誰しもある夜のお話
ごめんね、そういう気の回し方されると、突っ込めないし困るよね。
「え、今?」
「え、うん?そうなんだよ、いやさ、俺がそこで余計なこと言わなければよかったんだけど。やっぱり、それかな、原因」
「あ、いえ。そんなことないと思います。その場で思いついた不具合になりそうなことは言っておかないとDRBFMにならないですし」
「今だったらわかるんだけどね、俺も新人だったから。あ、まあ今でも苦手なんだけどね、根回しとか」
気を遣ってくださって、ご自身の新人の頃の失敗談を唐突に語り始めている。これは多分、気にしないでいいといっても気にしてしまうだろう僕に対する優しさなのは間違いない。
「まあ、何が言いたいか」
「ビールはうまいですね!?」
「そっちかーい」
「はは、ワインが最高!」
周りの人達まで参加して、話が盛り上がり始めた。
「もう、あのさ、まだ俺たち、出会ってから1週間も経ってないし」「プロポーズ!?」「ヒュー」「ちょっ!?そういうキャラじゃないんですが」「まあ、ポメラニアンって可愛いよね」「お兄ちゃん、めんこいって思ってたけど、めんけおな」「違います!」
「ほら、いつまでもくよくよしてない!よくわからないけど、お肉食べなさい!ほら!」
メニューには200gのステーキの写真だけど。どう考えても厚さ3cmのヒレステーキが目の前に来た。来訪者様は財布を確認しようとしているけど、この人、動きが日本人すぎて不安になってくる。
「あ、大丈夫です。お金は預かっているので」「え、ああ、いや普通に払えるから安心して。つい財布があったか、癖で」「お一人で国外旅行される際は本当にその癖は危ないからやめてくださいね」「はい」
どこか、ほっとした顔をしたこの方を見て、僕も不安だったとわかった。
「すいません。ミスが続いて焦りました」
「いや、こっちも任せきりでごめんね」
「できる限り、頑張ります」
「大丈夫、そんなに慌ててないから。まずはローマを目指して旅しよう」「お、全ての道は」「ローマに続く」「間違えてスペインに行かないようにな」「巡礼の旅か、またその話かよ」「カルロのサンティアゴ・デ・コンポステーラの話はなげーぞ」「あんたたち、その話聞いてたらとっくにローマに着いちゃうでしょ!」
ステーキもフリットもシーフードも普通以上、今は食事より、まずは話をしよう。
「来訪者様は、スペインにも行きますよ」
「はは、じゃあ、スペインとローマについておすすめを教えてあげよう!」
「半世紀も前の話なんて、お店が遺跡になってらー」「この店も遺跡だーな」「ちょっと!?」
「いや、普通に気になるので教えてください」
【こんな普通の】夜は、ちょっと長い気がする。
ですよね、きっと。




