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エピローグ


 天界のとある神殿に、応竜の病床がある。


 そこを訪れる人物がいた。


 霊亀れいきだった。


 霊亀と応竜は神獣の中でも古株で、古くからの友人でもあった。


 足首まである、上質な布で作られた衣装を着て、その裾と同じ辺りまで伸びた艶のある黒髪をなびかせながら、霊亀は神殿に入っていった。


 応竜は寝室のベッドの上で上半身を起こしていた。キングサイズの大きなベッドにベールのようなカーテンが途中まで垂れ下がっていて、その隙間から応竜の顔がのぞく。


 そこに霊亀が顔を出す。


「九尾狐をようやく救うことが出来たな」


 霊亀が言うと、応竜は「ああ」と微笑して答えた。


「これでお前の病気もよくなるだろう」


 霊亀は応竜のベッドに近づきながら言った。そしてベッドの側の椅子に腰掛ける。


 霊亀は二十代後半くらいの見た目だが、神獣の取りまとめ役を担っている。真面目で責任感の強いところは応竜と似ていて、二人はとても気が合う。


「それにしても、長い時間がかかったな。あの者もなかなかしぶとい」


「そうだな」


 応竜はあくのみにある神を封じこめた時のことを思い出す。“もと”神と言うべきか。


 天帝に逆らい、下界で暴れたため応竜はその者を成敗しあくのみに封じ込めた。

 すでに地獄の瘴気しょうきや凶悪な妖魔を封じ込めていたあくのみにその者が加わり、蠱毒こどく状態となったあくのみは、やがて意思を持った。

 その意思は元神のものが強く反映されていた。

 そして応竜が目を離した隙に従者の白蛇に取り憑き、九尾狐の中に入った。


 応竜はずっと罪の意識に苛まれていた。衰弱に歯止めがかからなくなっていた時に生まれたのが麗羅だ。


 思い悩む応竜の心が反映されたのか、麗羅は生まれつき予感能力を持っていた。


 その能力を使い、長い時をかけて神の魂を分離する呪文を編み出した。今回九尾狐を救ったのはその呪文だ。

 

 そして結羅を産んだ。


「九尾狐の封印を解けと言ったのも、麒麟と鳳凰に協力を頼むよう言ったのもあの娘か」


「そうだ」


 霊亀が聞くと、応竜は頷く。


「麗羅は予感能力だと言っているが、私は未来を見透す力だと思っている。麗羅には全てが視えていたのだろう」


 そして応竜を救うために尽力した。


「大物だな、お前の娘は」


 霊亀が言うと、応竜は


「全くだ」


と言って笑った。




 麗羅は洞窟の最奥で笑みをたたえていた。その側には魅羅がいる。


「無事、お父上を救うことが出来たのですね」


 魅羅は言った。麗羅は何も言わず微笑んでいる。


「しかし何故、結羅に分離の呪文のことを先に言わなかったのです? 言っていれば結羅は覚悟を決めて戦うことが出来たはずでは」


 魅羅は結羅がここを訪れた時のことを思い出して言う。


 麗羅は目を閉じて、静かに口を開いた。


「一つだけ、分離の呪文であっても九尾狐を救うことが出来ない場合がある」


「それは····?」


 魅羅は息を飲んで麗羅を見る。


「あくのみが分離の呪文があることに気づき、その前に九尾狐の魂を全て取り込んでしまう場合だ。そうなれば九尾狐は消える。あくのみが力をつければそれは可能だった」


 麗羅は目を開けた。


「これに気付いた時、私も迷った。結羅に話していた場合、あくのみに敏感に感じ取られる可能性があった。しかし話さなかった場合も、結羅の精神が持ち堪えられるかという問題があった。封印した後に呪文を発動しなければ、再び丸腰の九尾狐が取り込まれる可能性があるからだ。

 賭けだったが、私は結羅が乗り越える方を選んだ」


 魅羅は微笑む。


「結羅は、打ち勝ったのですね」


 麗羅は笑みをたたえながら静かに頷いた。




 神石のある山の頂上に並んで座り、二人は星空を見ていた。遮るものは何もない。満天の星空だった。


 幻夜は片膝を立てて、空を見ながら言った。


「今まで幾度となく星空を見てきたが、結羅と見る星空が一番好きだ」


 結羅はそんな幻夜の綺麗な横顔を見て、赤くなった目を細めた。


「私も」


 幻夜は結羅の方へ向き直り、まっすぐに結羅の青い瞳を見る。風がサラサラと幻夜の長い銀髪を横に流した。



「ずっと、自分が何のために生きているのか分からなかった。


 でも結羅に出会って分かった。

 

 以前結羅が言っていた言葉を借りて言う。

 


 今まで長い時を生きたが····俺は、結羅を幸せにするために生まれついて、今生きていると思っている。



 俺と一緒に、生きてくれないか?」



 幻夜の赤い瞳をまっすぐ見つめて、結羅は泣きそうな顔で大きく頷いた。



 それを見て、幻夜は晴れやかに笑った。




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