第七十三話 聖女さんがキレたよ!
シリウスさんの迂闊な発言で、この場の空気が冷え込んでいる。
殿下を筆頭に、陛下や宰相、エリー様も笑みを浮かべながら威圧感を出すという、なかなか器用なことをしている。
うちの子たちは怒るかと思ったけど、よく考えたら私がいるところについてくるから、私が移住したいと思えばそれで良いようだ。
でも、まあ、私に移住の意思はこれっぽっちもないので………。
「私はこの国が好きなので、他の国には行きませんよ」
すぐに断ってみた。
シリウスさんの他、シルフィード国の人達がみんなが、浮かべていた笑顔のまま固まった。
逆に何故行くと思ったのか………。
「あ、いや、それは……我が国に来ていただければ、聖女として一番尊い存在になれるのだよ? 」
「あ、そういうのはいらないんで」
またしても秒で断ってみた。
シルフィード国の人達は、何故私が断るのか心底わからない、という顔をしている。
その中で一人、聖女さんだけが怒りの表情を浮かべていた。
「………んで、………して」
何か言っている。
私がなんて言っているのか再度確かめようと聖女さんを見つめてみると、その瞬間聖女さんがキレた。
「なんで聖女を望んでいないあなたが、複数の精霊と契約出来るの!? 尊き存在になれるというのに、どうしてそれを拒否するのよ!? 私は努力の末にどうにか二体の精霊と契約出来たというのに! 力がいらないなら私に譲ってよ! そうすれば………」
聖女さんがキレて、そんなことを言った直後、彼女の近くに精霊が現れた。
たぶんアレが彼女の契約した精霊なんだろう。
『このおバカ!! 何言ってんのよ! バカなの? バカなんだよね? 』
『いや、本当に死にたいん? 自殺願望でも持ってたん? 』
二体の精霊は出て来て早々に、契約者である聖女さんを罵り出した。
『どうしたらそんな考えになるの? いくら追い詰められているからって、いきなりそんな子供に当たるなんて大バカものよ!! 』
『そうだぞ! あっちの精霊からの圧力ヤバイやろ?! 俺たち秒で負けるからな? 』
二体の精霊は代わる代わる、聖女さんを口撃している。
『やり方が本当に雑だわ! もっと言い方ってあるでしょう?! 明らかにこっちの方が頼みごとあるのに、上から目線とか何様よ!! 』
『おい! よく見たらあっちの精霊、蒼き鬼神おるやん!! 他にもその部下勢揃い………よし! 土下座しよう! しょうがないから俺も付き合ってやる! さあ、早く! 一秒でも早く謝罪や!! 』
そう言うと、今度は聖女さんを無理やり座らせ、土下座の体勢に持っていった。
鮮やかな手腕である。
そして自分たちもその横に正座して、見事な土下座を見せてくれた。
『この度は、うちのバカがすみませんでした! 』
『ほんにんにはよ〜〜〜く、言い聞かせるんで、見逃して下さい!! 』
………どういう状況?
聖女さんは半ば強引に、土下座させられている。
そして二体の精霊は、見事な謝罪と土下座を見せてくれている。
困った私はモケゾウを見てみた。
するとモケゾウがスッとやって来て。
『お前たちは僕のこと知っているみたいモケね? 僕の部下のことも』
モケゾウの言葉に、二体の精霊は大きく頷いている。
『もちろん知っています!! 』
『各地の暴れている精霊をぶちのめしている、伝説の存在! 知らないわけがない!! 』
二体はモケゾウのことをキラキラした目で見ている。
やっと会えた、憧れの人みたいな感じで。
『モケ、なら、お前たちの契約者が、なんで僕の主に喧嘩売って来たのか、言えるモケね? 』
『『それは………』』
二体の精霊は聖女さんの顔を見た。
聖女さんは二体に絶対に言うなと言うように、しきりに首を横に振っている。
精霊たちがどうしたものかと困っていると、シリウスさんが口を開いた。
「不快な思いをさせてしまって大変申し訳ありません。我が国の聖女がこのようなことをしたのには、我が国が置かれている状況に理由があるのです」
「シリウス様!! 」
聖女さんが慌ててシリウスさんを止めようとしている。
「良いのです。もとより、素直に助力を求めれば良いのに、おかしなプライドでそれが出来なかったのですから。ベルンハルト嬢、何度も不快にさせてしまい申し訳ありませんでした。ベルンハルト嬢の契約精霊の皆様方もすみませんでした。………このような形になってしまってからお願いするのは、大変不躾なことだと重々承知しているのですが、どうしても聞いていただきたいことがあるのです! 聞いていただけませんか?」
私とモケゾウは互いに見つめ合い、小さくお互いに頷いた。
『………良いモケよ。聞くだけ聞くモケ』
モケゾウのその言葉にシリウスさんが話し始めた。




