第9話《身の上》
「ディディエにクビにされた!?」
「はい、そうなんです……数日ほど前、若様が伯爵様の領民を手に掛けた大罪人だと唐突に郷士になったディディエの坊っちゃんに知らされてから、使用人の三人で抗議をしたんです。若様がそんなことするはずないと───それでも聞き入れられず、退職に……」
確かに、ごろつきたちを殺してから数日は体を休めていたのは事実だ。だけどそんなことになってたのか。
「……それは辛かっただろう。だけど、大罪人の俺とこうやって話してても平気なのかい?」
「もちろん!平気、です!子供の頃から優しい若様が領民を手に掛けるなんてこと、するはずありません!」
ハーフアップにした赤い髪を揺らしながら、健気にそう言ってくれるシルヴィア。彼女とは幼い頃からずっと一緒だった。だけど、本当にここまでだとは……どこか、心のなかで信じきれてなかった。
「───これから、邸宅に行こうと思ってるんだ。そこでディディエともう一度話したいと。でも軍に捕まるかもしれない」
「……もちろん、ついていかせてください。若様! で、ですが……」
「なにかあったのか?」
シルヴィアは快諾した後に少し言葉をつまらせ、そして言葉の続きを話し始めた。
「実はこの村の村長さんに引き取ってもらって、働かせてもらってたんです。掃除とか、食事とか……ただ、そこである話があって」
シルヴィアは一旦息を継ぐと、再びこちらを向いて話し始めた。
「ゴブリンが、この村を狙ってるみたいなんです。でもこの村の自警団の人たちは私が来る前にゴブリンたちにやられちゃって、子爵様の軍が来るのもあと一週間はかかると……」
確かに、このあたりはロスタ子爵の領域だ。
かくいう俺も、前までは形式上は国王の家臣のロスタ子爵に仕える郷士……という立場にあった。
ロスタ子爵には1度会ったことはあるけど、非常に聡明で豪傑のような方だった。騎士の家に生まれて、魔族との戦いで功績を上げたのだという。
ただこの村はおそらく子爵の住む領都からは確実に遠い。治安味のための軍の派兵にも国王や周辺の貴族たちの理解や許可が必要になるのがこの国なので、一週間という数字はけしておかしくはない。
「だけど、その一週間じゃおそらく……」
「はい、この村はゴブリンに襲われてしまいます。それだけがいま心残りで……」
以前までの俺なら、諦めて出ようとシルヴィアに言っていただろう。だけど、もう落ちこぼれのグスターヴは終わりにする。
『成程、覚悟を決めましたか?』
(あぁ。リオン───ゴブリンを狩りに行く)
その言葉に、どことなくリオンは満足したような声色で……だけれどいつも通りの不機嫌な声で言葉を返してくる。
『構いません。ゴブリンなど犬にも劣る蛮族です、早急に焼き払い片付けるとしましょう』




