第四十九話 なんか懐かれたよ!
さあ、久しぶりの運動だ。
私は二本のナイフを持ちながら魔獣の方目掛けて走った。
魔獣達はモケゾウとマサムネに翻弄されていた、あの子達は小さいからなかなか的が絞れないようだ。
その点私はあの子達よりは大きい。
しかも見た目は可愛らしい子リス、魔獣達は目標を私に変更するのもおかしいことではない。
でもね………その選択ははたして正しいのかな?
私は向かって来る狼型の魔獣にすれ違いざま二本のナイフで斬り付ける。
流石に今の腕力では真っ二つは無理か。
………でも、方法がないわけじゃない。
私は昔を思い出しナイフに魔力を流す。
するとナイフは真っ赤に染まり、その刃からは炎が舞い上がる。
私は魔力を乗せたナイフで再度狼型の魔獣と対峙する。
魔獣とはいえやっぱり獣、本能的に火を怖がるようで私の持つナイフを警戒しているようだ。
だけどやっぱり目の前の美味しそうな獲物を諦めきれないのか、私に突っ込んできた。
私はその攻撃をさっと避け、勢いよくナイフを振るった。
先程とは違い刃が通り、狼型の魔物は呆気なく倒れた。
うん、問題なく戦える。
その後は私たちの独壇場だった。
モケゾウの拳に魔力を乗せたシュッシュ、マサムネの可愛いけどよく切れる剣、そして私の魔力を乗せたナイフ、次々と魔獣を叩きのめしていく。
『モケ〜、主、楽しいモケか? 』
「うん、久しぶりに身体を動かせて楽しいよ。モケゾウも楽しい? 」
『モケ〜、僕は主が楽しそうなのを見て嬉しいモケ〜。だから、僕も楽しいモケ! 』
そう言うとモケゾウは大きい熊型の魔獣目掛けて飛んで行った。
モケゾウが拳を振るう、どう見ても魔法攻撃じゃなく物理攻撃に見えるのだけど。
五十体ほどいた魔獣はほぼ倒した。
珍しい魔獣も何匹かいたからお宝ザックザクだね。
戦闘が終わってから周りを見渡してみたら、ここ、貴重な薬草や花がワサワサと伸びているではないか。
人が入り込まない森のようだから繁殖しまくったんだね。
よし、これももらっていきましょう!
っと、その前に騎士様達の様子は………。
おぅ、何故か皆様こちらをやたらキラキラした目で見てくるのだけど?
何だろう、例えるならずっと憧れてた人に会えて嬉しくってたまらない、みたいな?
とりあえず傷の手当てでもしますかね。
久しぶりのアレやっておこうか。
「モケゾウ! 無限毛玉の術! 」
『もきゅー』
モケゾウが伸縮する。
すると騎士様達の上から毛玉がフワフワと舞い降りた。
毛玉が騎士様達の傷に触れると、毛玉は溶けて消えて騎士様達の傷も癒えた。
突然現れた毛玉と傷が消えたことに騎士様達はびっくりしている。
「あの! リース殿下の婚約者のベルンハルト様でお間違い無いでしょうか? 」
騎士様達の中でもリーダーっぽい人が話しかけてきた。
「はい、フローラ・ベルンハルトと申します」
「やはりお間違いないのですね。しかし、何故ベルンハルト様がこのようなところに?………まさか?! あの隣国の姫に無理矢理こちらに送られてしまったのですか? 」
リーダーっぽい人の言葉に周りの騎士様達が怒り始めた。
「こんな小さな可愛い令嬢になんてことを! 」
「王弟であるエイドリアン様にも不敬な態度だったぞ」
「それより、ベルンハルト様はなんであんなにお強いのですか?! 」
最後の人の質問に他の騎士様達も食いついた。
「ナイフだけで狼型の魔獣を倒すなんて」
「あのナイフ真っ赤になっていたよな? 」
「それにベルンハルト様の精霊達もみんな凄かった! 」
騎士様達の勢いが増した。
みんな私の強さに興味津々らしい。
何か良い言い訳あるかな〜。
そんなことを考えていたらモケゾウが騎士様達になんか説明し始めた。
『モケ〜、主は王子の婚約者(仮)になっていろいろ大変モケ〜。だから僕たちが主が自分を守れるように鍛えたモケよ。主はできる子だからスクスク成長して魔獣も狩れる子リスになったモケ』
モケゾウが一生懸命説明してくれたけど、それで納得してくれるかな?
「ベルンハルト様は大変努力されたんですね! 」
「こんなに小さく可愛いうえにお強いなんて………」
「俺、ベルンハルト様についていきます! 」
おいおい、最後の人、ついて行きますってあなた騎士だから。
なんて思うのはどうやらこの場で私だけだったようだ。
「そうだな! 」
「俺達ベルンハルト様に今回は守られてしまいましたが、今後は盾になれるよう頑張ります! 」
「我らが戦姫様の為に!」
そうだった。
前世もそうだったけど、基本獣人の、戦うことがお仕事の人達は脳筋が多いんだった。
なんか強い人に惹かれるらしい。
完全に懐かれてしまった。
………まあ、みんな無事だったからいいか。
持って帰るお宝もいっぱいだから人手があるのは良いことだよね?
『モケ〜、主の部下が増えたモケ〜。今度僕が指導しておくモケ〜』
モケゾウさん、その人達は私の部下ではないですよ。
それから、指導って何するつもりなのかな?




