第五十一話 トナトナの正体は!
「トナカイって飛ぶっけ? 」
『モケ? トナトナは普通のトナカイじゃないモケ』
「うん、それはすぐわかった」
ヌイグルミが巨大なトナカイになる時点で、普通じゃないって私だってわかるよモケゾウ。
今私達はトナトナに運ばれている。
結構スピード出てるけど風圧を感じない、たぶん魔法で防いでくれているんだね。
たまに下を覗くと、空飛ぶトナカイを見つけた人がびっくりしながらこちらを指差しているのを見かける。
空飛ぶトナカイ………一つだけ心当たりがある。
前世での言い伝えレベルの話だけど………。
「ねえ、モケゾウ。もしかしてトナトナって………聖獣? 」
『そうモケ』
あっさり肯定された。
神話とかでしか出てこない存在だぞ。
なんでモケゾウ友達してるの〜?
『あはは、崇め奉ってイイよ〜。まあ、今はある国の守護者的立場なんだけど最近お供えくれないんだよね〜。だからこうやって自由に動いてるトナよ〜。あ、ちなみにお供えはイワシでお願いしまーす』
軽い、非常に軽いよ聖獣様。
しかし、守護者を放置している国って大丈夫かな?
完全に自由だよ。
ところでそんな聖獣と友達のモケゾウって私と離れている間にどんだけ凄くなっちゃったの?
こんなに可愛いのにね。
私はなんとなくモケゾウの頭を撫でてみた。
それを見てた他の子達も寄って来たからとりあえず全員撫でといた、うんみんな可愛い。
『あ、イイなぁ〜、僕も撫でてもらいたいトナ。小さくなったらヨロシクだよ! 御利益あるよ〜』
あとで撫でるんで前向いて飛んでもらって良いですかね?
まあ、その後もトナトナのおかげで快適な空の旅が出来た。
「陛下、隣国から王自ら来るそうです! 」
「ふん、王自ら迎えに来るか………」
さすがにこのまま戦になるのは不味いと思ったのかもしれんな。
そこにあの女の話を聞きに行っていたエイドリアンが戻ってきた。
「兄上、あの女と話してきたけど………本当に腹が立つ。さっきの魔法陣、隣国の王族が自分の身に危険がある時に使用するもので、本来であれば自分が敵対していると思っている者全てを吸い込むまで止まらないモノだったらしいわ。でも、フローラちゃんが自分の身の危険も顧みず魔法陣を消滅させてくれたから、被害が抑えられた………。どうやら勝手に宝物庫から持ち出してきたみたいよ。それから、隣国から来ていたお付きの者達も魅了されていたみたいね。フローラちゃんがくれた予備のお守りをもたせたら、魅了されていた時の記憶はあるけど頭にモヤがかかった状態だったって言っていたし、すぐに謝罪してきたわ」
「そうか、どのくらいの範囲で魅了を使えるかわからんが目に見えない魔法は厄介だな」
「それから魔法陣の転移先だけど、やっぱりランダムらしくてわからないらしいわ。ただ全員同じ場所に転移しているみたいだけど」
そんな魔法陣を他国で使うなんて殺されても文句は言えないだろう。
隣国の王がどういうつもりでこんなのを、うちの国に入れて来たのかわからない。
二日が経った。
今日、隣国の王がやって来る。
まだフローラ嬢達の行方はわからない。
高位貴族達も自分達の領地を調べているが目撃情報も出て来ない。
もしかしたら自国内ではない場所へ転移していたのかもしれない。
王妃とミランダは体調を崩したので部屋で休ませている、リースは………冷気が漏れて誰も近付けない。
ベルンハルト子爵夫妻には本当に申し訳ないことをした、大切な令嬢を守るどころかこちらが守られてしまったと謝罪した。
責められてもしょうがない話なのに夫妻は泣きながらも、陛下達にお怪我が無くて良かったと気丈にも言ってくれた、しかしそのあとすぐに夫妻は倒れてしまった。
フローラ嬢がいなくなってしまい皆が悲しんでいる。
とにかく無事に帰って来てくれたらと願うばかりだ。
「この度は我が娘が迷惑をかけ申し訳なかった。何故こんなことをしたのか………。あやつは我らの前では大人しい姫であったから………」
「ふむ、噂とは違うと言いたいのかザンガス王。こちらに入って来ていた噂では姫は婚約者のいる男性にも寄って行っていたと聞いたが? 」
「そ、それは………」
「大方、あわよくばうちの王弟に嫁がせてしまえば良いと思っていたのだろう。魅了まで使うとは舐められたものだな」
「み、魅了?! 」
「知らなかったのか? うちの王弟に会うなり魅了の力を使っていたし、効かないとわかったら他の者にも使用していたぞ。それから姫と一緒に来ていた付き添いの者達も皆魅了されていたようだ。今は全員解呪しておる。その上転移の魔法陣で騎士と我が国の宝を何処ぞへか転移させたのだ! 」
隣国の王ザンガスが項垂れている。
本当に知らなかったのかどうかは関係ない。
このままフローラ嬢が帰って来なければ戦争は回避出来ないのだから。




