第5話《戦い》
荒涼な風が吹く。
俺が立っている目前、ごろつきたちの殆どを『死の幻夢』で無理やり死に追いやって魂を吸いながらも───一人だけ耐えている男がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……幻惑魔法だとぉ?舐めやがって……」
『ほう、耐えますか』
(どうするんだよ、こんなところで───!)
俺は焦りながら思わず声を出す。
得物はナイフ、対する相手は無骨な長剣。戦力差は圧倒的だ。
今でこそ見つかってないが、相対すればすぐにでも殺されてしまうだろう。
『……この魔力量なら───まぁ、制限すれば行けるでしょう』
(どういうこ……っ!?)
ヴリオングロードの一言。
それに俺が反応する直前で、真左の方で激しい風が巻き起こる!
「……魔力義体としては良い出来です。存外、あなたの魔力は良質なようですね」
そしてそこに現れたのは、流れるように美しい青みがかった銀髪。透き通るような碧眼、まるで聖女のように整った顔……そして頭の側面に生えた太い小枝のような短い角が特徴的な美女だった。
「だ、誰……」
「誰も彼もありません。私は幻竜姫ヴリオングロードです」
俺がそう無意識に聞くと、目の前の美女……先程から棘のある言葉ばかり言っていた竜が、そういつも通りに無機質で不機嫌そうな声と───わずかに眉をひそめた顔を浮かべた。
「な、なんだおまえら……もしかしなくても、幻惑魔法を使ったのはお前らだなっ!!俺たちの仲間を殺しやがって……」
しかし同時に眼の前のごろつき……おそらく頭領らしき男にもバレてしまう。
「おい、バレたぞ……流石にこの体じゃ───」
「いえ、十分です。1分あれば片付けられます」
ヴリオングロードは余裕そうに俺へそう返すと、素手のままゆらりと手を前にかざした。
「こんなガキと女……魔術師ごときなら、叩き潰してやらァ!!」
ザッ、ザッと走りながら無骨な長剣を上段に構え正面から突っ込んでくるごろつき。
横を見ても、手をかざしているだけだ。このままだとふたりとも真っ二つに割られかねない───そう思い、俺は回避と受け身の準備をする……だが、次の瞬間。
「〘幻竜炎〙」
その言葉が響くと同時に、ヴリオングロードの手のひらからうねるような爆炎と激しい熱気がおびただしい衝撃波が、それによって生まれた強風を纏い正面へと放たれる!
俺の記憶だと、あんな強烈な炎は下級魔法や中級魔法どころじゃない───明らかに上級魔法、それもおとぎ話に出てくるような上級上位に位置するほどの威力だった。
そして、炎が数秒ほど放たれた後。
ごろつきだった何かが全身を黒焦げにしながら、赤熱し溶けかけた長剣を地面に転がして前向きへ無気力に眼前で倒れた。
「威力は抑えたつもりでしたが……少し疲れましたね。盟約者、私は眠ります」
「あ、あぁ……」
俺がそう返せば、ヴリオングロードはかき消えるように消えた。おそらく、俺の体内に入ったんだろう。だけど……。
(この力があれば、ディディエに復讐できる。戦える……!)
そう俺は歓喜する。
そしてわずかに脳内で"パリン"というガラスの割れる音と、小さな声にも気付かなかったのだ。
《下級剣術を習得しました》