第七十五話 トナトナお願いね!
なんとも言えない空気があたりを包む。
聖女さんをけしかけてきたエルフは何かわめいているし、聖女さんは泣いてるし、他のエルフの人達は状況がよく分からず戸惑っているし、聖女さんの精霊二体は大きなため息をついている。
一言で言えば、混乱の極み。
ほんとどうしようかね、この状況。
そんなことを考えていた時、ふと良いことを思いついた。
「ねえ、トナトナ。ちょっとお願いがあるんだけど」
私の言葉にトナトナが近付いて来た。
『トナ〜?僕にお願い? 珍しいよね主ちゃんがそんなこと言うなんてさ。これでも僕、聖獣だからね。ちょっとや、そっとじゃ言うこと聞かないよ〜』
からかい口調でそんなことを言ってくるトナトナに、一発でお願いを聞いてくれる魔法の言葉を言ってみた。
「ヴォルのイワシスイーツ、いつもの三倍量でどう? 」
『トナ!! 何でも言って! とりあえずあいつらぶっ飛ばせば良いの? それとも捨てて来る? 』
ピシッと姿勢を正して、なんか怖いこと言っているね。
私はトナトナに近付きある事を頼んだ。
『トナ? そんなことで良いの〜? まあ良いか〜、んじゃちょっと行ってくるね〜』
そう言うとトナトナはあっという間に飛んで行った。
あの勢いならすぐに帰って来るでしょう。
その間にこちらにも一応話は聞いておこうかな。
と思って、けしかけエルフと聖女さんを見たら、既にうちの子達が動いていた。
『モケ! 主に手を出すなんて信じられないモケ! 』
と言いながらモケゾウとフランが、けしかけエルフと聖女さんを、どこから出したかわからない縄でグルグル巻きにしていた。
カッパとマサムネ、ヴォルは他のエルフたちを警戒している。
そんな中、陛下がシリウスさんに厳しい声で。
「シルフィード国は、我が国の民にいきなり攻撃をするのか?! 」
それに対してシリウスさんは。
「い、いえ! そのようなつもりは全くございません! 信じてもらえないかもしれませんが、本当にこちらに攻撃の意思などなかったのです! 」
嘘を言っているようには見えないけど、実際攻撃されちゃってるからな〜。
シルフィード国というよりは、あの二人の独断だとは思うけど、国の代表として来ているんだから、あの二人のせいなのね〜、では話は終わらない。
現に、陛下も他の方々もシルフィード国の人たちに猛然と抗議している
だいたい人の精霊を無理やり奪い取るなんて、自殺行為でしょう。
聖女さんは上級精霊二体が限界なのに、そこへうちの子たちの誰か………もしくは全員が、聖女さんと契約がなされていたら、聖女さんは無事では済まなかったはずだ。
私だから聖女さんの精霊二体を受け入れても大丈夫だったけど、違う人ならやっぱり危なかったと思う。
「フローラ嬢、お身体は大丈夫ですか? 」
殿下が、あのシルフィード国と陛下たちとの言い争いから抜け出て、私の方へ心配そうにやって来た。
「はい、なんともありませんよ。殿下からいただいたこのペンダントに、これでもかといろいろ術式を付与していたので………あ」
しまった!
殿下には、もらったペンダントにいろいろ仕込んでしまったことは、秘密にしてたんだった。
私が一人焦っていると殿下が。
「フローラ嬢………ありがとう! そんなにそのペンダントを気に入ってくれていたのですね! 沢山の術式を付与するのもさすがです。昔とそこはお変わりないのですね。そのペンダントはもうフローラ嬢の物です。好きにしてくれてかまいませんから………沢山身につけて下さいね? 」
「あ、ありがとうございます」
美形の王子に微笑まれながらそんなことを言われたら、つけなければいけないような気がしてくる。
おそるべし! 美形!
さて、私はどうしようかな〜。
あ、そうだ、聖女さんの精霊二体をなんとかしないと………。
「ねえねえ、とりあえず君たち、名前は何て言うの? 」
私は新しく契約が結ばれてしまった二体の精霊に聞いてみた。
『あ、はい! 私が「キラ」です! 』
『わいが「ドラ」言います』
キラが黄色い髪の毛の女の子型、ドラが黒髪の男の子型の精霊だ。
「キラとドラね? よろしく………で良いのかな? 良くないよね? 二人はもちろん聖女さんのところに帰りたいでしょう? 」
私の問いかけに二体は顔を見合わせ。
『『しばらくお世話にならせて下さい!! 』』
と合わせて言ってきた。
「え?! 聖女さんは良いの? 」
二体は困った顔をしながら小さく頷いた。
『今の状態で戻れたとしても、あの子のためにはならないもの』
『さすがにこれはダメなやつだからな』
どうやらこの精霊たちの方が、保護者のようだ。
そんなことを考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
『主ちゃーーーん!! 』
トナトナが帰って来た。




