第六十一話 また部下出たよ!
で、辿り着いたこの浜辺。
今も続々とイワシが打ち上げられている。
噂通り、イワシがたくさんいるようだ。
浜辺には漁師さんらしき人が見受けられる。
『おお〜! イワシパラダイスーーー! スゴイいトナ! みんな、早く早くぅ〜、捨てられる前にゲットしに行くよ〜』
トナトナのテンションが爆上がりだ。
もう頭の中は、イワシのことしか考えていないことだろう。
「いや、見事なものだね。こんなに豊漁だったなんて………。確かに城にも報告は来ていたんだ。ここ近年稀に見るイワシの量だってね。でも、これって何か理由があって大漁になっているのではないのかな? 」
殿下が考え込んでいる。
でも、実際、この量は異常だと思う。
「ねえ、モケゾウ? イワシの豊漁の理由って知ってたりする? 」
なんとなく、本当になんとなくとしか言えないけど、モケゾウが理由を知っているような気がした。
『………モケ。知っているモケ』
やっぱり知ってた!
「精霊関係? 」
『モケ。たぶん、僕の部下だモケ』
原因、モケゾウの部下だった!
「えっと、なんでイワシと関係があるのかな? 」
『いつもその部下は海にいるモケど、双子の弟がいなくなったって騒いでるモケ。それで、沖の方で騒いでいるからイワシが追いやられて来たモケよ。気になったからここに来るつもりだったモケど、バカンスがてら主が一緒が良いと思って、トナトナも巻き込んで来ちゃったモケ』
モケゾウが私のことを見ながら『怒ってる? 怒ってるモケ? 』と心配そうな表情をしている。
別にそんなことで怒らないし、私と出かけたかったという言葉は嬉しい。
でも、ここだけはしっかり言っておかないと!
「怒ってないよ。でもね、だまし討ちはダメだよ? 今度からは一緒に出かけたいときや、何か問題があったらすぐに言ってね? 私はモケゾウの主人なんだからね? 」
モケゾウが『もきゅ〜』と言いながら抱きついてきた。
あの頃と変わらず、モケゾウは私の癒しだ。
それを見ていたフラン、カッパ、マサムネが飛びついて来た。
はいはい、みんなも可愛いよ。
………殿下、そんなに物欲しそうな顔をされても、抱きつくのは禁止ですよ?
その行き場を失った手は、しまっておいて下さいね。
「で、モケゾウの部下は今どこにいるの? 」
『モケ〜、たぶんこの様子だとまだ沖で暴れているモケね』
「トナトナに乗せてもらって沖合に出る? 」
『探すの大変モケから、呼ぶモケ』
そう言うとモケゾウは、他の子達を呼んだ時のように召喚陣を作って、その中に手を突っ込んだ。
するとモケゾウが手を召喚陣から抜くと、一緒に青い物が飛び出して来た。
『なんだべ〜! 急においらの手を掴んだのは?! 』
モケゾウより濃い青色の、モケゾウに似た子がそこにはいた。
頭の横、人間なら耳のある位置に魚のヒレみたいのが付いている。
『モケ〜、久しぶりモケね? 』
『あ………た、隊長? 』
『そうモケよ〜』
『お、お、お久しぶりだべ! こんなところで隊長にお会いできるなんて………。うん? あれぇ〜。みんなも久しぶりだべな! うん? 人間? 』
『そうモケ〜。僕の主モケよ〜』
若干モケゾウが、胸を張って私を紹介してくれる。
部下の子はビックリした顔で私を見ている。
『え? この子供のリスだべか? いや、だって隊長、言ってたべ。僕の主はガチムチのムッキムキで、クラーケンだって、竜だってひねり潰せる最強の人間だって。どう見たってこの子リスじゃ、りんごも潰せないべ?』
なんか前も同じようなことがあったような?
しかし、モケゾウったら、部下にどんな風に私の話をしたんだか。
『主は、転生したモケ。今は子リスだけど、これからスクスク育つモケ。ね?主? 』
目をキラキラさせて私を見つめてくるけど。
「えっと、筋肉ムキムキにはならないかな? 」
『ならないモケか〜』
とにかく、私たちはモケゾウの部下のマグローに話を聞くことにした。
双子の弟のマグニー、この子もモケゾウの部下みたいなんだけど、マグニーが姿を消したのは一ヶ月ぐらい前らしい。
普段から別に一緒にいるわけじゃないけど、それでも三日に一度は顔を合わせていたとか。
それが顔を見せなくなって、連絡が取れないことに気付き、探すために海の中を爆走していたらイワシが逃げて、大漁につながったようだ。
「ねえ、そのマグニーもモケゾウの部下なんだったら、さっきみたいに呼び出せないの? 」
『それなんモケど、何かが邪魔して届かないモケよ』
「モケゾウの力が届かないって、相当じゃない? 」
『モケ〜、たまに届かないことはあるモケど、何回やっても駄目モケから、やっぱり邪魔してる何かがあるモケね』
それじゃあ、マグニーを探すのは困難かな? と思っていたところ、イワシでテンションがおかしくなっていたトナトナがやって来た。
『ねえねえ、主ちゃん! なんかね、この辺に漂っている精霊に聞いたんだけど、変な気配がする場所があるんだって! ねえ、探検しに行ってみようよ〜』
変な気配って………このタイミングでってことは、もしかしたらマグニーに関係あるかも!
でかしたトナトナ!




