第六十五話 未来視使うってよ!
「殿下、あの魔族なんかちょっとアレですよね? 」
「ええ。モケゾウ様の仲間を捕まえて、魔力を抜いて弱らせてた割には、何故か私たちの心配をしているようですし………」
私と殿下があの魔族について感想を言い合っているうちに、魔族は魔族で。
「もしかしてそこのちびっ子は腹が減って動けぬのではないか? ふむ。まったく手がかかるものだ。だがしかし、この魔族の中の魔族のこの私が施しをやろう! 」
そう言うと魔族は、近くにあった袋の中に手を突っ込み、ゴソゴソ漁り始めた。
何かを探しているみたいで袋の中を覗き込んでいる。
ようやくお目当てのものを見つけたのか、満面の笑みで何かを取り出した。
「さあ!ちびっ子よ。これを食え! 」
魔族が取り出したのは、綺麗にラッピングされたクッキーに見える物体だった。
何故この場面であんなものが?
私が戸惑っていると。
「ちびっ子が遠慮することはない。さあ、食うがいい! この魔族の中の魔族、ヴォルガノフ様が作った物だからな、味も一級品だ。別に毒物など入っておらん。どうせそこの精霊どもなら、怪しいものが入っていればわかるのであろう? 見てもらってから食えばいい。今回は特別だぞ。なんと普段は入れない木の実を入れた物もある。ちびっ子はリスの獣人なんだろう? ほれ、我慢せずに食べろ。そしてとっととここから出て行け。今からここは魔法が飛び交って危険な場所になる」
本当に、なんなのこの魔族?
マグニーを捕まえてた悪い奴だとはわかっているんだけど、なんか根っからの悪人にはどうしても思えないんだよね。
私の気持ちがわかったのかモケゾウが私の近くまで飛んできた。
『主〜あいつ倒さずに、ぐるぐる巻きにしてみるモケか〜? 』
「そう………だね。マグニーに酷いことしたのはわかっているんだけどさ………」
私が迷っているとマグニーが話しかけてきた。
『隊長の主さん。おいら捕まって、魔力は取られてヘロヘロだったども、食べ物はもらってだ。たぶん今主さんに渡そうとしているお菓子と一緒だ。だからおいらのことは気にせず、やりたいようにやってくれだよ。おいら達は隊長に従うだ』
マグニーが私の背を押してくれた。
そうだね、話が通じるなら話してみた方が良い。
「うん、決めた。モケゾウあの魔族出来るだけ傷付けないで捕まえられる? 」
『モケ〜、任せてモケ〜』
モケゾウが胸を張ってそう言ってくれた。
「おい! 早くしろ! お前らそんなちびっ子を犠牲にして良いのか?! まだ十歳にもなっていないんだろ? 私は子供を攻撃する趣味はない。とっとと連れて行け! 」
相変わらず私を、この場から引き離そうとしている。
そこへモケゾウが話しかけた。
『モケ〜、おい、そこの変な魔族。主はここにいて大丈夫モケ。何故なら僕達はお前に負けるわけないモケから。とっととやるモケよ〜』
モケゾウがそう言いながら拳をシュッシュとしている。
「精霊のくせになんでそんなに武闘派なんだ? 普通精霊は、もっとこう、ふわっとした感じじゃないのか? あのちびっ子がお前の主なんだったら、大事な主を安全なところに連れて行くのが普通ではないのか? 」
ものすごくマトモなことを言っている。
『主はとっても強いモケ。だから大丈夫モケ。良いからとっとと「未来視」っていうの使ってみるモケよ〜。完全完璧って言ってたモケから楽しみモケ〜』
モケゾウは本当に楽しみにしているらしく、見るからにウキウキしている。
フラン、カッパ、マサムネ、マグロー、マグニー、それにトナトナも一緒になって期待に満ちた目であの魔族を見ている。
「な! なんでそんな目で私を見てくるのだ?! お前たちわかっているのか? 今から使う未来視はお前たちの攻撃が全部わかるんだぞ! それに加え、私は完全完璧な魔術師でもある。お前たちの攻撃は全て避けて、私の攻撃は全て当たるのだぞ?! 」
それを聞いてもモケゾウたちの態度は変わらない。
そんな態度に魔族は苛立ち、待つ気は無くなったようだ。
「いいだろう。お前たちがそういう態度であるなら、私ももう本気でやってやろうではないか。あとで後悔しても知らんからな!!………して、本当の本当にちびっ子はそこにいてもいいのだな? 」
最後まで私の心配をしている。
願わくば、大きな怪我もなく捕まってくれ。
「では、お前たち構えるがいい! 私の未来視を発動してやろうではないか!! 」
そう言って魔族は目を閉じた。
そして数秒………。
魔族が小さい声で何か言っている。
「え? 待って。なんでそんなところから攻撃来るんだ? ………は? 私の攻撃直撃したよね? なんで無傷? っく、諦めん! これならどうだ! …………え? 精霊ってみんな武闘派なの? ちょっ! 何故トナカイが巨大化してるんだ?! 意味がわからない………」
気付くと魔族は………戦わずにその場に土下座していた。




