第六十三話 ローブの下は?
助けられたマグニーはお腹が空いてヘロヘロになっている。
どうやら魔力が最低限を残して、なくなっているらしい。
『主〜、マグニーに魔力あげてほしいモケ』
大丈夫だよ、モケゾウ。
頼まれなくたっていっぱいあげるから、だからそんな顔しないで?
「マグニー。私はモケゾウの契約者のフローラって言うの。今から魔力を送るから、受け取ってね」
私はそう言うと、マグニーに少しずつ魔力を流した。
『あ〜〜〜』
なんだろう、このマグニーのお風呂に入った時のような声の感じの声は。
マグニーは目をつぶって、リラックスしている。
まだ、行けるか? と思って魔力を送ってみていたのだが………。
『………主。やり過ぎモケ』
「うん。なんかごめんね? 」
お腹が空いてて可哀想と思い、魔力をあげすぎてしまった。
さっきまでマグローと瓜二つだったマグニーは、丸々と太ってしまった。
『あんなに美味しい魔力は初めて食っただ! 隊長の主さん、ありがとうだよ』
丸々になってしまったが、マグニーは嬉しそうにお礼を言ってくれた。
そんなマグニーを見て、マグローも魔力を欲しそうにしてたから、後であげる約束をしておいた。
とりあえず、未だ呆然としているあの怪しい人をなんとかしないと。
かなりのショックを受けているから、あの扉によっぽど自信があったんだろうな。
それをまさか、あんな方法でぶち破られるとは………。
マグニーのことを捕まえてた人みたいだから、同情はしないけどね。
「なんでこんなことに!!」
急にあの怪しい奴が叫んだ。
「この私の完璧な作戦が………」
なんか独り言が始まったよ。
「一人でフラフラしている上級精霊を捕まえて、備わっている魔力を抜き取り、それを使って私の強化をしようとしていた矢先に………この私が作った完全完璧なる扉を!! 何処のどいつが、引いて作動する罠を避けて、無理やり押し込んだんだ?! 非常識過ぎるだろ! 」
あ、自白した。
そしてうちの子を非常識扱いした。
どっちが非常識だ、あんな危ないものを作って!
それにマグニーだって、あんなにフラフラになるまで魔力を抜くなんて。
一人で盛り上がっている怪しい人物は、興奮し過ぎたのか被っていたローブが外れた。
すると中から現れたのは………。
「「………魔族」」
私と殿下の声が重なった。
あの特徴的な角、そしてあの背中の違和感、あれは背中に翼がたたまれている。
ローブの中から出てきたのは、今世ではお目にかかったことのない、魔族と呼ばれる種族の男性だった。
前世でも魔族はレアだった。
私の部隊に一人だけ存在しただけだった、それも純粋な魔族ではなくハーフ。
しかし目の前の魔族は、私の部隊にいたハーフの子とは違いしっかり魔族の風貌をしている。
前世、魔族とは敵対関係ではなかった。
お互いに住んでいる地域が違ったため、特に交流もなかったし。
今世では、魔族の扱いってどんな感じなんだろう?
私は小声で殿下に尋ねてみた。
「殿下、魔族って今世ではどういう立ち位置ですか? 」
「そうですね………私も今世では初めて見ました。交流もないです。たぶんあの者を魔族だとわかるのは私とフローラ嬢だけではないでしょうか? あ、精霊様達は違うでしょうけど」
私と殿下がコソコソ話している間も、あの魔族は一人興奮している。
「全く意味がわからない! どうしてこの完全完璧なる魔族の中の魔族、ヴォルガノフ・ヴァンプ様の術の込められた扉が壊されなければならんのだ?! 私の術を破れるものなど、こんな辺境の地になどいるわけがない!! 全く何故私の術が壊されなければならないのだ、理不尽にも程がある! 」
あ、自己紹介している。
やっぱり魔族で間違いないと。
それにしても、よく一人であそこまで盛り上がれるな。
友好的ではないと思うけど、言葉はわかるから意思の疎通は出来る………はず?
マグニーにした行為は許せるものじゃない。
ここであの魔族を見逃すと、マグニーみたいな子が増えてしまう可能性が、非常に高くなる。
とりあえず、話しかけてみるか?
「あの〜」
………あ、ダメだ。
自分の世界に入っていて、私の声が聞こえていない。
どうしようかな〜と思っていたら、モケゾウが動いた。
………あ、問答無用でシュッシュと拳を繰り出し、思いっきりぶっ飛ばした。
「ぶぎゃーーー! 」
壁にのめり込んでる。
あれ、生きてるのかな………。
『モケ! 主の話を聞かないなんて、失礼なやつモケ』
『『さすが隊長だな〜。あの拳に憧れるだ!! 』』
マグローとマグニーが喜んでいる。
精霊だけど、肉弾戦に憧れを持っているのかな?
『モケ。主、何回も言うモケど、僕の拳は魔力を飛ばしているモケよ? 直接殴っているわけじゃないモケ』
何故かそこをいつも強調するけど、見た目は完全に拳で殴っているからね?




