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第3話 暗殺未遂と王都逃亡

「ああ~疲れた。もう、げんか……」


 家まで何とかたどり着いて、そのままの恰好でアシュリーはベッドに倒れ込む。


 周りの王都の住宅と比べると、古く狭い平屋で、屋敷と呼ぶにはちょっと無理がある平屋。それがアシュリーの家だ。

これでも王都にある家なので、建物はともかく土地にはそれなりの価値があるので、貴族もどきのトゲトゲ聖女様にはもったいないと周りから揶揄されている。


 家には大した貴重品はなく、玄関のカギも粗末なもので、年頃の女性の一人住まいにしては大いに防犯意識に欠けているように見える。


 寝室のベッドに倒れ込んですぐに、スースーと寝息を立て始めるアシュリー。


 アシュリーの寝息以外は静かな家内。

 今は平日の日中なので、隣の家の住人も働きに出ているのか不在だ。


 しばらくすると、アシュリーの寝室のドアが音もなく開いた。


 頭から足の爪先まで真っ黒な装束に身を包んだ二人が、少しの音も立てずに部屋の中に侵入する。


 黒装束の二人はハンドサインを送りあうと、一人が長いナイフを鞘から引き抜いた。


 日当たりの悪い薄暗い部屋の中において、その白刃だけが妖しい光を放つ。


 黒装束の男が、ナイフを振り降ろすために大きく振り被った瞬間




(ティウン‼ ティウン‼)



 何とも形容しがたい音が鳴ったかと思うと、ナイフを振り被った黒装束の男が、突然光の粒子になって、身体の全てが消失した。


「な⁉」


 後方のドアで待機していた、もう一人の黒装束の男は、あり得ない事態の発生に、思わず驚愕の声を押し止めることに失敗してしまう。


「う〜ん……? え! なになに誰⁉」


 まだ眠りが浅かったのか、黒装束の男の声で目を覚ましたアシュリーは驚愕した。


 寝ている間に、自分の家に見ず知らずの他人が上がり込んでいるのである。

 アシュリーの心臓が跳ね上がり、意識が一気に覚醒する。


「だ、だ、誰⁉」


 ベッドの上で中腰になり黒装束の男を見つめて声を張り上げるアシュリーは、何か武器になるようなものはと周囲を見渡したが、あいにくそれらしいものは何もない。


 ここで黒装束の男が廊下の気配を探る。


 近隣の住人が騒ぎを聞きつけて、こちらに出てくる気配はないと判断すると、手からカギヅメを瞬時に引き出した。


 そして、対象との彼我の位置を一気に詰めようと跳躍する。



(ティウン‼ ティウン‼)



 ベッド横の壁から長いトゲトゲが突出し、黒装束の男の命を刈り取った。

 淡い光は、すぐに部屋の暗い影と同化し見えなくなった。




◇◇◇◇◇◇◇




 どれだけの時間が経ったのかわからない。


 今まさに二人の人間の命が散った現場だが、血痕どころかチリすら落ちていない。


 ベッドの上で、私は突然意識を覚醒させられて、動悸がする胸をおさえながら必死に頭を回転させた。

 

 あれは明らかに、明確に私を殺すこと自体が目的である者たちだった。

 自分への殺意を探知してトゲトゲトラップが作動したのが何よりの証拠だ。


 戯れに、職場で不要になった廃材を使って作ったトゲトゲトラップを、防犯装置として自宅の寝室に設置していて本当に良かった。

 室内だから、殺気を放たない王城内で採用しているタイプのトゲトゲだったので、相手にも気取られずに済みました。


 そうでなければ、今頃寝たまま訳もわからず永眠させられていた。

 自分が死んだことにすら気付かずに……


 「 死 」


 ほんの一つボタンをかけ違えていたら、自分はすでに生きていなかったのだと思うと、今更ながらに恐怖で震えが来た。


 あの黒装束の男は、明らかに訓練されたプロの挙動、佇まいでした。

 その辺のゴロツキが物盗りという感じではなかった。


 自分が命を狙われる理由。


 思い当たるのは、自分が王城の関係者だったからというのが、最も腑に落ちる理由です。



「このままこの家にいたら殺されちゃう!」



 敵が何なのかは絞れないが、ここに居続けていいことなんて無いだろう。

 ちょうど仕事もクビになって身軽な身だ。


 家に待機していろと言われているが、命があってこそです。

 それにトゲトゲの撤去は完了しているし、自分のようなトゲトゲを創る以外は取り柄のない下っ端がいなくても困りはしないでしょう。


「王都をすぐに出てしまおう」


 そう決断した私は、慌ただしく夜逃げの準備をした。


 手狭な家で、日頃からほとんど物を持たない生活なのが幸いし、荷造りはすぐに済んだ。

 部屋に設置したトゲトゲトラップも解除し、私は家の玄関を出た。


 一度、名残惜しそうに振り返って家の全景を眺めたが、意を決して歩き出し、王都の雑踏の中に溶け込む。


 そして、暗くなったのを見計らい、ひっそりと王都の外へ出た。


 この迅速な決断は結果的には正解であったと言える。


 なぜなら、王城側は端からアシュリーの再就職先も嫁ぎ先も斡旋する気はなかったのだから。


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