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第50話 トゲトゲ聖女と呼ばないで

「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10! もういいか~い?」


「ま~だだよ~」


「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10! もういいか~い?」


「もう~いいよ~」


 さーて、ユーリはどこに隠れたかな?

 私は、まずはお庭をグルッと見回します。


 まぁ、この私がこのフィールドで負けることなんてあり得ません。


 なにせ、私の生まれた家ですからね。

 自分が子供の頃に隠れた場所なんて、全て把握しています。


 おや? 庭の木の陰に何やら動く気配がありましたね。


 そろりそろりと、私は足音を立てずに木の裏に回り込みます。


「ユーリみ~っけ! って、あれ?」


 そこにユーリの、娘の姿は無く、あるのは小さなトゲトゲがあるだけでした。


 やられた!


「や~い! ママ、引っかかった! 引っかかった‼」


 ユーリがイタズラを成功させた子供よろしく、得意げに横の草葉の陰から顔を出す。


「はい、ユーリみっけ。ママの勝ちぃ~~」


「ママずるい~! 騙されたくせに~」


「かくれんぼは見つけた方が勝ちなんです~。だから、嬉しくてつい出てきちゃったユーリの負けです~」


「むぅ~ パパに言ってやろ~っと!」


「あ、パパに告げ口はズルいぞ~ 待て待て~!」


「キャアァァ!」


 娘のユーリを捕まえて、パパに告げ口をしようとした罰として、頬っぺたスリスリの刑に処します。


「どうしたのです? ユーリ」


 家のドアから、庭にティボーが出てきました。


「パパ~ ママが大人げない~」


「おやおや」


 ユーリがパパの胸に飛び込んでいきます

 どんな時でも穏やかなパパが、娘のユーリは大好きです。


「アシュリーは相変わらず子供と全力で遊びますね」


「私も子供の頃、お父様にそうやって遊んでもらったから。それより聞いて聞いてティボー! この子、もうトゲトゲを遠隔で創り出せるようになったのよ!」


「それは凄いですね」


「凄いぞユーリィーー‼」


 私は、パパに抱っこされたユーリを、パパごとまとめて抱き着いて、再び頬ずりした。


「ママ、頬ずりばっかりでウザイ」


 しゅん……


 5歳の娘が、もう第二次反抗期です。子供の成長って早すぎです。

 本当にあっという間に大きくなってしまうからこそ、今という瞬間を全力で楽しまなくてはなりません。


「それより、そろそろ朝食にしましょう。今日は王城へ行かなくてはなりませんからね」


「は~い。パパ、今日の朝ごはん何~?」


「いつものプレーンオムレツとブイヨンスープですよ」


「「 わぁい! やったー!」」


 私とユーリは、大好物のメニューに小躍りしながら、古ぼけた家のリビングに競い合うように走って向かいました。


「2人共、転んだら大変ですから走らないでください」


 ティボーから注意が飛んだ。




◇◇◇◆◇◇◇




「この格好、ホントいつ着ても嫌なんですよね」


 私は、王城の廊下を従者の方に案内してもらいつつ進みながら、ボソッと横を歩くティボーにだけ聞こえるように呟いた。


「私は好きですけど」


 不意打ちで褒めないでってば……


 けど、褒められたのは、このマナ様監修の聖女服だから、褒められてるのは微妙に私じゃないような?


 ちなみに聖女服は改修が何度か加えられて、現在はバージョン5くらいです。


「私に似合ってます?」


「はい」


「好き」


「聖女服がですか?」


 違うでしょティボー!


