第6話《仮初めの地位》
「おい!なぜ働かん!」
ディディエの怒号が邸宅に響く。
閑静な廊下は古びた木々で装飾されており、窓は古びたガラスがはめ込まれ、ぼんやりと暖かな日が差し込んでいる。
しかし一方で廊下に立ち並ぶ使用人たち……郷士クラスの邸宅故に人数はせいぜい数名ほどだが、彼らは数日前新たに国王から郷士の称号を与えられたディディエに対して冷ややかな目を向けていた。
「あっしらはグスターヴの若様に忠してたんです。ディディエの坊っちゃんに誓っていたわけじゃない」
1人の若い庭師がそうディディエの怒号に毅然と言葉を返した。それに対し、顔を怒気に染めながらディディエは少し色褪せた壁をドン!と激しく叩く。
「なんだと……ふざけるな!俺がこの家の主なのだぞ!お前たちのそんなふざけた感情ごときでそれをめちゃくちゃにされてたまるか!!」
「ふざけた感情で結構だよ。オレは前の大旦那様に路頭に迷ってたところを拾われて邸宅の料理人になったんだ。そこから旦那様に頼まれ、早くに亡くなった若様の母君の代わりに料理を作ったのはオレの誇りだ。それをあんたに踏みにじられるわけにゃいかん」
「そ、そうです!わたしも親に身売りされたとき、旦那様に幼い頃雇っていただきました!そして今は若様にお仕えすると決めんです!それに、わたしたちを今まで蔑んできたあなたが何を今更!」
壮年の料理人と少女のメイドもそうディディエへ冷静に告げる。
この邸宅は郷士の位にしては比較的広い。かつて朽ち果てた騎士の屋敷を作り直したからだそうだ。
庭の手入れは重要で、荒れ果てていれば客人は来ない。ましてやメイドがいなければベッドメイクや掃除などもできない。料理人がいなければ料理さえもだ。
ディディエは今まで家格が上の養子という理由で傲慢だった。
内情を知らない宮廷には男爵家の血筋を使った上でいい顔をして郷士の位を得たものの、既にディディエという人間を知っている郷士邸の面々には意味を成さない。
ディディエが聞くところによると、ごろつき共もどうやら見張りを放ったらかしてトンズラしたようである。
当時横領していた貴重な郷士邸の財産を使ったというのに、ディディエはグスターヴが死んでからことごとく"ツキ"が悪かった。
「く、クビだ……」
ディディエは腹から絞り出し、ひどく苦痛を顔に出した顔で言葉を出す。 郷士になったばかりで私刑はできない、だが彼の行える中で最大の"報復"が今、果たされようとしていた。
「貴様ら全員、クビだ!一人残らず、出ていけ!」