第八十二話 聖女さん修行するよ!
「それで、神木は無事復活したの? 」
私の問いかけにモケゾウとホムラが答えてくれた。
『モケ、ヒヨコが燃やしたから大丈夫モケ〜』
『ホムラ頑張って燃やしたの〜〜、だからましゅたーほめて〜〜』
どちらも嬉しそうにそう言うんだけど………え? 燃やしたの?
燃やすって、燃やす?
私が燃やすという単語に混乱している間も、二人は私が褒めてくれると心から信じた目でこちらを見てくる。
私はそんな可愛い二人を前に、燃やすなんて些細なことだと思い直し、二人を撫でてほめた。
殿下も特に問題ないと言っていたから、きっと大丈夫なはず………。
………神木、残っているんだよね?
それから数日、聖女さんであるリズベッタは連日みんなからご指導されている。
『モケ! もっと気合い入れて魔力出すモケ! 』
『そんなんで聖女名乗ってたでありますか? 』
『カパ〜カパカパ』
『そんな構えで何が切れる! 真面目にやれ! 』
一部、聖女さんと関係ない話も混じっているけど、みんなは真剣に指導している。
私も何か手伝おうか? ってモケゾウに言ったら『主は最後の砦としてデーンっとどっしり構えてくれていれば良いモケ〜。修行を終わらせて主のスゴさを実感させるモケ〜』と言われ、私は何もすることがなかった。
一人暇な私は、ヴォルとお菓子作りしたり、キラとドラにもハンカチマント作ったり、聖女さんに疲れが取れる術式を入れたハンカチを作ったり、平和な日々を過ごした。
そんなある日。
「な、なんで、こんなに優しくしてくれるんですか〜? 」
聖女さんが、ヴォルと一緒に作ったお菓子を修行の休憩中に食べている時に、泣きながらそんなことを言った。
「別に優しくしているつもりはないんですけど………それより涙を拭いて下さい。これ、新しいハンカチです。魔力が気持ち回復する術式縫いこんでいるんで身体が楽になりますよ」
私が手渡したハンカチで涙を拭きながら、聖女さんがまた何か言っている。
「これが優しさじゃなかったら世の中おかしいですよ。いつも休憩中にお菓子を差し入れしてくれたり、キラとドラの面倒も見てくれたり、こんなに凄い術が刺繍されたハンカチを何枚もホイホイ渡してきたり、全部が優しさの塊で出来ています! …………そんな人にあんな怪しい術を撃って、本当にすみませんでした。あの頃の私は、自分が神木を助けなければという重圧に押しつぶされていて………いえ、これは言い訳ですね。本当に、自分が情けないです。………術を撃った私が言うのはおかしいことなのはわかっていますが、あなたが無事でいてくれて本当に良かった」
あの事件以来初めて、聖女さんが心から謝罪してくれた。
ここでの生活で聖女さんの考えも変わってきたように思う。
聞けば神木が枯れることを防ぐようを求められて、過度のプレッシャーを感じているところにガスト家の者があの精霊を無理やり奪う術式を教えたようだ。
神木の為とか言ってきたらしいが、今冷静に考えればエルフ以外が上級精霊と契約していることは好ましくないと常々匂わせていたらしい。
その時は神木を救う為にこれしか方法はないと思い込んでしまったようだが。
神木を助けたい聖女さんの弱みにつけ込み怪しい術を授けたガスト家、精霊王様の元でしっかり罪を償ってほしい。
『モケ〜、主〜大丈夫モケ〜。この間精霊王様のところに行ったらしっかり絞られていたモケから〜』
「………モケゾウ。その絞られるっていうのは精神的にだよね? 物理的に絞られているわけではないよね? 」
『……………ひゅ〜』
出た、モケゾウの吹けていない口笛。
これは完全に誤魔化しにいっているね。
まあ、私も聖人君子ではないから助けようなんて思わないけど。
聖女さんが私に心から謝罪した後、私たちは少しずつ仲良くなった。
呼び方が聖女さんからリズ、あなたからフローラに変わった頃、修行の休憩中のおしゃべりで意外なことがわかった。
「え? じゃあリズは学校に通ったことないの? 」
「ええ。精霊と契約した後は聖女としての仕事をしていたから。ちょっと通ってみたかったですけどね」
そう言うリズの表情は、ちょっととは思えないもので………。
どうせまだこの国にいるんだから、留学ということで学校に通えないかな?
ちょっと相談してみよう。
定期的に招待される王家の皆様のお茶会(もう慣れた)の時に、その事を相談してみた。
「ふむ、あの聖女がそのような事を………」
王家の皆様にはリズの様子を報告してはいるが、やらかした事がやらかした事なのでまだ信頼回復とまではいっていない。
「フローラ嬢の頼みだからな、出来るだけ叶えられるよう手配しよう」
陛下からそう御言葉をいただけたからこれで大丈夫、って安心していたのだけど………。
陛下、ちょっと思っていた展開と違います。




