第7話《名と姓》
ごろつきたちを倒して一日経過した頃。
俺はひとまず実家に向かおうと思い、草原の中にまるで一本だけ置かれた紐のような土道を歩いていた。
『まぁ、妥当ですね。今の状態なら私も竜炎を繰り出せますし貴方の記憶にある程度の男ならば容易に殺せます。
素早く用事を済ませるとしましょうか』
「……仮に、復讐をしたとして。俺は今まで通り戻れるのかな」
さらさらと擦れ鳴る木の葉の音が風に乗って響き、ぽとりと落ちた緑葉を乗せて明後日へと運んでいくのが見えた。 そうして俺の言葉に、不機嫌な竜は可憐な声を返す。
『無理でしょう。人は欲深き生き物、誰よりも執拗で陰湿な獣です。あなたに被せられた罪は人の国では相当の大罰のはず───むしろ、それは復讐を行えば更に悪化するでしょう』
「そ、うか……まぁ、そうだね。当然だ……」
全くの正論にどこか打ちひしがれてしまう。
確かにそれは事実だ。現時点で俺はドラゴンと契約するという罪を背負い、さらに濡れ衣の上で復讐を行おうとしている。
「こんな状況じゃ無理な話か……そうだ、そういえば俺はあなた……いや、君のことをなんと呼べばいい?」
『はぁ?藪から棒に唐突な……。まぁ、好きに呼びなさい。ですが、強いて言うならば───』
「?」
珍しく、言葉を伸ばす竜。
いつも俗世に興味のなさそうな不機嫌な声だというのに、その声はどことなく感情が籠もっているような気がした。
『リオン。そう呼ばれたこともありました』
「リオン? ……なるほど、いい名前だ。それに語呂もいい!これからそう呼ばせてくれ!」
ヴリオングロードのヴ"リオン"が由来なのだろうか。
俺が名をそう呼ぶと、リオンは咳払いをして声を返す。
『あなたの名は"グスターヴ"でしたね。ですが名字はなんというのですか? 人には姓と言うものがあるのでしょう?それを巡り争い、殺し合い、時にツガイになると聞きました』
「まぁ確かに家名は重要だけれど……。──俺の名字は、ヴァーサ。グスターヴ・ヴァーサと言うんだ」
『ヴァーサ。そういえば、今は滅びた北方竜語に同じような言葉がありました』
「竜の言葉に?なんて意味?」
リオンはただ一言。
やはりいつものように無機質な声で───しかし、どこかいたずらげなふうに。
『秘密です』
「……竜も存外茶目っ気があるんだな」
『そういった意図はありません。ですが、いずれ知るべきときがくるでしょう。そのときにまた、言うべきことなのです』
道はひたすらに地平線へと続いていく。
だが、その向こうに……木柵で囲まれた村と、のどかな煙突の煙が見えた。