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第29話 カローナ侵攻から防衛します

 カローナとドランを結ぶ街道を、カローナの軍およそ500名の精鋭部隊が行軍をしていた。


 カローナの精鋭部隊の目的は、ドランへの宣戦布告と、橋頭保を作るための先駆けだ。

特別な訓練を施された精兵たちによる電撃作戦。

これこそが、カローナの領主であるブレン伯爵の策であった。


 攻撃の最優先目標は、ドランの商業地区とメギアとの交易路周辺施設の破壊。

 なお、穀倉地帯については、火を放つなどの行為は禁ずるとの厳命が下っていた。


 これは、カローナがドランに、昔のままの半ば農奴のような地位に戻れというメッセージが込められている。


 最近は、カローナではあらゆる物、特に生活になくてはならない穀物類の値上がりが著しい。

 そのくせ、領主全体の収入が減収のため、給料は下がってきている。

領民はかなりの不満を抱えていた。


 しかし、領民の不満を抑えるために、商会に価格について圧力をかけると、今度は商会側へ不満がたまっていく。


 それらの問題を抜本的に解決するのが、今回の侵攻だ。


 カローナの領民にとっても今回の侵攻を支持する流れなのか、精鋭部隊が領を出る際には、隠密での出征にも関わらず、多くの領民が街頭で手を振って見送った。


 領民にも支持された大義ある戦争ということで、精鋭部隊の士気はすこぶる高かった。

 尖兵として武勲を上げて、カローナへ帰れば自分たちはヒーローだ。


 そんな事を考えながら、カローナの精鋭部隊は着実に歩を進めていたが、実は彼らの多くは体調不良を抱えていた。


 そのため、少し進軍速度が彼らにしては遅くなっていたが、部隊の指揮官も漏れなく体調不良であったため、その事に誰も気付かなかった。




◇◇◇◆◇◇◇




「今はとにかく正確な情報が欲しい。至急、早馬を出して情報収集を。欲しい情報は相手の軍の規模と人数だ」


「領民の避難については二次対応体制でのマニュアルを参照しろ」


 ドランの領主執務室は、さながら戦地の対策本部室と化していた。

 いや、実際に相手の軍が攻め入って来たら戦争になるのだから、まぎれもなくドランは戦地となる。


「奴らが交渉も無く、いきなりこんな強硬手段に打って出るとは……」


 ドランの領主であるアルベルト辺境伯は、思わずつぶやいたが、すぐに意識を目の前に集中する。


 今は、反省をする時ではない。

今、目の前のことに集中しなければと、アルベルト辺境伯は意識を切り替えた。


 幸い、秘密作戦だとのことだが、町を出る際に軍が出征するのはバレバレだったため、すぐに情報がこちらにもたらされたのは僥倖だった。


 しかし、彼我の戦力差は歴然だ。


 最近は、ドランへの人の転入も増えてきているが、それは商人やそれに随伴する家族と言った一般領民となる人々だ。


 人口増に伴う、軍備の拡充については無論計画していたが、まだ計画段階でしかない。


武器はある程度先を見越して買いそろえたが、人員については、その辺りの畑から生えてくるわけでもないし、訓練も施さずに数だけ揃えても意味がない。


 つまり、はっきり言ってドランに勝ち目は無かった。


(悲観するな。今は、どれだけ領民の犠牲を少なくすべきかを冷静に計算して決断しろ。お前は領主だろ!)


 アルベルト辺境伯は、そう自分を奮い立たせながら、絶望的な結果を少しでもマシなものとするために奔走する。


「ただいま戻りました御当主様。事情については先ほど屋敷の者に聞きました。大変なことになりましたね」


「おお、ティボー。と……アシュリーどうしたのだ? 顔が真っ赤だぞ」


「アルベルト閣下…… 私の事は…… ぜぇ…… お構いなく」


 アシュリーは、赤い顔で荒い息をしている。

 なぜか、ティボーはそっぽを向いて何も語ろうとはしなかった。


「アシュリー。君にも領地の防衛に手を貸してもらうことはできるだろうか? 避難した住民を護るトゲトゲトラップの設置をお願いしたいのだが」


 アルベルト辺境伯は、言いにくそうにアシュリーに頼んだ。


 本来、客人でしかないアシュリーに、領地の防衛という危険なことをさせることは忍びなかったのだろう。


「はい、やりま「まずは状況について把握させてください、御当主様」


 アシュリーが即決で返事をするところを、ティボーが被せてまずは冷静に状況を見るように促す。


「そうだな。集約された情報と、戦局を表した砂盤はこれだ」


 アシュリーたちは、情報集約班のところで、逐次持ち込まれる情報についてまとめた紙書類と、砂盤に置かれた敵部隊の位置関係について確認した。

 砂盤は、現地の起伏まで再現した、かなり完成度の高い代物だ。


「これって、カローナの軍は街道を真っすぐに、こちらへ向かってきているということですか?」


「ああ。カローナは何の宣戦布告もなく、軍を進めた。おそらく、相手部隊はすでに町の境界線を越えて、ドランの領地へ入りこんでいる」


「なんで街道なんて目立つ所を通っているんでしょう? 待ちぶせされて狙い撃ちされちゃいますよね?」


「街道の両サイドにあるゼネバルの森を通ると魔物に遭遇するリスクが高いですし、進軍速度も遅くなります。それを避けるために、奴らは宣戦布告もせずに侵攻したのでしょう。ルール違反と言われようが、街道をできるだけドラン側に進んだところを開戦地としたいのでしょう」


