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第38話 第1王女VSトゲトゲ聖女

【時は少し遡る】


 マナ第1王女の誘拐を目論む大悪党の一団である、私とティボー、アルベルト閣下の3人は、王城の角地にある目立たないスペースに潜んでいた。


 王城の敷地内までは思った以上にスムーズに入れましたね。


 裏口も人通りの少ない作業員用通路まで全て知り尽くした王城なので、潜入は何とかなるでしょという、見切り発車でドランを出発してきたけれど、このスムーズさは想定外です。


 それだけ王城は混乱のるつぼということでしょう。


「ここからどうする? アシュリー」


「ここまでは何とか見つからずに来れましたが」


「そう言えば、侵入ルートのことは2人に説明してなかったですね」


 王都が燃えていたので、作戦会議ができませんでした。

結構なノープランでの突撃になってしまいましたが、混乱している今が最大の王女様奪取のチャンスであることは確かです。


 まぁ、個人的には衆人環視の中でマナ第1王女をお姫様抱っこでかっさらっていくアルベルト閣下というシーンが見たいのですが、目立ちすぎて捕まってしまっては元も子もないですからね。


「王族の方々の居住スペースは王城の最上階です。しかし、そこまで誰にも見つからずに、マナ第1王女のもとまで行くなんて不可能です」


「そうだろうな」


 ティボーとアルベルトは、私の作戦に興味津々に耳を傾ける。


「そこで、階下からトゲトゲを勃興させて、王族の方々の居住スペースの階まで一気にぶち抜きます」


「「 は? 」」


「そして一旦トゲトゲを引っ込めて、再度トゲトゲを階下から伸ばします。その際に、我々もトゲトゲに乗って上へ上ります。これでマナ第1王女の部屋に到達、あとは出たとこ勝負です」


「 作戦が雑‼ 」


 アルベルト閣下が勢いよく異を唱えます。


「なんですか? 私の立てた作戦にご不満でも?」


 ぶすくれ顔で私が不満を露わにすると、


「もしマナにトゲトゲが当たったらどうする⁉ そもそもマナが不在だったらただの空振りで失敗に終わるだろ」


 うぐぅ…… そんな勢いよく突っ込まなくても……


「穴の多い作戦であるのは認めますが、特に他に良い案も浮かばないんですよね。時間は今回、私たちに味方してくれませんよ」


「ううむ……」


「御当主様。要は、もっと安全にかつマナ第1王女を確度が高く確保できれば良いわけですよね」


「ティボーには何か策があるのか?」


「安全にという点では策があります。こういうイメージなんですが……アシュリー、トゲトゲ魔法で可能ですか?」


 ティボーが紙に、今私たちがいる部屋の見取り図を描いて、トゲトゲの位置を書き込んで示す。

ティボーは絵が上手いですね。好き。


「うんうん可能です。なるほど、マナ第1王女をトゲトゲで隔離する訳ですね。これならマナ第1王女も私たちも安全ですね」


「ええ。ですが、この作戦はマナ第1王女のいる位置をそれなりに正確に把握できていることが前提の作戦です」


「う~ん、そこが最大のネックですね」


 私とティボーが悩んでいると、


「これって、マナが部屋の角にいてくれたら、より良いんじゃないか?」


 見取り図を覗き込みながら、アルベルト閣下が口を出してきました。


「それはそうですね」


「アルベルト閣下、さっきは私に雑な作戦とか言ったのに、そんな理想論を……」


 先ほどの容赦ない突っ込みを根に持っていた私は、アルベルト閣下をここぞとばかりにツッツキます。


「出来るぞ。マナなら」


「「 え? 」」


「うちのマナなら出来るぞ」


 なんで2回言ったんですか?

 というか婚約者自慢ですか?


 どこか得意げなアルベルト閣下の顔を見て、私はちょっとイラっとしました。




◇◇◇◆◇◇◇





【マナ第1王女視点】


『マナ、君を助けに来た』


王城の下から私に呼びかける、愛しのアルベルトの心の声に、私は思わず息が止まりそうになる。


 こんな所にいるはずがない。だって彼は凄く遠いところに……


『マナ、聞こえていたら何か合図をしてくれ。僕は今、君の部屋の階下にいる。僕と一緒に逃げてくれ』


 危うく叫び出しそうになった瞬間に、お邪魔虫のフェルナンドが部屋に入って来たので、あわてて私は叫びを飲み込んだ。


合図、合図……床を踏み鳴らしても王城の床の分厚さじゃ聞こえないだろうし……


 そうだ!