 と突っ込むのも最近は諦め気味です。

 この人は、結局いつまでもこんなんだから……


「ユーリはこの服好き~」


 ユーリも今日は、特別に王家からあつらえてもらった、母娘でおそろいの聖女服を身にまとっている。


「ユーリは最初から気に入っているみたいですね。格好良いママの姿を見て育ったからでしょうね」


 そこは可愛いからという理由であって欲しかったなと思いつつ、私たちは目的の部屋の前に到着し、従者の人が恭しく扉を開けた。




「エレナお姉ちゃ~ん!」


「お~! ユーリ久しぶりだね。しばらく見ない内にまた大きくなったね」


「うん!」


 王城の謁見室に入ると、待ち構えていたエレナにユーリが笑顔で飛びつきエレナが笑顔で抱っこする。


「エレナ久しぶり」


「アシュリーもお兄様も元気そうね。私は相変わらず激務で大変よ」


「女王陛下の補佐官を何年も務めるなんて、我が妹ながら凄いですね。もう何年になるんですか?」


「お兄様たちが結婚した時に女王陛下にスカウトされてからだから、6年目くらいかな」


 カラカラと笑うエレナは、仕事のできる格好良い上級貴族の女性然としていた。


「じゃあユーリ。パパとママがお話終わるまで、お姉ちゃん達と向こうで遊んでよっか?」


「うん! パパ、ママ、ばいばい!」


 笑顔で駆けだして部屋を後にするユーリとエレナと入れ替わるように、謁見の間に2人が入って来た。


 私とティボーは臣下の礼として、その場に跪いた。


「久しぶりだな。ティボー辺境伯、アシュリー聖女」


「は! 御当主様もお変わりなく息災でなによりです」


「何度も言っているが、俺はもう御当主様じゃないぞ。当主はお前だ」


「私にとっては、いつまでも私の御当主様は貴方様だけです」


 ま~た、アルベルト王配殿下とティボーの主君執事プレイが始まりましたよ……


 私はゲンナリしながらマナ様の方を見やると、マナ様は「諦めなさい」とでも言いたげな顔でこちらを見て苦笑する。


「2人とも楽にしてください。此度は、2人揃って馳せ参じてもらってありがとうございます」


「いえ。街道がさらに綺麗に整備されて、快適な旅でしたよ」


「ホント、私たちで切り開いた時の道が、今やあんな立派な道路になるなんて」


「交易にも防衛的にも重要人物がいる領と王都を結ぶ街道ですからね」


「あのベースキャンプの場所を整地して跡形もなく消したのは、私は未だに納得してないんですけどね~」


「アシュリー、お互い人の親なんですから、その話はいい加減忘れましょうね」


 久しぶりにこのネタでマナ様を弄ってみたら、割と真面目なトーンで怒気を発してきます。


 国のトップの怒気のオーラとか怖すぎです……


「そう言えば、ローラン王子殿下は元気にしてますか?」


「やんちゃで手を焼いてるよ」


 ティボーの問いかけにアルベルト王配殿下が苦笑していると、ちょうど向こうから何やら甲高い声が。



「うわーん! 父様~! 母様~! ユーリが~!」



 あちゃ…… このパターンは。


 後ろからついて来たエレナの苦笑いしている顔を見ると、やはりいつもの感じのようです。


「なんだ、またユーリにちょっかい出して泣かされたのかローラン?」


 えぐえぐ泣きながら、ローラン王子はアルベルト殿下にしがみつく。


「だって…… あいつ直ぐトゲトゲで反撃してきてズルいんだ!」


 ローラン王子は、ユーリと同い年の5歳で幼少の頃から一緒の幼馴染だ。

 なお、この歳頃の仲が良いとは、時に取っ組み合いの喧嘩をすることもセットだったりします。


「ユーリ悪くないし…… おもちゃ取り合ってたらローランが髪の毛引っ張って来たから反撃しただけだし……」


 ユーリもスカートの裾をギュッと掴んで泣き出しそうなのを堪えている。


「ローラン。女の子の髪を引っ張るのはしていい事かな?」


「ユーリ。トゲトゲはそういう事に使っていいんだっけ?」


 2人のお母さんが子供たちを諭すと、



「「 ウ…… ウェエエエエエン‼ 」」



 火が付いたように2人は泣きじゃくり出した。


「はい。じゃあ2人ともゴメンねしようね」


マナ様が玉座から降りて来て、2人の目線に合わせてしゃがみ込んで優しく諭す。


「「 ゴメンね…… 」」


「「 いいよ…… 」」


 お互いに「ゴメンね」と「いいよ」を言い合った2人は、手を繋ぎながらまた戻っていった。


「毎度恒例ですね。このやり取りは」


 マナ様はドレスの膝をはたきながら玉座に戻っていく。


「すいません女王陛下。娘がローラン王子殿下にいつも……」


「いいのですよティボー。ローランにとっても気兼ねなく喧嘩できる貴重な相手なんですよユーリは」


 申し訳なさそうにするティボーに、マナ様が笑いながら答える。


「幼馴染ですからね」


「僕は将来はユーリと結婚するんだって、よく言ってますよ」


「アハハ! 可愛いですね」


