表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

第33話 私はお酒に強いタイプなんです

「はい。起きて~アシュリー、朝ですよ。朝~」


「うむにゃ…… エレナ…… 後、5時間……」


「それだとお昼ご飯も終わっちゃってるよ」


 呆れた声でエレナがカーテンを開ける。


「うう…… 砂になる砂に……」


「アシュリーってドラキュラなの? 聖女様なのに」


 暴力的な日光に、頭から布団を被ったのに、容赦なくエレナに布団を剥がされてしまう。


「昨晩も町に遊びに行ってたの? そんなに楽しい?」


「うん、楽しいよ。エレナも今度一緒に行こうよ」


「う~ん。興味はあるけどちょっと怖いかも」


「大丈夫だよ。常連のおじさんたちも優しいし」


「え~、じゃあ今度一緒に」


「はい、そこまでです。アシュリー、エレナを悪い遊びに誘わないでください」


「わ! ティボー。や、やだなー、カワイイ雑貨屋さんが新しく出来たから行こうって話していたんですよ。悪い遊びなんて、聖女の私がするわけないじゃないですかー」


 例によって、乙女の寝室に躊躇なく踏み込んでくるティボーに、私は慌てて取り繕う。


 ふぅー、危ない危ない。

 危うく、ティボーに夜中の飲み屋さん通いがバレるところでした。


 日頃、お料理を作っているティボーには特に知られる訳にはいけませんからね。

なんだか浮気してるのを必死に誤魔化している亭主みたいで、謎の罪悪感があります。

 けど、世の中には相手を思ってのウソという物もあると私は信じています。


「さ、起きました、起きましたよ私は。さて、顔を洗ってきますね」


 つたないウソを勢いで誤魔化しつつ、私は寝室を後にしてその場を離れて、話を強引に終わらせ、ティボーの追求から逃れる。


「毎回、酔いつぶれてお兄様にお姫様抱っこされて帰ってきてるの、アシュリーは未だに気付いてないの?」


「アシュリーには内緒ですよエレナ。町の皆にも箝口令を敷いているんですから」


 兄妹は小声でヒソヒソと、一人何も知らない残念な聖女を見送りながらボヤいたのであった。




◇◇◇◆◇◇◇




「そういえば、アシュリーも聖女様が板についてきたんじゃないか?」


 食後のティータイムで、笑いながらアルベルト閣下が私に話しかけてくる。


「聖女様になっても、やることは変わりませんから。別に」


 ツーンとした態度で、そっけない態度で私は紅茶のティーカップを傾ける。


「まだ、聖女に任命したことを怒っているのか?」


「別に~ 私もそんなことで怒ってないですよ~ 子供じゃないので~」


 怒っているというよりも、ちょっとした八つ当たりだ。

 アルベルト閣下が何だか面白がっているのが、シンプルにムカついたのだ。


「おいおい怒ってるじゃないか。そもそも、アシュリーを聖女にという推挙は、ティボーからだぞ」


「最終の任命権者はアルベルト閣下じゃないですか」


 最終責任者が結果責任を負うものだ。

 秘書が勝手にやったことですは通用しませんよ閣下。

 

