「「「ハッ!」」」
「おい」
素早くオルゴールを奪われ、
複数の手と足が男を襲う。
バンバンバン!ドカドカドカ!
「ウギャアアアアーーーーー、返したから」
・・・因果応報、悪因悪果、善因善果、なら、私は間違いなく、悪因悪果だ。
だって、このオルゴールが欲しくて、欲しくてたまらないもの。
「はい、お嬢様!オルゴールでございます」
「グシシシシシシ!オルゴールなの~~。わーい。わーい・・・。飽きた。お店に返して来てくだしゃい~~~」
「はい!」
「この男はどうしますか?」
「刑務所いっぱいなの~、首に縄をつけて、罪を記した板を首にかけて、街をお散歩するの~」
「「「はい!」」」
・・・地獄は空っぽ。亡者どもは、このアドラー家、領都ザザランドに押し寄せて来た。
なら、亡者を晒すのが粋ってものよ。
☆☆☆店
「え、有難うございます。有難うございます!」
「おう、フィーナお嬢様が当主代行になれば、騎士団、衛兵隊も増員される。この領の治安も回復するぜ。もう少しだ」
「それまで、俺たちは、お嬢様を旗頭に、自警団をしているのさ」
「親分さん!ありがとう」
「だから、親分じゃなくて、自警団のフランキーだ!」
・・・私のお父様は、入り婿。善良だが、領政は出来ない。伯爵代行だ。自然とお姉様が領の政治を取り仕切るようになった。
炊き出しを強化し、貧民を救いまくった。だから、他の領の貧民達までもが押し寄せた。
お金が足りなくなったお姉様は、中間層の平民から増税した。
平民の怨嗟の声が広がる。
そして、更に、悪手を打った。騎士団と衛兵隊の大幅削減で財源を確保した。
すると、悪党どもが湧いてきたってわけ。
下手したら、この領も、王家に接収、だけど、私の欲しがりの心が覚醒したの。
領地欲し~の。王家に接収なんて、やーなの!
「グヒヒヒヒヒ~、悪党狩りなの~~~」
「お嬢様、きりがありませんぜ」
「いいの。バグとりなの。万引きでこうなると分かれば、抑止力になるでしゅ。悪狩りは地道にコツコツが大事でしゅ」
「「「はい!」」」
・・・ああ、血がうずく。欲しがれと、この6歳の体が震える。
屋敷では、お姉様の宝石や、ドレスを欲しがるフリをするが、そんなチンケなものに興味はない。
「お母様のお墓に行くでしゅ!」
・・・・・
「領地が欲しーの。お母様が大事にした領地が欲しい」
私は膝を折り。お母様のお墓に黙祷をした。
私が欲するものは、この領地だ。
☆☆☆裏路地
「お姉ちゃん。遊ぼうぜ」
「こっち来いよ」
「ヒィ、嫌です。やめて下さい」
「おら、こっち来いよ!」
・・・・・・
「ヒィ、やめて、もうやめて、やめて、ウゲ、ゲホ!」
ガン!ガン!ガン!ガン!
「いつまで、お嬢様、自ら、バグ取りを続けますか?フィーナ様の叔母様の公爵家に援助をお願いしたら如何ですか?」
「ダメでしゅ。力を見せなければ、相手にされないのが貴族でしゅ!ヒヨコも鷹として振る舞わなければいけないでしゅ!今は権限内でベストを尽くすべきでしゅ!
それに、魔法の実践になるでしゅ!フン!闇魔法、カゲの手でしゅ!」
男が宙に浮き。自ら、壁に頭が打ち付けられているように見える。
フィーナが、闇魔法でカゲで手を作り男の首根っこを掴み。
壁に打ち付けているのだ。
ガン!ガン!ガン!ガン!