「いえ、それが本人、結構本気みたいですよ」


 心の読めるマナ様が言うってことは、そうなんでしょうね。

 ユーリも領に戻ってしばらくは元気が無かったりするから、ローラン王子のことは憎からず思っていると思うんですよね。


「おやおや、これはそろそろ婚約しないとか?」


「御当主様の願いなので叶えたい所ですが、ユーリはまだ5歳ですから、もうしばらくは……」


 ティボーの心の中では、御当主様への忠義と娘の父親がせめぎ合っていたようですが、わずかに娘への愛が勝ったようです。


 なお私は未だにアルベルト殿下に勝ててる気がしません。


「駄目ですよアルベルト。ユーリは大事な、ドランと聖女の跡取りなんですから」


「ん~、でも本人が望んでるなら、1人の親として叶えてあげたいですけどね」


「アシュリーはまたそんな適当な……」


「想い人と一緒になれるのが一番じゃないですか。それに跡取り云々は何とかなりそうですし」


「え…… もしかして」


 マナ様が何かを期待するような顔をした。

 ティボーが私の肩を抱きながらティボーが口を開く。


「この度、アシュリーが2人目を懐妊しました。今回はそのご報告に参りました」


「それはおめでとうございます!」


「ありがとうございますマナ様」


 マナ様は玉座からわざわざ降りて来て、私の手を取って自分の事のように喜んでくれます。


「王都まで来たという事は、もう安定期なんですか? つわりは大丈夫ですか?」


「はい、一先ず落ち着いてます。産後休暇と育児休暇に入りますから、動ける内にこっちの仕事を片付けないとですから」


 私はフンスッ! と気合十分に両手の拳を握って、健在アピールをします。


「ありがとうございます。ちょうどまた、帝国でキナ臭い動きがあるようなんです」


「今回はゆったりと産休育休を楽しみたいですからね。帝国がしばらく立ち直れないくらいに、事前に叩きのめしておきましょう」


「私も前回の帝国の侵攻のせいで、ローランを産んだ後の大切な母子の時間を邪魔されましたからね。今度は徹底的にやりましょう」


 フフフッ

 今度こそ奴らに目に物見せてやりますよマナ様


「なんか2人とも殺気が凄いな……」


「産前産後の恨みは、女性は一生覚えているようですよ御当主様」


 アルベルト王配殿下とティボーは私とマナ様の剣幕にちょっと引いているようだ。


「それでは王命を下します」

「はっ!」


 マナ様が女王陛下の顔になり玉座に戻り居住まいを正すのを受けて、こちらも再び頭を垂れた。



「トゲトゲ聖女 アシュリー。貴方に対帝国の本土防衛任務を命じます。その力、存分に振るいなさい」


「はっ! 未来の子供たちのために‼」



 私はそう力強く言って、頭を上げた。


「トゲトゲ聖女と呼ばれるのも、もう板についたもんだな」


 アルベルト王配殿下が茶化してくる。

 この人は、トゲトゲ聖女の実質名付け親みたいなものですから、いまだにこうして私をからかってくる。


「一応、聖女は爵位名ですし、公式の場でそう呼ばれるのは諦めただけです」


 私は憮然とした顔で答えた。


「帝国では今や、トゲトゲ聖女は恐怖の代名詞みたいだぞ。前回の侵攻でトラウマを負った者が多いそうだ」


「外交にもトゲトゲ聖女の名前はいろんな場面で牽制に使えるから便利だわ」


「恐れられているのは敵からだけですよ。ドランでは、トゲトゲ聖女の名前は領民から愛されています」


 口々にアルベルト王配殿下、マナ様、ティボーまでトゲトゲ聖女の名声について語ってくる。


 私、これから二児の母ですよ?


 みんな、響きがいいからってトゲトゲ聖女、トゲトゲ聖女様って……

 帝国を撃滅して平和になったら絶対この恥ずかしい名前は返上してやる‼


「だから~! トゲトゲ聖女って呼ばないでください‼」


 私の大きな声は王城の謁見の間にこだましたが、まるで「無理だ」と言っているかのように、ただ立ち消えていくだけであった。









ここまで読んでいただきありがとうございました。

書いていて楽しい物語でした。


書き始めた当初は、アシュリーが即死トゲトゲを振り回して無双でもするのかと作者自身も思っていたのですが、全然違うお話になりました。


続きを書くなら、新婚編、産休育休編、娘のユーリの冒険譚でしょうかね。


最後にお願いです。


ブックマーク、評価、感想をよろしくお願いいたします。

執筆の糧となっております。

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ヒロインのキャラクターや暴れっぷりが魅力的ですね。満原こもじさんが短編で描いたとんでも聖女や偽聖女に通じるスカッとしたストーリーです。こんな主人公の話をもっと読みたいと思いました。 https://…
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