第4話 死の森を突っ切ります
(ガサガサッ‼)
「はっ⁉」
アシュリーは岩場の窪みで、森の中で何かの動物が動いた音でハッと目を覚ました。
すでに日が上がっていた。
昨晩、暗い街道をあてもなく歩いたが、王都を脱出できた安堵感からか、強烈な眠気に襲われたので、脇の森に入り、よい岩場を見つけたので、そこで毛布にくるまって寝たのだ。
街道に近いところとはいえ、魔物が生息する森だ。
無論、何の対策もせずに森の中で眠りこけていたわけではない。
「花散れ」
岩場にトゲトゲを生やして、自身の寝転んだ周りを囲んでいたのだ。
トゲトゲはスルスルっと元の岩に吸収されていくように消えていった。
さて、明るくなってしまったので、街道を歩くのは危険だ。
もし追手がかかっていたら、馬であっという間に追いつかれてしまうだろう。
そうすると森を抜けていく必要があるが、森は魔物のテリトリーだ。
何も武器を持っていない自分が踏破するのは自殺行為だろう。
「よし、無理そうだったら街道へ戻ろう」
消極的だが、死んでは元も子もない。
しかし丸腰では、魔物に遭遇したら逃げることしかできない。
ここでふと思い立ち、金属の棒をカバンから取り出し、
「花咲け」
と唱える。
出来上がったトゲトゲを弄り回し、トゲトゲの底面をチーズのように伸ばしていく。
私はトゲトゲを創成する魔法しか使えないけれど、トゲトゲに関する加工であればそこそこ融通が効く。
トゲトゲの底面から棒を伸ばして柄として、即席の槍を作った。
試しにその辺の木を突きさしてみると、
(ティウン‼ ティウン‼)
「あちゃ……」
樹が消失してしまった。
本来、私の作ったトゲトゲは、敵意を持つ者に反応して即死の効果を発揮する。
今の私は、暗殺者に殺されかけて、それから逃れるためにモンスターがウジャウジャいる森へ入っている。
緊張感はマックスであり、ちょっとした物音にも過剰に反応してしまう。
こういった私の精神状態がトゲトゲの出来に影響を与えているのだ。
「私もまだまだ修行が足りないな」
『良いかアシュリーよ。トゲトゲは自分を映す鏡だ』
師匠である父の言葉を思い出しながら、フゥ~~と大きく息を吐き、アシュリーは精神を落ち着かせる。
頭を巨人の生暖かい手で握られているような不快感と焦燥感が和らいでいく。
落ち着いた頭で考えた。
「あれ? この武器、今の状況では最適なのでは?」
ブンブン槍を横薙ぎに大きく振りながら森を進んでいくと、私が通った箇所にあった樹木や草は根まで、岩は地面に埋まった部分まで、その全てが消失して道が出来ていた。
ちなみに、私の手元には何も衝撃や抵抗など感じない。
槍の先のトゲトゲが触れた物質は、抵抗もなく消失していく。
「草刈りでも、こんな楽にはいかないな~」
こうして槍を振り回しながら森を進んでいく事になった訳だが、一向に魔物と遭遇しない。
いや、魔物になんて遭遇したくないのだが、何だか拍子抜けだ。
どうやら、こんな馬鹿げた行進をする私に異様さを感じて、魔物の方がこちらを避けているようだ。
まぁ、私だって往来で見ず知らずの奴が槍を振り回してこっちに来たら逃げますね。うん。
思ったより軽快に森を進めているので、今後のことを考える。
当初は街道沿いの森林を進んで、目立たずに隣の都市まで歩く予定だったが、よく考えたら私が隣の都市に逃げ込むのは、追手の側も読んでいるのではないか?
ほうほうの体で辿り着いたら、追手に待ち伏せされていたでは笑えない。
となると、逃げ込むなら、暗殺者が予想外のところに……
ここは相手の意表をついて、最も離れた町であるドランがいいでしょう。
ドランの町は、王都の南側に位置する町だ。
通常、王都からドランまで移動する場合、森の外周を回り込む形で街道を移動し、おまけに山脈を越えるため、徒歩で行くのはかなり無理がある道程だ。
しかし、森を直線で突っ切れるなら、相当な距離を短縮できます。
幸い、夜逃げの際に食料は持てるだけカバンに詰め込んできています。
乾き物が多いから、保存も問題ないでしょう。
「よし! じゃあ森を一直線に突っ切るぞ」
この時、アシュリーは深く考えていなかったし、なにより物を知らな過ぎた。
なぜわざわざ、この森を迂回する形で街道が整備されているのか、その都市整備上の理由を。
この森が
『ゼネバルの森』
通称 死の森と恐れられ、長年アンタッチャブルとして扱われていることを。