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プロローグ《すべての始まり》

「グスタ、死んでも俺を恨むんじゃないぜ」

 目が覚めると、首元に突きつけられた冷たい銀刃。

周囲には俺を見下ろす親友──ディディエと街のごろつきたちがずらりと並んでいた。


「……なんで、こんなことを」


「なんで?おいおい、決まってるだろう。───なんでお前が、"郷士"なんだ!!」

 

 音が一瞬、かききえる。

そして遅れて頭に響き渡る激しい痛みと共に「がッ!?」と思わず俺は嗚咽を吐いてしまった。


「そのきれいな顔面、蹴り飛ばせてすっきりしたぜ。なぁ、グゥスタぁ?」

 ぐい、と髪の毛を鷲掴みにされて頭だけ無理やり起こされる。 そして眼の前にはやはり、嘲笑と怒りをあらわにしたカールの顔。


「俺はお前の父親……あのエリク士の養子としてこの家に来た。あぁそうさ、没落したといえど俺は元々男爵家の息子……なのに!」


「あぎっ……」

 雨に濡れた地面に思い切り、顔面を叩きつけられる。

後ろ髪を持たれ、何度も激痛が襲う。なんで、こんなことを……。


「なんでお前が当主を継ぐんだ!!落ちこぼれの!お前が!なんで!」


「坊っちゃん、そろそろ……」

 ひりつくような痛み、口中に広がる錆びた鉄の味。

吐き気、頭痛、鈍い痛みと鋭い痛みが交互に響く。こんな痛み、今まで経験したことはなかった。



 そして、痛みが止む。

髪も離され、わずかにぶちぶちと数本引きちぎれる音が鳴った。


「でもグスタ、今日から俺はそんな思いをしなくて済む。そうさ、お前はいまから───『罪人』になるんだから」

 

 すると隣でどちゃり、と音が響く。

なんだこれ……?


 音の方向へ振り向き。

「ゔっ……」おぞましいほどの腐臭を漂わせるそれに俺は顔を歪ませた。



「おいおい、グスタ。目を逸らすなよ……なぁ、こいつは数日前に俺が殺した隣領の農民だ。 隣領といえば泣く子も黙るシャーディッチ伯爵家───」

 

 その言葉を聞いて、揺れる思考の中で俺はようやく理解した。


 俺たちの生きるこの国では、他貴族の領民を殺害してはならないという法がある。かつて貴族同士の争いで、多くの人が死んだから。


「……そこで、お前には罪を被ってもらうことにした。なに、手を下したのは俺じゃない。今頃ゴブリン共の餌にでもなっている名前もないような獣人だ」


 そして首に突きつけられた銀色に輝く血まみれの短剣を一瞥する。それは───俺の名前が刻まれたものだった。


「実に清々しい気分だ。なぁ?グスタ……お前はこれから領民殺しの罪人になる。そして俺がそれを誅殺した正義の味方だ……なに、後のことは気にしないでいい。お前はそれを知ることなく、ここで死ぬんだからなぁ」


 そしてディディエは自身の金髪を揺らし、首に突きつけていた短剣に力を込め。



「ディディエ、なんで───」


「さようなら、グスタ。お前との腐った日常もここで終わりだ」


 ズシャリとあっけない音が響き。

空に鮮血が舞い散った。









──────

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