第15話『ディディエの決断』
「このオレがこんなところで終わる訳にはいかないッ!」
ぐびい!とワイン瓶を唇に付け、ごくごくと飲み下す金髪の青年……ディディエは暗く誰もいない郷士邸の寝室で一人、荒んでいた。
「ようやく手に入れた地位……こんなところで手放すわけには行かないのだ。伯爵にまで取り入って、国王や木っ端の貴族如きにへつらいようやく手に入れた地位……グスタ、これはキサマの呪いとでも言うのか?」
ディディエは焦っていた。このままではグスターヴを殺した意味がない。ごろつき共に支払った金の元手すら取れていない現状の焦り、それにディディエは固執しているようだ。
「郷士の仕事は子爵から委託された周辺の村からの税徴収、山賊共に対する治安維持の睨み効かせ、魔獣共の討伐……フン、つまらん仕事ばかりだ。これではせいぜいが一ヶ月金貨20枚程度……鎧や道具の維持経費──のちのちの使用人経費などを鑑みれば5枚。カスの極みだ!」
ハイダリア王国では一般の農民四人家族の生活費が平均して金貨2枚程度である。 更に郷士は平時は下級役人と治安維持のための巡回騎士も担っているため、馬などの食費なども考慮すると生活資金は困窮する。
子爵直属の騎士は領土や荘園・道具の管理費などがあらずとも手取りで金貨20〜40枚。生活のためには畑仕事もせねばならない郷士とは言うなれば下級騎士の仕事をさせられる農民なのである。
(このディディエが畑仕事などできるか。しかし使用人などを雇わなければ仕事が滞り出る……まずい、まずいぞ……)
ディディエは爪を噛みながら椅子に座り神妙な面持ちで安楽椅子をギシギシと前後に揺らす。 伯爵に借りを作りすぎれば後が恐ろしいことになる、そして名目上の主君となる子爵からは裏でグスタへの冤罪に対する疑惑をかけられているのだ。
ディディエはかつての自らの家名を使ったアーハイム郷士家の当主である。 しかし成り上がり物には違いない。男爵家の血筋であろうが、それは変わりなかった。
「このディディエ・アーハイムが───墜ちることなど……ん?」
その中でディディエはある紙を見つける。
そういえば、それは子爵と会ったときに貰ったものだと彼は気づく。
「何々……?ロスタ子爵領にて馬上槍試合。勝者には子爵令嬢との婚約と祝宴の……」
ディディエはわなわなと震える。
そうだ、これだ。これだ!ディディエは心のなかで大きく叫ぶ。
神はまだ自らを捨ててなかった。
これは試練なのだと、ディディエは痛感する!
「ふふ、ふは、くははは!そうだ、これだ!これだぁぁぁぁ!!」
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