「へぇ~」


 アシュリーはしばらく考え込むと、「うん」と独り言を呟いた。


「じゃあ、カローナの軍は街道に閉じ込めちゃうというのはどうでしょう?」


 そう言いながら、アシュリーは砂盤上に、相手の部隊の前後を挟むように、味方の駒を2つ置いた。


「街道に……」


「閉じ込める?」


 アルベルトとティボーは、アシュリーの言葉の意味が解りかねるという顔をして、聞き返した。


「もう、ドラン側の領地に相手の軍は入り込んでいるんですよね? じゃあ、この間設置した街道沿いの防衛施設が役に立つはずです。論より証拠。現場に行きましょう」


「ちょっとアシュリー。何のことだか解らない、説明してくれ」


「すいません。アルベルト閣下。けど、相手の行軍速度を考えると早くしないといけません。現地に向かいながら説明しますので、ついてきてください」


 そう言いながら、アシュリーはウキウキと、作業着に着替えてきますと言って、呆気にとられた二人を残して部屋に着替えに向かった。




◇◇◇◆◇◇◇




「観測員の方以外の街道からの避難は、皆さん完了しましたか?」


「ああ。完了したそうだアシュリー」


 現地の守備部隊の隊長からの報告を聞いて、アルベルトが答える。


「それじゃあ始めます」


 そう言って、私は街道の台帳を見る。

 もう日が落ちて暗くなっているので、ティボーがランプで照らしてくれる。


 街道の台帳には、この間私が街道沿いに設置した、トゲトゲの設置箇所が落とし込まれている。


「座標 点R3、L3から点R20、点L20まで指定…… ヨシッ‼」


 私は、台帳の点名をしっかりと指さし呼称をしながら確認をして、範囲を指定する。

 なんだか、トゲトゲ職人の時を思い出してウキウキする。



「 乱れ咲け 群生 」



そう唱えると、街道の水平線の向こうから遅れて轟音が鳴り響いた。

 現地の守備部隊の人たちが驚いているが、時間が命の作戦なので私は作業を続ける。



「よし、成功。つづいて座標 点R22、点L22から終点R50、点L50まで指定…… ヨシッ‼ 乱れ咲け‼」


 先の轟音の反響音が未だこだまする中、新たな轟音がこちらまで響いてくる。


「終わりました。あとは現地の観測員さんからの報告を待ちましょうか」


 私の手応え的には間違いなく成功していると思うんだけど、第三者のダブルチェックは大事だ。


 王城の仕事では再三ダブルチェックの必要性を説いていたのに、結局最後まで聞き入れられなかったな……


「アシュリー。今後の守備のこともあるから、守備隊の面々に、今どういう状況になったのか説明してくれ」


「はい、分かりましたアルベルト閣下」


 説明を求められた私は、砂盤の前で駒を動かしつつ、街道の台帳を見せた。


「侵攻してくるカローナの軍の前方と後方にトゲトゲを配置しました。あらかじめ設置したトゲトゲを依り代にして、台帳の印をつけた点間の範囲の街道を覆いつくすトゲトゲの山が出来ています」


 相手の軍は報告にあった進軍速度的にちょうど、ドラン側領地の街道の中ほど手前あたりにいたと思われる。その前後のエリアの街道上にトゲトゲを設置したという訳です。


「カローナの町へ繋がる街道を、事実上トゲトゲで封鎖したということですか?」


「ただ封鎖しただけではないです。今回のトゲトゲの創成には、特に強力な殺気を発する性質を織り込んでおきました。ゼネバルの交易路の入り口に置いてあるのよりさらに強力な奴です」


「となると、今頃、相手の軍は……」


「恐慌状態かと。 そして唯一の通り道である街道の前方、後方を塞がれた彼らが、トゲトゲから逃れられる道は……」


 私は、砂盤上の敵軍の駒たちを街道沿いに鎮座するゼネバルの森へ置いた。



「「「 ………… 」」」



 その場にいた、皆が沈黙した。


 彼らがこの後どんな運命を辿るのか、その場にいた全員が察してしまい、敵ながら思わず憐れであると思ってしまったが故の沈黙であった。


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