「ゲホ、グハ、もう、やめろ。やめて下さい・・・未遂だから、暴行未遂だから、死んじゃ」
「殺すつもりでしゅ!」
「ヒィ、この領は死刑禁止だぞ!」
「甘いでしゅ。逮捕中の事故でしゅ!」
フィーナの姉リンディは、死刑を廃止した。
地球でも、先進諸国は死刑を廃止する傾向にある。しかし、少しも人権的ではない。
何故なら、逮捕途中に、銃殺される確率が、日本とは段違いなのだからだ。
逮捕状の読み上げ無しで、自動小銃を構えた武装警察が、アジトに突入する。そんな映像はテレビに流れるくらいだ。
当然、ここに押し寄せる無法者たちは、そんなことは知るよしもなかった。
「お嬢様、もう、そのへんで、男色窟に売りましょう。不細工でも需要はあるそうです」
「うっかりしていたでしゅ」
「「ヒィ、やめてくれ」」
「街娘さんを家まで送るでしゅ。純潔証明は、フィーナの名で書くでしゅ」
「ならば、いったん、屋敷まで、連れて行きましょう」
「あ、あの有難うございます。お名前を・・・」
「次期当主、フィーナ・アドラー様だ!その名を広めてくれたら、助かるぞ」
「はい!」
☆男色窟
「最近、供給過多よん。でも、レイプ犯なら、皆、興奮するの。虐める用よん。大銅貨8枚で買うわん」
「「ヒィ」」
「これ、違法じゃ・・・」
「大丈夫でしゅ。君たちには、市民権がないでしゅ」
チャリン♩
「まいどでしゅ」
フィーナは、このお金を、被害者に渡す。
間違えては、いけない。
騎士が商売をしてはいけない。
自警団は、フィーナの姉に解雇された元騎士達だ。
「自警団のみなしゃま。お給金でしゅ。一人、銀貨一枚でしゅ。少なくてごめんなさいでしゅ」
「有難いですが、しかし、大丈夫ですか?」
「財源は・・・」
「お姉様から、ドレスや宝石をおねだりして、工面しているでしゅ。フィーナのドレスの予算から出しているでしゅ。後は、お母様が残してくれたお金あるから、心配は無用でしゅ」
「「「グスン、グスン・・」」」
「お嬢様!」
「一生付いていきます」
しかし、これも、財源が心許ない。どうする?もって、数ヶ月か?
そしたら・・・・国軍が来るかもしれない。
☆次の日
「お嬢様、効率を考えて、山車を作りました。威嚇用です。お乗り下さい。皆の手作りです」
「でも~、引く人がいないの~~、あ、いたの。昨日、ボコった人たちをつれてくるの~」
「「「はい!」」」
☆
「ヒィ、暴虐欲しがり令嬢が、山車に乗って、巡回してくるぞ!」
「ヒデェ、山車を引いている奴ら、顔がボールのように腫れ上がっている。万引き犯や、強盗、食い逃げ犯だ!」
山車の上にはフィーナが、デン!と座って、メイドがお茶とお菓子を勧める。
ペロペロペロ~
「壮観でしゅ。悪人はいないでしゅか?」
「悪い子はいねがーーー」
「フフフフ、貧民街にレッツゴーでしゅ!」
「「「はい!」」」
フィーナが貧民街に来た理由は、賠償金を取るためだ。
「グシシシシ、このトムソンは、惣菜を一品、強奪したでしゅ!開放されたかったら、賠償するでしゅ!」
「ヒィ、そんなお金はありませんわ!」
「お父ちゃん!」
「グシシシシ、お布団を持って行くでしゅ!お布団欲し~の!お布団ちょーだい!」
「ちょっと待つです!フィーナちゃん!、そんなやり方はしてはいけないのです!」
はん?誰だ。あれは、同い年の聖女、マリア、
「マリアちゃん。邪魔するなでしゅ!」
「貧乏人からお布団をとってはいけないのです!フィーナちゃんはよい子なのです!人の心は、善なのです!」
「フィーナは・・・・」
人の本性は悪であると、もっともなことをいう輩がいる。
ほお、何か忘れてはいないか?