「聖女様と言っても、ただの役職みたいなものなんだがな」


 そうなのだ。


 別に聖女様と言っても、何かの宗教の法皇的な人から神託が下りてといった儀式なんて無かったのだ。


 聖女の任命式も、ただの宴会だった。

 盛大に町の人たちに祝ってもらいました。


 ドランで唯一の教会の司祭も宴会でお酒飲んで騒いでいた。

 いいんですか? 本職


 なお、私は主役という事で一番前のステージ席に座らされて、みんなからお祝いの言葉をもらっていただけで、お酒は飲ませてもらえませんでした。


 お店の常連のターさん達が気を利かせてお酌に来たけど、ティボーとエレナに絶対阻止されていた。


 ちくしょう。


 なんだか思い出したら、また腹が立ってきました。


「聖女も一応公的な役職なので、アルベルト閣下の部下になるわけですから、ちゃんと敬意を払ってくださいねアシュリー」


「はーい」


「ティボーの言う事なら素直に聞くんだな」


「むぐ……」


 アルベルト閣下は最近、こうして私をからかうのが一服の清涼剤だと言っていました。

 その業務は、聖女の担当ではないので、特別手当を請求したいです。

 あと、ティボーの愛を一身に受けているからこその余裕が、私には気に食わないのです。


「アシュリーは今日の作業はどういう予定なの?」


「南の交易路の作業だよ。最近は、領の防衛設備の方を優先してたから後回しになったけど、今日ようやく完成できそう」


「いよいよ海まで繋がるんだね。楽しみ」


「そうだね。新鮮なお魚美味しそう」


「アシュリーは海水浴とか、ヨットでクルージングとかは考えてないんだね……」


 発想が食べ物ばかりでスイマセン。

 正直、作業もそれを原動力に頑張ってました。


 それに、もう一人、食の魅力に取り憑かれた人が1人


「アシュリー、今日は私も作業に同行していいですか? どんな海産物が捕れるか一刻も早く見てみたいです」


 ソワソワ、ワクワクしたのを隠せないティボーが同行を願い出る。


「しょうがないから、今日のアシュリーのお付はお兄様に譲るわ」


 兄からの圧に耐えられなかったエレナは、ティボーにお役目を明け渡した。




◇◇◇◆◇◇◇




 森を抜けるとそこは。白い砂浜と青い海だった。


 人間の歴史上、おそらく踏み入った者が無かった場所に今、私たちはいるんだと思うと、何だか冒険者みたいで感慨深いです。


「よいしょ。魔物除けのトゲトゲも設置完了です。これで南の道路、海までのルートが通りましたね」


 あとは、整地などの小規模工事を施工してもらえばOK。

 この後は、アルベルト閣下のお仕事なのでキリキリ働いてもらいましょう。


「アシュリーも来てください。海の水は本当にしょっぱいですよ」


「あ、ホントですね。こんなしょっぱい水で生きてる魚たちって不思議ですね」


 海という物を初めて見た二人は、裸足になって膝上まで作業着のズボンをたくし上げて海の中に入り、年甲斐もなくはしゃいでいた。


北の国には海に面した国があるそうですが、何分遠いので海なんて見たのは、私も生まれて初めてです。


「文献で見たものから、見たことがないものまで実に多種多様ですね。これは料理人より先に、学者に見てもらわないといけないかもしれませんね」


「魚も色んな種類がいるんですね。あ、貝って本当に固い殻に入ってるんだ」


 ティボーは持ってきた文献をめくりながら唸っている。

 どうやら、ここは豊かな海なようです。

 この貝の中身が美味しいらしいですが、力を込めても開きません。


「最近は海産物もメギアの町を通して入ってきますが、乾物や干物ばかりでしたからね。これなら、魚を捕ってそのまま輸送することも出来ますね」


「けど、魚ってすぐ腐ってしまうと聞きましたよ」


 私は以前、酒場の女将さんに聞いたことを思い出した。


 女将さんは以前、料理の修行のために各地を放浪して、色んな料理を食べて来たそうで、魚が捕れる北の国にも行ったことがあるらしい。


「そうですね。すぐに加工をしないと傷んでしまうのも早いらしいですから、この海の近くに町を作るのが一番良いですね」


「起伏はそんなに無いので、土地の形状的には可能そうですね。けど、町一つを作るとなると、さすがに私一人じゃ無理ですね」


 町を作るとなると、いくらトゲトゲの啓開能力が優れていると言っても、私一人でやるとなると、とてつもない時間がかかります。


「信のおける者たちに、アシュリーのトゲトゲを渡して大規模な公共事業として開墾をすることになるでしょうね」


「う~ん、大丈夫ですかね」


「触れれば相手や物を消失させてしまいますから、扱うには、きちんとした安全管理講習が必要でしょうね」


 ちなみに、武器として悪用しようとか良からぬことを考える人が持つと、悪意を感じ取ってトゲトゲから殺気を放つ仕組みなので、悪用の心配はありません。

 持っていられなくなります。


「その辺りの話は、どちらにせよ気の長い話になりそうですね。それより、折角ですから何か魚を捕って御当主様にお見せしたいですね」


「むむ……」


 出ました。ティボーのアルベルト閣下ラブ言動が。


 もうちょっとその、ラブ度をこっちに振り分けてくれてもいいんじゃないでしょうかね。


「じゃあ、トゲトゲで魚を突く道具を作ってあげますよ。殺気抑え目にしてあるので、消失はしないはずです」


「おお、アシュリーありがとうございます。よーし、大物を捕って持って帰りますよ」


 そう言って、喜び勇んで海辺を走り回るティボー。


 ですが、全然魚は捕れません。


今まで、人間という物を見たことが無い魚たちは、無警戒に私たちの近くまで泳いできていたのに、急に蜘蛛の子を散らすように居なくなっていたのです。


それでもわずかに近くを泳いでいる呑気な魚にティボーは狙いを定めますが、直ぐに気付かれて機敏に泳いで逃げる魚に狙いなんて定まりません。


 ティボーは捨て身でトゲトゲを突き立てようとしますが、あえなく魚には躱されてしまいます。


(バシャーンッ‼)


 捨て身だったので、ティボーは全身を海面に投げ出してずぶ濡れです。


 それでも諦めずに何度もトライしてずぶ濡れになるティボー。

 さすがに、気の毒になったので私はティボーに声を掛けた。


「ちょっと、トゲトゲの調整をしましょう」


 全身ずぶ濡れで、はぁはぁ息の上がっているティボーからトゲトゲを受け取り、先ほどアルベルト閣下への嫉妬心をちょぴり混ぜたのを除去してあげる。


 要は、魚が捕れなかったのは、私がトゲトゲに不純物を混ぜて、それが魚に気取られてたんですね。


イタズラしてゴメンねティボー


と、心の中で謝りながら、再度トゲトゲを渡しました。


「よし、今度こそは」


 と、ティボーは果敢に再チャレンジしましたが……



(バシャーンッ‼)


(バシャーンッ‼)


(バシャーンッ‼)



その後も一向に魚を捕ることが出来ません。

 見かねて、私も参戦することにしました。


「やれやれ、ティボーは不器用さんですね。私に貸してください」


「すいません」


 ティボーはシュンとしながら私にトゲトゲを渡してくる。


 ま、こういう、不器用だけど精一杯頑張るところがティボーのカワイイ所なんですよね。

 さて、ここらで、トゲトゲ職人の矜持ってやつを披露しましょうかね。



(バシャーンッ‼)


(バシャーンッ‼)


(バシャーンッ‼)



「はぁはぁ…… ぜぇぜぇ……」


 これって思ったより、かなり難しいんですね……


 魚にカスリもしません。


「アシュリー、次は私が」


「はい……」


 結局その後、何度も2人で交代しながら挑戦しましたが、結局お魚はゲットならず。


 2人でトボトボとずぶ濡れで屋敷へ戻り、もちろん2人とも風邪をひいて、エレナに世話をされながら怒られました。


 とほほ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