 私は、サイドテーブルにあるメモ帳から紙を1枚取って、紙飛行機を折った。


 けど、いきなり王女の私が紙飛行機を飛ばしだしたら、フェルナンドに怪しまれるわね……それっぽい事をフェルナンドに話しながら誤魔化そう。


 私は、王族として逃げも隠れもしないみたいな嘘八百を並べ立てて、不自然さを紛らわしながら、窓の外へ紙飛行機を飛ばした。

 しかし、肝心の紙飛行機は速攻で墜落していった。


 なんだか縁起が悪い……


『届いたよ紙飛行機‼』


 良かった。

迅速にアルベルトの元に届いたんなら良しとしよう。


ああ……本当に彼が来てくれたんだ。私を助けに。


『へぇ、心が読める能力って不思議ですね……って、ヤバッ! 今のマナ第1王女に聞こえちゃいましたか?』



 は……?


 女の声……?


 どういうことなの⁉ アルベルト


 目の前では、何やらフェルナンドが妹のポーラがどうとか喋っている。


 あの子なら、王城の地下通路でまだ生きていることは、心の声が聞こえて来たから知っている。


 今は、アルベルトが一緒に連れて来たと思しき女が何者なのかについてだ。


『マナ、窓際の柱の方へ移動して。移動できたら合図を』


『え~、コホンッ。はじめましてマナ第1王女。私は今、アルベルト閣下の下でトゲト……聖女をやらせていただいていますアシュリーと申します。よろしくお願いいたします』


 聖女~~~~⁉⁉


 あの人、自分の領で何、聖女様なんてこしらえてるのよ‼


『準備できたかいマナ? できたら合図を……』


『あ! 聖女っていうのは別に聖職者って意味じゃなくて、アルベルト閣下が私のために特別にあつらえてくれた、ただの役職に過ぎないっていうか……』


 このアシュリーとかいう女……


 仮にも王国の第1王女の私に対してマウンティングを仕掛けてきている……


 なんて奴なの。王都が燃えているこの状況下で、頭がおかしいんじゃないの。


「後でゆっくり説明してもらうから……」


 アルベルトへ、この女は何なのか詰問したい衝動が抑えきれず、思わず声に出してしまった。


 私は相手の心の声を聞くことはできるけれど、私の心の声を相手に届けることは出来ない。この点は、本当に不公平で不便だ。


 何やら目の前にいるフェルナンドは、先ほどの私の言葉に勝手に凄味を感じたのか、少したじろいだ。


『あれ? マナ、聞こえているかい?』


 アルベルトは、私に手紙で愛してるだの、初めて会った時は可愛い妖精さんだと思っただの、甘い言葉を書き連ねていたのに、裏でこんな女を囲っていたっていうの……


 ふーん……


へぇ……


『おーい、マナ。聞こえているかい? 聞こえていたら合図を』


「うるさい‼ 弁明なら後で直接聞く‼」


『あの…… 私、ついこの間まで王城でお世話になっておりました。トゲトゲ職人……あ、王城内ではトゲトゲ聖女と言った方が通りが良いですかね……やっておりましたがクビになってしまって。それで、ええと……困っていたところをアルベルト閣下に助けていただいたんです』


 トゲトゲ聖女?


 王城では通りが良いと言われても、普段引きこもっている私には分からない。


 そんなことより、王城で働いていたのをクビになってそれをアルベルトが助けたですって?


 間違いない。この女、確実に私のアルベルトに惚れているわ。


 そう言えば、最近はトゲトゲで領が大いに発展しているとアルベルトが手紙で書いていたわ。

 トゲトゲで発展というのがよく意味が解らなかったけど、アルベルトが凄く喜んでいるのが手紙からも伝わってきて、私も嬉しかったのに……


 けど、トゲトゲが領の発展に寄与しているとなると、アルベルトも領主として、この女を無下には出来ないという事か。


「厄介なのはトゲトゲね……」


 そう口に出すと、目の前のフェルナンドが何やら遠い目をして自分語りをしている。


 また心の隙間からフェルナンドの記憶が漏れてくる。

 こいつの生い立ちはどうでもいいが、トゲトゲやトゲトゲ聖女については有用な情報が手に入った。

 

なるほど。


『マナ‼ ひょっとして何かあったのか⁉』


『ちょっと! アルベルト閣下、大声出さないで下さい‼』


 く……こいつら私の前でイチャイチャしやがって……


 私は、ぶつけようのない怒りを目の前のフェルナンドにぶつけた。


 すると、フェルナンドが怒気をまとって私の方へ踏み込んでくる。


『あ、そういえば、四辺を囲むトゲトゲの配置がまだでした』


『何してるんだアシュリー‼ 早く早く‼』


 この女、さっきまで私にのんびり自己紹介してたのに、まだ準備出来てなかったの⁉


 そろそろフェルナンドも事を終わらせようとしている、私はあわてて会話を引き延ばす。


『配置完了です‼ いつでもどうぞマナ様‼』



(ガシャーンッ‼)



 憎き女の完了の報告と同時に、私は窓ガラスを叩き割った。


 その拳には、確かに怒りの感情が混じっていた。


本話を読んだ後に37話と比較して読むと面白いですよ。

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