そう主張する者の本性も悪であることを忘れている。自分だけは善人だと思いがちだ。
そいつの親も兄弟姉妹もみ~んな悪で愚か者であると言っていることに気がつかないか?
あたしゃ、言えるよ。私は悪だ。お父様は悪だ。お姉様は悪だ。お母様は・・・・フウ、あたしは甘い。
お母様は悪じゃない。
このマリアと同じで、甘ちゃんだ。
「フッ」
「フィーナちゃんが笑ったのです!さあ、布団を貧乏人に返すのです!」
「フウ、布団はもらっていくでしゅ!マリアちゃん。フィーナは、この貧乏人を人にするために、布団を質にとるでしゅ!」
・・・私は、貧乏人から、布団を巻きげるフィーナちゃんを見ることしか出来なかった。
「聖女様、危ないです。教会に帰りましょう」
「でも」
私は、信徒の家を回ったのです。
「あの、貧乏人が、布団がなくて、困っているのです。寄付をお願いします」
「でもね。最近、厳しいのよ」
・・・・
どこも厳しいようなのです。
「エイ!」
ガチャン!
ブタさんの貯金箱を割って、お布団を買いに・・・あの貧乏人の家族だ。道で貧乏人の家族に会った。
え、肩にお布団を担いでいる。新品なのです。
「はあ、あの極悪欲しがり令嬢、布団を取りやがったぜ」
「でも、これを機会に、新しいお布団を買い換えたから良かったわ」
「あ、あの。すみません。お布団を買うお金もなかったのではなかったでしゅか?」
「ああ、おチビの聖女様、お金はあるのよ」
「トムソンは、まあ、いつか、釈放されるでしょう。お惣菜を一個、盗んだだけだし」
「グスン、グスン」
「あ、聖女様、手にお金をもっていますね」
「私らのために?有難く頂くぜ」
「うるさいのです!聖女タイフーンなのです!竜巻よ邪なる者を打ち砕け!」
ヒュ~~~~ヒュルヒュルヒュル~~~~
「ヒィ、せっかく、買った布団が吹っ飛んでいる!」
「付け毛まで、これは高かったのよー」
「みんな、死ねばいいのです!」
・・・私は、あれから、お惣菜屋さんにいったのです。ソーセージや、スープなどを売っているのです。フィーナちゃんがいるのです。
シュン「おばさま、ごめんなチャイでしゅ。トムソンの親子から、賠償金をとれないのです」
「いいのよ。このお店の売り上げのやっと、1割が純利益よ。だから、おかずを一品盗まれたら、10個のおかずを売って、やっと元がとるのよ。皆様、それが分からないのよね」
「グスン、グスン、トムソンを、物乞いをさせているのでしゅ。もうすぐ、賠償出来るのです」
「その気持ちで嬉しいわ」
・・・私は、物陰から見ていることしか出来ないのです。
「聖女なのに、何も出来ないのです。グスン」
「あら、聖女様、物陰から見ているわね。クス、こっちにおいで下さい。このポトフの味見をお願いしますわ」
「グスン、グスン、おば様に、祝福の光の舞!」
バラバラバラ~~~~
「まあ、綺麗だわ」
「お金払うから、ポトフ食べたいのです。ソーセージ大きめが良いのです」
「はいよ」
私は、祈る。祝福する。病気を治すぐらいしか出来ないのです。
世の中を幸せにしてこそ、聖女なのです。
これでは、回復術士さんになった方が、迷わないで済むのです。
「グスン・・・キャ、人の群れ?!」
「聖女様、危ない。お店の中に入って!」
ゾロゾロゾロ~~~~
およそ、数千人の群衆が、領主屋敷に向かう。
「私も、お屋敷に行くのです!」
「聖女様!」
・・・・
「お嬢様!群衆、数千人が、屋敷に向かっています・・」
「お屋敷に行くの。お姉様を・・・・最悪、殺すの!」
「「「・・・・・・・」」」
皆、無言だ。
事態は動き出した。
最後までお読み頂き有難うございました。